会話、小話、幕間、閑話
花霞と橘花
「例えばの話なんだけど」
午後の授業が担当教員の都合で自習になり、課題も済んで暇を持て余していた頃。
後ろの席に座る橘花がおもむろに言った。
「私がお姫様だとするじゃん」
「はいはい面白い面白い」
「怒るよ」
「いや、仮定として橘花がお姫様っていうのがもう面白い」
「それはそうなんだけど、そうじゃなくて」
「面白いのは認めちゃうんだな」
「花霞ってなんで私が話し出したら腰折るの?」
じとーっと俺を睨む橘花だが、やはり愛らしさが勝って迫力がない。
「で、お姫様が何だって?」
話自体はそれなりに気になるので、先を促す。やや口をとがらせながらも、橘花は続ける。
「私がお姫様だとしたら、花霞と咲花は何だろうなって」
「……うーん」
数少ない友人ではあるが、俺たちは何かと橘花に振り回されがち。お転婆な姫の付き人、執事や使用人というのが妥当だろう。橘花がどこの誰とも知らない人間から林檎を売られて口にしようとしていたら、毒が入っているかもしれないと止めるだろう。
「見てほら、美味しそうな林檎貰ったー」と笑顔を浮かべる橘花を安易に想像できる。「食うなバカ」と言う俺と、「知らない人から物貰ったらダメだろ」と意外と冷静に諭す咲花も容易く思い浮かぶ。
けれどそれを認めてしまうのは少し癪にさわる。なので一つ皮肉を返しておく。
「橘花」
「なに?」
「お前は毒林檎を売る方が似合うよ」
キレ散らかした橘花はしばらく口をきいてくれなかった。
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