第6話 訓練の成果と……

 「よしっ、こんなもんかな」


 ルーンファンタジーと思われる世界に転生してはや1週間が経過した。

 ぶっちゃけ初日は夢なんじゃないかと思っていたが寝ても覚めてもファンタジーな世界観だったので諦めた。

 

 そんな事よりも今の俺にはもっと優先すべき事がある。

 そう、フレイの救済ルートの模索だ。

 そのために必要な力を付けるべく、今日も俺は朝からクワを振り続けている。


 流石に1週間もクワを振り続ければスキルレベルもそこそこ上がるもので、もはやこのクワは俺の第3の手と言っても過言ではないだろう。


 しかし、逆に言うとそのレベルまで到達するのに1週間かかったとも言える。

 ゲームではそれこそ初期では数十分で15ぐらいはスキルレベルが上がるのだが、この世界に来てから今日までで体感10ぐらいしか上がっていない気がする。


 スキルレベルが上がった際はなんとなく体が軽くなるような感覚があるのでそれで測っているが、実際はどうなんだろうか?

 まぁ今は気にしていても仕方がないし、がむしゃらにクワを振り続けるだけだ。


 しかし、そうなると本業の農家さんたちはどうなってるんだろうか?

 同じトレーニングを積んでいる騎士達にも差はあるらしいので一般人にはスキルレベルが適用されない可能性もある。


 だがそれではショーワルのスキルアップの説明がつかない。

 今はまだ仮説だが、スキルアップするには『スキルシステム』そのものを理解している必要があるのではないだろうか。


 まぁそんなシステムがなくとも強い人は強いらしいのであくまでも仮説だ。


 「ショーワル様、そろそろ朝食の時間です」

 「はい!!ちょうどやめようと思ってた所です!!」

 「本日はフルーツの蜂蜜漬けのサンドイッチでございます」

 「ほんとですか!?急いで汗を流してきます!!」


 ミレナさんから朝食のメニューを聞き、ご機嫌になる。

 転生してからと言うもの、食の好みやテンションも若干この身体に寄っているらしく、ショーワルは見た目に似合わず甘いものが好きなようだ。


 俺は急いで風呂に入ると汗と土を洗い流し、普段着に身を包む。

 いつもより若干早足でミレナさんの後をついていくと、食卓には既に皿が並べられ始めていた。


 「ショーワル様、サンドイッチは逃げませんので」

 「は、はい!!……今日はおかわりは……」

 「ございます」

 「やった!!」


 席につき、準備が整うのを待っていざ実食。

 甘い蜂蜜を纏った瑞々しい果物とパンを咀嚼し紅茶を飲む。

 気がつけば手の中にあったサンドイッチは消えていた。

 そしてミレナさんがいつの間にかおかわりを用意していた。

 うむうむ、苦しゅうない。


 2個目のサンドイッチを食べ終わると、ミレナさんが話しかけてきた。


 「ショーワル様、本日のご予定ですが」

 「はい!!今日もよろしくお願いします」

 「かしこまりました」


 ミレナさんとの勉強ももはや日課になりつつある。

 思えばこの1週間、朝は早く起きてクワで土を耕し、昼は勉強、夜は夜で土で汚れないようにこっそり屋敷を抜け出してクワの素振りを繰り返していた。


 勉強に関しては主に言語の勉強をしていたが、最近では算数も教えてもらっている。

 いやまぁこの程度、実際教わる必要はないのだが教わる前からマスターしていてはそれはそれで気味が悪いし、何より簡単な事でも勉強すればミレナさんが褒めてくれるので止める手はない。


