第7話 父親の壁
「さぁ、剣を取れ!!息子よ!!」
「はぃ……」
訓練場のど真ん中、ショーワルとマガルガルドは相対していた。
マガルガルドは既に木製の剣を握っており、ショーワルが剣を取るのを今か今かと鼻息荒く待っている。
「剣は初めてなんですけど……」
「そうなのか?じゃあ今まではどんな訓練を?」
「秘密です」
「ははっ、良いぞ!!戦闘において相手に自分の底を見せるのは愚策だからな!!俺は策を練るのは苦手だが、お前は母さんに似て頭も良さそうだ!!」
まぁそうだろうな。
見た通りの脳筋で安心すると共に、逆に策を練らずとも生き抜いてきた豪傑だと知り戦慄する。
もし戦場に出たとしても出会いたくないタイプだ。
こう言うパワータイプには小細工が通用しづらい。
ゲームでは基本的に全ての敵には弱点が設定されているものだが、目の前の父親はそもそもゲームでは出てこなかったし見た感じでも隙がない。
稽古とは言え手を抜くつもりはないらしい。
クワ以外の武器を握るのは初めてだが、基礎体力のおかげか振り回す分には問題なさそうだ。
「ふむ、構は甘いが、最低限戦えるようだな」
マガルガルドの放つ雰囲気が変わった。
正直怖い。
ゲームではボタンを押して剣を振るだけだったが今は違う。
ひとつ間違えれば命を危機に晒す事もあるだろう。
今一度剣を握り直しマガルガルドを睨みつける。
ビリビリと震えるような気迫になんとか耐える。
フレイを救うと言う確固たる目的がなければ間違いなく逃げ出していたであろう、殺気。
「……ほぅ、剣気に呑まれない、か……親バカの自覚はあるがこれは予想以上だな」
「恐縮です!!」
睨み合っていてもキリがない。
意を決して剣を振りかぶり、振り下ろす。
単純な動作だがショーワルはこの1週間、クワで培った全てをその一撃に乗せた。
木製の剣とは言えまともに食らえば怪我は免れない。
しかしあんな殺気を飛ばされた以上生半可な攻撃など通用する気がしなかった。
自分の実力がどの程度なのか知りたいと言うのもあるが。
「おっ?中々良いな」
「へ?」
ショーワル渾身の一振りはマガルガルドの剣で呆気なく塞がれてしまった。
それも片手で。
おいおいおい、冗談だろう?
いくら今の俺の体が小さくて充分な重さを剣に乗せられていないとは言え、ここ数日のスキルアップのおかげでステータス的にはそれなりに上がってる筈なんだが!?
そこはやはり剣と言う武器の練度の差なのだろうか、マガルガルドが受け止めた体勢で剣を横薙ぎに払うと、呆気なく俺は吹き飛ばされてしまった。
「うわっ!?」
「うむ、歳のわりには中々良い一撃だったぞ!!」
マガルガルドはショーワルを見下ろすと腕を組んで笑う。
「だが息子よ、今のお前には足りないものが2つある」
「2つ……ですか?」
「あぁ、まず1つは肉体。これは食って寝て体を動かしていれば俺ぐらいには育つだろう。俺の子だしな!!」
いや、それは流石に言い過ぎだろう。
健康的な生活をしているだけでこんな筋肉の山みたいになるとか怖すぎるわ。
「2つ目は剣に対する意識だな」
「意識ですか?」
「あぁ、今のお前はまだ剣を剣として使おうと必死になっている」
「まぁ、剣ですし」
「いや、俺が言いたいのはそうではなくてだな……えぇ〜と……」
マガルガルドも上手く説明できないのか頭をボリボリと掻きながら言葉を選んでいる。
自分が稽古をつけると言っておきながらそれはどうなんだと思わなくもないが、彼もまた息子のために自分にできる精一杯の事をしようとしているのだろう。
「あ!!そうだ、ほれ」
「わっ」
マガルガルドは訓練場に生えている雑草を千切るとショーワルの顔に投げつけてきた。
流石に全力で投げてきている訳ではないが、それを咄嗟に手で防いで振り払う。
それをみてマガルガルドはニンマリと納得したように笑っていた。
「今、咄嗟に手で防いだな?」
「はい」
「早い話、それを手ではなく剣で出来るようになれ……と言う事だ」
「……なるほど?」
「ショーワル様、つまり旦那様は考えるより早く、反射的に剣を使えるようになれとおっしゃっているものと思われます」
「その通り!!話が早くて助かる!!」
「手足を使うように、自然に剣を扱えるようになれ、と?」
「そうだ!!」
マガルガルドは豪快に笑いながらショーワルの前に腰を落とし胡座をかいて座り込むと、大きな手のひらで乱暴にショーワルの頭を撫でた。
「俺は頭には自信がなくてな、上手く言えないが、剣を剣と言う道具として扱おうとするとやはり動きは単調なものとなる。それ故に動きの予測がつきやすい」
「ふむふむ」
「相手の防御を上回るほどの力があればそれでも良いが、今の俺とお前ではどうだ?」
「無理ですね!!」
「そうだ!!だからそんな時は技がものを言う。剣なんて物はな、一発でも当てれば大体勝ちだ。だからこそ力で勝てない場合は相手の予測を超えろ」
「そして一発でも叩き込めと」
「あぁ!!そうだ!!」
ショーワルの答えに満足したのか、マガルガルドは更に乱暴に頭を撫でる。
髪がぐちゃぐちゃになるが、これはこれで悪くない。
「まぁ、つまるところもっと剣に慣れろと言う事だ。俺がお前ぐらいの歳の頃はそれこそ毎日剣を振り回していたものだ」
「父上も木剣で鍛えていたのですね」
「うん?俺は鉄剣を使っていたが」
化け物か?そりゃそんな生活をしてればこうなるわ。
「だから……その〜、なんだ?お前がいち早く剣に慣れるようにだな、今後も俺が稽古をつけてやりたいんだが……」
マガルガルドはなぜか少し緊張した面持ちで語りかけてくる。
今までショーワルに父親らしい事がしてやれなかったからなのか、ショーワルから父親に歩み寄る事がなかったからなのか。
俺としては家族仲が良いのは喜ばしい事だし、何より自分が強くなれるなら断る理由も無い。
「はい!!よろしくお願いします!!父上!!」
「本当か!?……無理にとは言わんぞ?成長してるとは言えお前は体が弱いからな」
「いえ!!大丈夫です!!俺も早く父上のように強くなりたいです!!」
「……そうか!!そうか!!うぉおおおおおお!!見てるか母さん!!俺たちの息子はこんなにも立派に成長しているぞぉおおおおお!!」
「ぐえっ」
マガルガルドは感極まったのかショーワルを抱きしめながら頬擦りをする。
無精髭によるスリップダメージがエグい。
ミレナさんはその光景を見て小さくガッツポーズをしていたが、早く助けて欲しい。
「ち、父上……髭が痛いです……ミレナさんたしけて…」
俺は、慌てて拘束攻撃を止めたミレナさんのおかげで一命を取り留めた。
その日の夕飯は珍しくマガルガルドと一緒に食べた。
メニューが少しだけ豪華になっていたし、マガルガルドは髭を剃っていた。
おかわりする俺を見て笑うマガルガルドを見ながら、俺はこの不器用だが子供思いな父親を超えるため、新たな特訓メニューを考えるのであった。
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