第3話 Bar(2)

 店内に彼女が入ってきた時、誰もが息を呑んだのがわかった。


 大きめのサングラスを掛けているが、その整った顔立ちを隠すことは出来ていなかった。


「いらっしゃいませ」

 口ひげのバーテンダーがめずらしく緊張した声で彼女に話しかける。


 彼女は店内を見回す素振りを見せてから、バーテンダーに問いかけた。


「こちらに梟と呼ばれる方がいらっしゃると聞いたのですが」

「ああ、あちらです」

 口ひげのバーテンダーが手のひらで指し示したのは、カウンター席に座るひとりの男だった。


 シャツの上に薄手のジャケットを羽織った30代半ばぐらいの男。

 あごには無精ひげが伸びていたが、きれいに整えてあり清潔感はあった。


 彼女はバーテンダーに教えられたジャケットの男のところまで行くと、声をかけた。


「さきほど電話をした、ヤマダです」

 その言葉にジャケットの男は顔を動かさず、正面を向いたままで言葉を口にした。

「佐久間だ。ここはバーだ。まずは酒を注文してくれ」

 彼女は無言でうなずくと、佐久間の隣のスツールに腰を下ろし、グラスビールを注文した。


「いきなりでなんだが、金の話をさせてもらう。気を悪くしないでくれ、これはビジネスだからな」

「わかっています」

「まずは、手付金だ。電話で伝えたように100万もらおう。仕事の話は、それからする」


 佐久間の言葉に彼女はうなずくと、持っていたカバンから銀行の封筒を取り出して、カウンターの上に置いた。


 その封筒を佐久間は受け取ると、中身をちらりと見た。

 銀行の名前入りの帯がついた札束が入っている。


「じゃあ、仕事の話をするか」


 佐久間はその封筒をジャケットの内ポケットにしまうと、ウイスキーの入ったグラスに口をつけた。

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