第34話 決戦 VSドラゴン  ※まとめ読み推奨

 山奥の里、早朝。俺は山奥の里の北門、そのてっぺんに座っていた。

 

「来たな……」


 爽やかな朝の空気が禍々しいナニカを含んだものに変わって、俺の隣に居たベルドットがボソリと呟いた。門の周りの戦士たちへと合図を送る。みな、臨戦態勢を取り始めた。


「ゴリウス、頼む」

「ああ」


 俺はひとり門から飛び降りると、入り口に立ちふさがるように外に立った。しばらくして、

 

 ──ズガガガガッ! と遠くから音を立てて、周辺の木々をなぎ倒しながら、強力なドラゴンブレスが里の門へと迫ってきた。


「フンヌッ!」


 俺はハンマーを力いっぱいに振る。その風圧の威力でドラゴンブレスをかき消した。


 ……やはり、全力ではないか。


 ドラゴンブレスが残した痕を見て、俺はハンマーを握る手に力を込めた。何百mも先から撃ったその一撃は確かに強力なものだろう、えぐられた地面を見ればわかる。しかし、里を滅ぼすほどのものではない。


〔グォォォッ!〕

「出やがったな……!」


 荒れ果てた木々の先、そこで巨大なドラゴンが吠えた。『とうとう里を見つけてやった』と言わんばかりに嬉々として。ドラゴンはその翼を広げ、一瞬のうちに空へと消える。


「ゴリウスっ! 一度里の中へ戻れっ!」

「承知した!」


 ベルドットの指示に素直に従うことにする。恐らくドラゴンは自ら山奥の里へと乗り込んでくるつもりだろう。であれば戦場は里の中だ。


 ……ドラゴンは知性が高いからな。それゆえ、よく里を使って遊ぶ。


 あのドラゴンが持つ力ならば、一撃で里を滅ぼすことだって可能だったろう。しかしヤツらドラゴンはそう簡単に里を滅ぼしたりはしない。ヤツらは人間を自分たちから隠れて暮らすオモチャ程度にしか思っていない。だから見つけ出して殺し、壊すことをたのしんでいるのだ。

 

「弓兵、構えぇーッ!」


 ベルドットの声を背後に聞きつつ、俺は里の入り口近くにある中で1番高い建物へと跳びついてよじ登った。


 ……さあ、来るなら来い。


 覚悟を決めて空を見上げたその時だった。


〔グォォォッ!〕


 地上100メートルの位置、飛竜種たちから里を隠すために巨大な木々の枝葉に覆わせていた緑の天井を、ドラゴンが突き破りその姿を現した。


「射れぇーッ‼︎」

 

 ベルドットの掛け声と共に、弓兵たちがドラゴンへと向けて矢を射る。ベルドットもまた、アザレアが持っていた弓よりも大きなソレを構え、自身の体ほどもある巨大な矢を番えた。引き絞った弓の弦がギュアンギュアンと恐ろしい悲鳴のような音を上げる。


 ──それは【バリスタ】。その破壊力は8メートル級のワイバーンすら一撃で仕留めるほど。


 ゴリウスがこの里に来るまでの間、名実ともに山奥の里ナンバー1の戦士だったギルド長──人呼んで【鬼哭おになき】のベルドット。その巨大なバリスタの矢が空気を引き裂いてドラゴンへとはしった。


「いっけぇぇぇ!」


 戦士たちの声が響く。そしてさらに多くの矢が飛んでいく。熟練の戦士たちによる矢の嵐に、しかし。


〔グォォォッ!〕


 ドラゴンは避けさえしない。ベルドットの矢を含め、全ての攻撃がやすやすとその鋼のウロコに弾かれた。


「くそっ、硬すぎる……!」

「ギルド長のバリスタでもダメなのかっ⁉」


 戦士たちが立て直す暇も無く、ドラゴンが翼を畳んで急降下する。


 ……速いッ!


