恋の終わり

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恋の終わり


 告白をして、フラれた。


 相手は、同じクラスの神田だ。

 神田は、目立つタイプではないけどいつも穏やかで、いるだけで周りをなんとなく和やかにするような、そんなやつ。


 僕と神田の間に、特別な何かは一度も起こったことはなかった。用事があれば話すだけの、ただのクラスメイト。


 僕が神田のことを好きになったのは、ある日の6時間目、社会の時間だった。

 社会の先生は「催眠術師」とあだ名されていて、つまり授業は退屈だった。

 僕は社会が苦手だから、なんとか授業は寝ないようにしないといけないと思っていたけど、あまり成功したことはなかった。

 その日も案の定眠気がやってきて、なんとなく仲間を探して周りを見やった。

 そのとき、窓際に座る神田に目を奪われた。

 神田は社会の授業で催眠にかからない数少ないひとりで、真面目に授業を受けていた。

 俯いてノートを取る横顔に鎖骨くらいまであるまっすぐな黒髪がかかって、秋になって柔らかくなった陽の光に透かされてとてもきれいだった。


 それからいつも、僕の目に映る神田は光の中にいるようだった。


 クラス替えの迫るころ、放課後に先生が呼んでる、と言って連れ出して、人のいない階段の踊り場で告白をした。


 神田は、「付き合うとか、まだよくわからないから」と言った。

 それから、「誰とも付き合う気は無いし、あなたのことをそういう風に見たこともない」と、少し困った顔で付け足した。


 僕は、これで光の中にいる神田を眺めていることはできなくなった、と思った。

 僕が見ていることを、神田は知ってしまったし、それに困惑しているから。


 僕はほとんど働かない頭で「そっか」とか「ごめん」とか「ありがと」とか、わけのわからないことを言って神田の言うことを聞いていた。

 なんとか呼び出した理由を思い出して、「先生の、嘘だから、」と言って、そのまま家に帰った。


 帰るまではほとんど何も考えられず、いつも気にしない猫の存在に気を取られたりしていた。しかし、家に着いてからいろいろなことが頭のなかをちらちらとよぎってどうしようもなく、自室の扉を閉めてベッドに倒れこんだ。


 嫌われてしまったかもしれない、とか、他の人に聞かれていて、噂になったら、とか考えて、これから神田を見ていることに気づかれたら困らせてしまうのか、と、自分の軽率さ加減に絶望した。


 いろいろとぐるぐる考えていたら、むかむかむらむらしてきて、僕はオナニーを始めた。

 神田のことを考えながら。

 今まで、神田は僕の中で汚してはいけない領域にいて、付き合いたいというか、手を繋いで歩きたいとか、そういうことは考えたけれど、性的な妄想の対象にするのには罪悪感や拒否感があってできなかった。

 制服のスカートからのびる白い脚や、ほそい鎖骨のことを思い出して、泣きながらオナニーをした。

 自分でも馬鹿げている、滑稽というのはこういうことなのだろうと思った。


 びくびくと射精をする自分のものをみながら、自分の片思いは終わったとわかった。

 光の中の神田は、今や汚されてしまって、僕は神田をまっすぐ見ることができなくなった。


 肋骨のなかがぽっかり空いてしまったような気持ちになって、後片付けをしながらまた少し泣いた。

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