第9話 スキル

 早いもので、俺がこの世界に転生して1ヶ月が経過した。


 あいも変わらず俺は新メニューでの特訓を続けている。


 それこそ最初の数日は疲労により寝込む、と言うよりは気絶するように倒れていたが今ではある程度余裕を持って武器を振るえるようになっていた。


 スキルアップも順調で体もかなり丈夫になってきたと言う事なのだろう。


 今日はもう夕飯も食べたし、後は疲れ果てるまで武器を振るだけだ。


 「今日はクワからにしようかな」


 俺は物置からクワを持ち出すと、迫り来る敵をイメージしながら構え、振る。


 「わからせ!!わからせ!!」


 ただ地面を耕すだけでなく、時には敵の攻撃を避けるようにステップをおり混ぜ渾身の力でクワを振り下ろす。


 サクサクと小気味良い音を立てながら地面をフカフカに耕し、ハンマーで固め、また耕す。


 ここまでクワの扱いがうまければ農家としてもやっていけるのではなかろうか?


 田畑を耕す騎士……開墾の騎士と言うのはどうだろう?いや、ちょっとダサいな。


 夜の冷たい空気を肺一杯に吸い、小休止する。

 新鮮な酸素が身体中に満ち渡り火照った体を冷ましていく。


 俺の勘が確かであれば、クワのスキルレベル的にそろそろあるスキルを取得できる頃合いなのだが。


 「ちょっと意識して振ってみるか」


 俺は再度クワを手に持つと、目を閉じてそのスキルをイメージする。


 ルーンファンタジーにおいてクワ等の農具は武器ではあるものの、やはり剣や槍に比べると一撃の威力は低く設定されている。

 そこで武器同士のバランスを調整するためなのか、クワには他の武器にはないスキルがある。


 「ふぅうううう」


 息を大きく吸い、吐き切る。

 その状態で1度呼吸を止め、今度は必要な分だけ息を吸う。

 乱れた呼吸を落ち着かせ、冷静になるための呼吸法だ。


 クワを振るため、大きく振りかぶると、何か引っかかるような感覚があった。


 「……これだ」


 俺はその状態で全神経を両手に集中させる。

 そして振りかぶった体制のまま、クワを持つ手に力を込めた。


 「はぁ!!」


 何か、自分の中の歯車がガチリと噛み合うような感覚と共に淡い白光がクワを包み込む。

 間髪いれずそれを振り下ろすと、地面が大きく捲り上がった。


 「出来た……『チャージ』!!」


 そのスキルの名は『チャージ』。

 文字通り力を武器に溜め、振るだけのシンプルなスキル。

 効果はクワを使った攻撃力の倍化だ。


 一撃の威力の低いクワにとってはなくてはならないスキルの1つである。

 使用する際は力を溜める間、無防備になると言う欠点こそあるがその威力は同じランク、同じレベルのスキルレベルの武器を振るより高い。


 ゲーム内では序盤に獲得できるスキルではあるが、苦節1ヶ月、ようやく俺はこのスキルをものにした。


 スキルを獲得した影響なのか、頭が焼けるように熱い。

 しかし先程の感覚を忘れたくないため、再度クワを構える。

 構えたクワを再度振り下ろす。


 「『チャージ』!!」


 やはりまぐれではなかった。

 再び白光を纏うクワを真下に振り下ろすと、鋭く空気を切り裂く音と共に風が吹いた。


 「は、ははっ!!やった!!やったぞ!!」


 流石に連続で使うと疲れるが、それでも俺はスキルの取得に歓喜していた。

 この世界でもスキルレベルを上げる事で新たな技能が取得できる事がわかったのだ。

 それだけでも大きな収穫である。


 戦技として使えるスキルは体力、MP以外に存在するSPと言うゲージを消費して使用する。

 そしてそのSPは戦技を使用すればするほど成長するのだ。


 なにぶん今まで戦技を使用したことなどないので俺のSPはスキルアップによる恩恵を除けば初期値だ。

 だがこの『チャージ』を連発していれば伸びることはわかっているし、今のうちに伸ばしておけば将来もっと消費SPの多い戦技を取得した際にかなり楽になる。


 「チャージ!!チャージ!!チャージ!!」


 調子に乗った俺はチャージで地面を耕し続ける。

 SPをごっそりと持っていかれるため、若干の眩暈がするが、それを上回る高揚感とガンガン上がるクワと農家のスキルレベルによるステータスの恩恵で耐える。


 「ふぅ、おぇっ……疲れた……」


 SPに関しては上限が増えても使用した分は休息を取らなければ回復しない。

 流石に疲れた俺は地面に体を投げ出して空を見上げる。


 そこには眩い星空が広がっていた。

 その1つを掴もうとするように手を伸ばす。


 「もっと、もっと強くならなきゃな」


 全てのガキに教育わからせを。

 全てのガキを幸せわからせに。


 その野望を叶えるべく、俺は再びクワを振い続けた。

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