第8話 新メニュー

 「ふむ」


 マガルガルドに転生してから初の敗北感を植え付けられてからはや3日、俺は今まで通りのクワを使った訓練の他、新メニューを増やしていた。


 「よっこらしょ!!」


 それがこれ、木槌だ。

 木製の大きなハンマーなのだが、一応戦闘訓練用とあって丈夫かつ巨大だ。

 確か敵モンスターでこんな感じの武器を使うやつもいた。


 俺はその木槌を使って、クワで1度耕した地面を叩いて固めていた。

 言うまでもなくこれも槌スキルのスキルアップによる身体強化を狙ってのものである。

 訓練場の土をフカフカにし続ける訳にもいかないしね。


 ……耕した土に植えるために植物の種を用意していたミレナさんは少しがっかりしていたが、もう少しだけ我慢してもらおう。

 そもそもマガルガルドには訓練場の隅とは言え耕してる事は秘密にしてるし……ちゃんとそのうち許可を取るからね……。


 しかしこれが中々に重労働で、スキルアップとは関係無しに筋トレにもなる。

 良い感じの特訓になりそうだ。


 それ以外にも俺はマガルガルドの言いつけ通り剣に慣れるため、常に木剣を帯剣する事にした。

 前世では剣なんて握った事無いし、剣の重みにも慣れなくてはならないのでね。

 流石に鉄剣程の重量はないが、常に持ち歩き生活する事で剣のリーチの把握が出来るのだ。


 木剣とは言え3日も持ち歩いていると少し愛着が湧く。

 俺はこの剣をモクスカリバーと名づけ、モッちゃんと呼んでいる。

 最初にそれをミレナさんに聞かれた時は何故か少し悔しそうな顔をされたが、手放す気はない。

 今やモッちゃんは俺の手足兼抱き枕だ。


 今日耕した分の土を叩き固め終わると、俺はモッちゃんを手に取りイメージトレーニングを開始した。

 イメージするのはフレイを闇堕ちさせようとする数々の敵。

 それを叩き切るように剣を振る。


 「わからせ!!わからせ!!」


 今こうしている間もフレイはラスボス化に向けての道を歩み始めてしまうかも知れない。

 その焦燥感を力に変えるためのこの掛け声だ。

 俺はフレイを幸せにしわからせなければならないのだ。


 勿論闇雲に剣を振っても筋トレにしかならない。

 だが俺にはプレイヤーと言うアドバンテージがある。

 俺はとあるスキルをイメージして剣を振る。

 そのスキルの名は『一刀両断』。


 剣を横薙ぎに振りながら前進し、剣に触れた相手に多段ダメージを与えるスキルだ。

 この多段ダメージのイメージがまだつかないが、とりあえず動きだけを真似てみる。

 ゲームでは剣のスキルが上がると自動的に取得でき、比較的使いやすく強いので重宝していた。


 具体的なスキルをイメージしながらの訓練のおかげか、この3日で俺の剣スキルはそれなりに上がっていた。

 それだけではない。俺は自分に足りない基礎能力を補うべく、夜中に屋敷を抜け出してはこの屋敷にある全ての武器を振り回してスキル上げに励んだ。


 剣、クワ、木槌、槍、斧、農家。

 様々なスキルを同時並行的に上げる事でスキルボーナスの恩恵を最大限に受ける。

 そして昼間はミレナさんと勉強をし癒される。


 これが俺のルーティンだ。

 マガルガルドとの稽古もあるが、それはマガルガルドのスケジュール的に毎日は無理との事。

 わかる、わかるよ。大人って暇そうに見えても結構忙しいもんな。


 まぁそれは置いといて、俺の1日はそんな過密なスケジュールをこなす事で成り立っている。

 普通なら音を上げ投げ出すところだが、スキルが上がれば身体能力も上がるし日を追うごとに楽になるだろう。

 それに俺は目的のためにも諦める訳にはいかないのだ。


 どんなに辛くとも、苦しくとも。

 潰れた血豆で手のひらが赤く染まろうとも、俺はフレイのバッドエンドだけは回避しなくてはならない。

 そのためなら疲労で倒れようとかまわない。


 気合いを新たにモッちゃんを握り直した所で、ミレナさんが水に濡らした冷たいタオルを渡してくれる。


 「ショーワル様、そろそろ朝食の時間でございます」

 「え?もうそんな時間ですか?」

 「はい、今日は料理長が前日から気合を入れて仕込みをしていたらしく早くショーワル様に食べていただきたいとの事です」

 「本当ですか!?料理長の料理は全部美味しいですけど、楽しみです!!」

 「さぁ、汗を流しに参りましょう」


 ミレナさんが手を差し出す。

 自分の手は血と汗で汚れていたため、握るのを少し躊躇していたのだが、ミレナさんは構わずその手を取ると歩き出す。


 思えばミレナさんともだいぶ仲良くなれたよなぁ。

 ゲームでは名前を言うのすら嫌悪するほどショーワルの事を毛嫌いしていたが、今ではニコニコとショーワルの世話をしてくれている。

 ……実は嫌がってたりしないよね?


 稽古は無理でもマガルガルドと一緒にご飯を食べる機会も増えてるし、コミュニケーションもちゃんと取れている。

 家族仲も良好で言うことなしだ。


 「後は俺が強くなるだけだよな」


 この調子なら早い段階でフレイのラスボス化ルートを避けられるかも知れない。

 俺は日に日に成長を続ける体に合わせて新メニューの負荷も上げることにした。

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