第7話 最強の巫女、恋を知る

 私の国の巫女は強い。


 いや、訂正しよう。私の子供たちはみんな強い。強すぎるのだ。


 私の子供たちはある時考えた。国を守るにはどうすれば良いのか。考えて考えて、体を鍛えて筋肉を愛でて結局思いついたのは、筋肉ムキムキになって強さを喧伝すればいいんじゃね?と。


 その結果我が国は女子供もデカいし相手を刺し違えても仕留めることが出来るようせんの…教育されている。


 そして大人の男、国の兵士は防具なんか無くてもアサルトライフルの斉射にも耐えるし何だったら投石で戦車の装甲をぶち破る。


 そんな感じの筋肉一族の中で1人、巫女だけは少し筋量が足りていない。が、彼女は筋肉の代わりに技能で強くなることを選んだ。毎日ダンベルの代わりに剣を握り、公務の傍ら斬ることとは何かと勉強を繰り返した。


 その結果得たものは、片手で持てる棒状のものであれば全て剣にすることが出来る力だ。模造刀だろうが爪楊枝だろうが鉄パイプだろうが関係なく、人間の肉を簡単に断ち切れる。


 巫女いわく


「圧倒的な力と剣の振るい方を知れば誰でも出来る」らしい。


 そんな剣と筋肉が恋人のようだった巫女が、恋をしたと言う話を聞いた。侍従の話を聞く限りだと、時々思い出したように顔を赤らめてぼーっとしたり、剣を眺めては顔を崩したり。相手は、同じく剣の道を行く男らしい。


 見てみると、確かに素敵そうな好青年。3mを超える身長と凄まじい厚みを持つ体。そして身長の倍の長さの剣を軽々と片手で扱う姿はこの国の理想の男子だった。


 あまり良くないことだが、気になってしまったので巫女に聞いてみた。どうして、彼が好きになったのか?と。巫女はこう語った。


「彼が…彼が、初めてだったんだ!見てくれ!この腕の傷!彼は片手で私の腕を簡単に握り折ってくれた!しかもだ!この腹の傷も、私の剣を簡単に受け止めての一太刀でバッサリだ!素敵だろう!?あぁ、今も彼を思うと胸がドキドキする!傷が疼いて、彼に会いたくて仕方がない!これが恋か!」


 ただ戦いたいだけのバーサーカーだった。


 恋する乙女なんていなかった。だが、彼女はとても健気で、毎日鍛えて、露出を増やし、剣の修行もより過酷にしていった。


 ちなみにこの国では服は薄ければ薄い程よい。筋肉を見せつけ、なおかつ防具になんか頼らなくても傷がつかないという自信の現れになるからだ。


 そうして彼女は、より鍛えてまた彼と対面した。真っ赤な顔に、素敵な笑顔(獲物を見つけた肉食獣のような)を浮かべ、勢いよく剣を振り下ろす。


 それを皮切りに、凄まじい剣の嵐が吹き荒れた。まともに剣の腹や刃に当たることが無く、金属の擦れる甲高い音が響き渡る。押しているのは、巫女の方だった。


 最初の一撃から数分、止まることの無い剣戟の中に、新しい音が加わる。2人の笑い声と、肉を断ち、血飛沫の舞い散る音。


 そして、最後の一振。互いの首元に寸止めされる剣先。すぐに、ふっと気の抜ける音がした。流れ続ける血も構わず、巫女は告げた。


「私の旦那になって欲しい!貴方の子が欲しいのだ!」


 差し出されるのは、巫女の剣。それを彼は受け取り、また自分の剣を渡す。


「こちらこそ、貴方を妻にしたい。私たちの子ならば、誰よりも強い子になる。」


 ―こうして、2人は結ばれた。これがこの国の恋愛。とっても素敵な、2人のプロポーズのお話だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る