 ドラゴンは地上スレスレを滑空し、その勢いで剣を抜いた地上の戦士たちを次々と弾き飛ばしていく。誰もまるで歯が立たない。

 

「ホッ、ホッ──ウホッ!」


 俺は建物の上を全力で駆けて跳び移り、ハンマーを大きく振りかぶって、滑空するドラゴンへと飛びかかった。頭上に迫る俺にドラゴンが気が付きその眼を向けてくるが、しかし避けるには遅すぎる。


「ラァァァッ!」


 無防備なその頭へとハンマーを振り下ろす。俺の全腕力を載せたフルパワーの一撃だ。ドガァンッ! と破壊音を響かせて、ドラゴンの頭が里の地面へと沈み込む。


「ッ!」


 だが、それだけだ。


〔ギャオゥッ!〕


 ドラゴンは俺の攻撃などまるで効いていないかのように容易く起き上がると、その硬い爪で俺に襲い掛かってくる。


「ホッ!」


 まともに喰らえば致死のその一撃を見切り、かわした──かに思えたが、しかし。その先から太い尻尾が襲い掛かる。


「ぐぅッ!」


 巨体をひるがえしてのドラゴンによる尻尾の振り回し。辛うじてハンマーを間に挟んで直撃は防いだものの、俺の体は小石のように弾かれて吹き飛ぶ。3軒の民家に大穴を空け、俺は地面へと転がった。


「~~~! 効くっ!」


 体全体に鈍い痛みを覚えながらも、俺は立ち上がるとすぐに駆ける。そして、ドラゴンの目の前に再び踊り出た。

 

「ウッ──ホォォォォォッ!」


 体を一回転させ、遠心力を利用してドラゴンを殴り飛ばす。ドラゴンは地面に倒れるが、しかしまたすぐに起き上がってきて俺を爪で弾き飛ばす。俺は起き上がってまた殴る。また尻尾で殴り飛ば返される。だが俺はまた殴る。だがやはり地面に叩きつけられる。


「フンヌ──らばぁぁぁッ! 負けるかァァァッ!」


 何度弾き飛ばされようが、地面に叩きつけられようが、俺はその直後すぐにドラゴンへと突っ込んだ。ハンマーを思いっきり振りかぶって。

 

「ラァイッ!」

〔グォウッ!〕

 

 殴る、吹っ飛ばされる。

 

「ラァァァイッ!!」

〔グォォォウッ!!〕


 殴る、叩きつけられる。


「ラァァァァァイッ!!!」

〔グォォォォォウッ!!!〕


 殴る、弾き飛ばされる。

 

「ラァイライライライラァァァイッ!!!」

〔グォォォォォォォォォォォォンッ!!!〕


 ──それは、ドツき合い。シバき合い。


「ここを誰の里だと思っとんのじゃこの爬虫類がァァァッ!!!」

〔グギャアッスッ!!!〕

「死にさらせやァァァッ!」


 俺とドラゴンによる肉体をフルに使ったシンプル極まりない大喧嘩。互いに無数の攻撃が交わされる。


「やったれやゴリウスーー-ッ!!!」


 口汚くドラゴンを罵りながらハンマーを振り回す俺の周りから、他の戦士たちの声援が飛ぶ。


「人類最強を見せたれやぁぁぁッ!」

「首もいだれぇぇぇッ!」

「あのツラ凹ませろぉぉぉッ!」


 ドラゴンに向かって矢や槍、果ては剣すらもが飛びまくる。


〔グギャオォォォッ!〕


 俺や戦士たちの猛攻がよっぽどうっとうしかったのか、ドラゴンは苛立つように体を大きく一回転させて辺りのすべてを尻尾で薙ぎ払う。


「ぐわぁぁぁッ⁉」


 周辺一帯の建物ごと、周りに集っていた戦士たちが吹き飛ばされる。

 

「みんなぁっ!」

 

 戦士たちの心配をしつつ、とはいえ当然ドラゴンの最も近くに居た俺もまた例外なく吹き飛ばされている。百メートル近く宙を飛んで建物に頭からぶつかって地面に落ちた。


「イテテ……」


 仰向けになりながら、強かに打ってしまった頭をさする。

 

 ……俺は人よりも少し頑丈だから何ともないが、普通のヤツなら死んでしまうぞ、まったく。

 

 そんな俺の視線の先、里の天井付近にドラゴンが飛び上がっていた。ドラゴンはそのまま緑で作られた天井を突き破って空へと昇っていった。

 

「おおっ! まさかゴリウスにおくして逃げる気かっ⁉」

「アレは……いやっ、違うっ! 全員、退避だッ!」


 戦士たちの中心で、ベルドットが叫ぶ。


「今度こそ正真正銘の、ドラゴンブレスが来るぞっ!」


 ドラゴンの口元に光が集まっていく。それは次第に大きく、太陽のように煌々こうこうと輝き始めた。




【NEXT >> 第35話 愛の力】

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