第4話 Bar(3)

 話を終えた佐久間は、その日4杯目となるウイスキーに口をつけていた。


 手付金100万と成功報酬1900万の合計2000万。佐久間が要求した金額だった。


 彼女はその金額に、何の異も唱えなかった。

 人ひとりをこの世から消し去るのにふさわしい金額だということだ。


 客によっては、高いと文句をつけたり、値切ろうとしたりするヤツもいる。


 命の値段が高いとか、安いとかそういう問題ではないのだ。


 佐久間は客から取る金は、技術料だと考えていた。


 梟と呼ばれる殺し屋が、この世界で生き抜いてきた技術を使用する値段。

 高い技術が必要であれば、それなりの値段を要求するし、簡単だと思えるものであれば、手付金に少し上乗せしただけの金額しか要求はしない。


 彼女に要求した1900万が高いかどうかは、仕事をしてみなければわからないが、一度決めた金額を変更することはない。

 その仕事が危険であるかどうかは、臭いでわかる。佐久間は自分の嗅覚を信じていた。


「いいお客さんに巡り会えましたか?」

 口ひげのバーテンダーが佐久間に話しかけてきた。


 このバーテンダーは佐久間の仕事を知っている。知っていて、この場を貸しているのだ。


「どうだろうな。いい客かどうかは仕事をしてみなければわからない」

「そんなことはないでしょ。彼女、女優の千寿ハルカですよ」

 バーテンダーの悪い癖だった。佐久間の客が自分の知っている有名人だったりすると、佐久間に余計な情報を与えてくる。


「興味ないさ。あの女はヤマダという客なだけだ。それ以外のことを私が知る必要はない」

 佐久間の声が不機嫌になったことに気づいたのか、口ひげのバーテンダーは申し訳無さそうな表情をして、佐久間の前から離れていった。


 彼女からの依頼。それは、牧島康平という男の殺害だった。

 牧島康平は、元俳優で現在は芸能プロダクションである『マキシマム』の社長として有名な男である。


 マキシマムは、男性アイドルグループからハリウッドに通用する俳優まで、幅広く手掛けていることで有名な事務所だった。


 だが、一方で牧島には様々な噂もあった。


 特に最近の週刊誌を賑わせているのは、牧島の黒い交際であり、牧島が暴力団組織の幹部と料亭から出てくる姿を激写されたばかりであった。


 牧島康平と依頼人の間に何があったかは知らない。依頼の理由は聞かない。

必要以上に深入りはしない。


それがこの仕事を長く続ける秘訣でもあった。

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