 肉体に関してはかなり動かしやすくなってきているし、そろそろ剣に手を出してもいいかもな。


 そんな風に考えていると、廊下からドタドタと誰かが走る音が聞こえてきた。

 何だろうかとドアを凝視していると、誰かが勢いよくドアを開けてショーワルの目の前に飛び出てきた。


 「ショーワル!!」

 「ぐえっ」


 その何者かはショーワルに飛びつくと、無精髭の生えた頬を擦り付けてくる。

 ちょっと、いやかなり痛い。


 「聞いたぞ!!ショーワル!!お前、最近稽古をするようになったんだって!?何で早く俺に言わないんだ!!」

 「ち、父上……苦しいです……あっ、サンドイッチがちょっと出そう」

 「旦那様、それ以上はショーワル様が捩じ切れてしまいます」

 「おっとすまない」


 何気にこの世界に転生してきて初のダメージを食らわせてきたこの男はマガルガルド。

 ショーワルの父親である。

 赤茶色の短髪に無精髭、大柄な体はボディビルダーのような筋肉で覆われていた。

 わかりやすく脳筋である。


 「大丈夫か?……どうした!?顔色が悪いぞ!?」

 「へ、平気です父上……少し朝食を食べ過ぎただけですので」

 「食べ過ぎた!?あの食の細いショーワルが!?うぉおおおおおおお!!」

 「ち、父上、苦しっ……」

 「旦那様、お気持ちはわかりますがショーワル様の顔色が青を通り越して黒くなり始めています」

 「はっ!?すまん、俺とした事が」

 「いえ……」


 美味しく朝食を食べていただけなのにまさか2度も死にかけるとは……悪い奴では無さそうだが子供相手に手加減できない脳筋は色々とダメだろ。

 それに比べてミレナさんは良いな。

 この短期間で2度も命を救われてしまった。


 何とか呼吸を整えると改めて父親を見上げる。

 何を食べて育ったらこんな大男になるんだか。

 しげしげと目の前の脳筋ボディビルダーを観察しているとマガルガルドは口を開いた。


 「いやなに、お前の話はミレナから聞いていてな。お前が自分から体を動かすようになったと聞いてどうにも気が昂ってしまってな」

 「まぁ、運動はするようにはなりましたが」

 「水臭いぞ息子よ、体を鍛えたいならこの俺に真っ先に頼ればよかったものを」

 「御言葉ですが旦那様、旦那様はここしばらく書類仕事に忙殺されておりましたよね?旦那様の事ですからショーワル様に頼られてしまってはそれらを投げ出してしまうではありませんか」

 「ぐぅ」


 わぁ、人間って本当にぐうの音が出るんだなぁ。

 謎の感動を覚えているとマガルガルドは続けた。


 「ふむ、しかし……少し見ない間にだいぶ体が出来上がってきているじゃないか」

 「本当ですか!?」

 「勿論、俺が言うのだから間違いない」

 「間違いなさそ〜」


 正直スキルアップしているのはわかっていたが体に影響が出ているのか自分ではよくわからなかったが、筋肉の塊がそう言っているのだ、間違い無いだろう。


 「本音を言うとな、少し心配ではあったのだ。お前は間違いなく俺の子だが、体は弱かった。母さんも体が弱くてな、生まれてくるお前の事も良く心配していたよ」

 「そうなんですか」

 「だがどうだ?俺達の息子はこんなにも立派に育っているじゃないか!!それが俺にはたまらなく嬉しいんだよ」

 「父上……」


 何だよ!!ショーワルの父親だからちょっと身構えてたけど普通に良い父親っぽいじゃん!!

 ……ここまで来るとショーワルのあの歪みっぷりの方がおかしいよな、やっぱ。


 「ふふっ、それもショーワル様は旦那様のように立派な騎士になるとお身体を鍛え始めたのですよ?」

 「そうか!!そうなのか!!」

 「はい!!まぁ……はい!!」


 一瞬、別にそこまでではないですと言いそうになったが、元はと言えば俺が言い始めた事だし強くなると言う意味では嘘ではない。

 同じ血が流れているのだから俺も将来これぐらい強くなれる可能性があると言う事だ。

 良い目標ができた。


 「では息子よ!!」

 「はい!!何でしょうか父上!!」

 「表に出ろ!!」

 「何ででしょうか父上!?」


 何でだよ!!ここまでちょっと良い親子関係を築けてただろ!!

 何でこんな喧嘩をおっ始める前みたいな雰囲気になってんだ?


 「何でって、決まっているだろう?俺が稽古をつけてやる」

 「へ?」

 「息子が俺を越えようと努力しているのだ、俺も協力は惜しまんぞ!!」

 「い、いや、別に超えるなんて大層なことは……」

 「はっはっは!!遠慮するな!!」

 「み、ミレナさん!!ミレナさ〜ん!!」


 藁にもすがる気持ちで伸ばした手は空を切り、俺は訓練場へと引き摺られて行くのであった。

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