空虚

@nahako

空虚

5畳の箱。時計の音、換気扇の音、扇風機の音、通りすぎる車、その振動で鳴る窓ガラス。


伸びた髪の毛、揺らいで顔に当たる毛先、不規則に過ぎ去って。


指だけが縦横に動く。文字を探すようだ。空虚な身のうちに浮かぶ塵を集めて、集めて、掬いたくてこぼれ落ちていく。なにも無い。


むせるように香る青い香り。杉が、桜が、紫陽花が、稲が、椛が、葉を鳴らす。過ぎ去る音に覆われて、青くて赤い空を見上げた。いつか灰色になった空から塵が降って。鳴らした音は塵に消されて踏みしめるわたしの音になる。


音が踏みしめたものは、固くなり、その下に青い命を守った。


青い香りは二度と手に入らない。身のうちに、残った塵は。形に鳴らず、新たになることは無い。


5畳の箱。指が鳴らす音さえ掻き消えて。青に憧れて、身のうちを黒に染めた。

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