空の器

朝靄と共にとなって消えて欲しいと願っていた。


いつもより遠くに感じる車の音。鳴らない窓の音。

身の回りにあったと思う物さえ、今は遠い。

声に出さずに消そうとした喉のつかえは、空虚な身のうちに、淀みとなった。


朝露のその中に香った花のつぼみは、露に濡れて、指先を濡らした。


1日の始まりを告げる小鳥の羽音、会話、飛び立つ2つの影。

手を伸ばしさえしなかった、当たり前の風景。澄んだ水滴が1日の始まりだった。


声に出来ずに消えた痛み。

声にせずに消そうとした痛み。

淀んで澱んでたしかにここにある。


満たしたいのは開かない蕾のしずく。

満たしたかったのは。

満たしたかったのは。


綺麗な器に入ることなく。

入れることも無く。

澱んで気づいた器という幻想に。


そこにある照らされない洞に。

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