冬 その2
一年の計は元旦にあるというが、今年の元旦に計画を立てた覚えはないし、何をしていたかも定かではない。いつものように部屋で寝転がってゲームをしていたかもしれないし、テレビを見ていたのかもしれない。少なくとも、今のように公園のベンチに座ってなどいなかった。
「さっむぃ……」
「ほんと寒がりだよなー」
「お前はいいよな、寒さに強くて…」
「んー、まあ寒いは寒いけどな」
隣に座る咲花は手袋もマフラーもしていない。ダウンジャケットの下もトレーナー一枚だというし、雪までちらついている日に正気とは思えない。
「橘花来ねえなあ」
初詣行こうよと言い出した張本人である橘花は絶賛遅刻中。どうせなら三人で新年迎えたいよねーとかほんわか笑う橘花に絆されて、のこのこ来たらこの仕打ちだ。何だか腹が立ってきた。
ぴこーん、と、俺と咲花のスマートフォンが同時に鳴る。三人のグループに橘花が何か送ったらしい。スマホを手にしていた咲花がそれを読み上げる。
「『家出ようとしたけど寒くて無理』だってさ」
「…………」
橘花はこういう奴だ。
もう二回、ぴこんぴこんと通知音が鳴る。再度読み上げる咲花。
「『だから紅白とジャニーズのカウントダウンライブ観ながら年越しそば食べよ』『材料買って私の家集合ね』」
「一回くらいシメるか」
「やめとけ。俺らは橘花に手出せねえ」
何だかんだお前優しいからと付け加える咲花は、呆れと諦めが混じったような複雑な笑みを浮かべていた。
俺が深いため息を溢したのと同じタイミングで、咲花は立ち上がる。
「年越しそばって何入ってたっけ?」
「あー……油揚げ、かまぼこ、刻みねぎ、海老天とか?」
咲花の問いに、普段より幾分か重い腰を上げながら答える。身体が冷えると動作が遅くなって仕方ない。これだから冬は苦手だ。
「橘花って海老嫌いじゃなかった?」
「いや、あいつ好き嫌い多いからいちいち覚えてない」
「まあいらないなら俺食うからいいや、買ってこ」
歩きながらスマホでメモをとる咲花と、鞄から財布を取り出して中身を確認する俺。真冬の寒風を受けながら、来年も橘花に振り回されるんだろうなあとしみじみと思った。
ちなみにそばの具材を買っていったら橘花が「やっぱりラーメン食べたいかも」とか抜かしたのは別の話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます