第4話
「腹痛てぇ……」
そうして時は流れ二週間、俺は緊張と動画部存続がかかっている重責で腹を痛めていた。 あれから放課後彩乃の家に通い詰めたり、たまに部長や副部長の力を借りることで、無事企画案は完成した。
そのプレゼンをしに今は生徒会室の前にいる。
「失礼します。動画部、東雲司です」
「どうぞー」
生徒会室に入ると生徒会役員が二人座っている。
「会長は仕事で職員室にいるので、先にプレゼンの準備をして下さい」
その内の一人が生徒会長の不在を告げた。
俺は粛々とプレゼンの準備を進める。パソコンとプロジェクターを繋げる変換アダプターが中々刺さらない。ここで俺は極度の緊張で体が強張っていることを認識した。
まあそうだよな……。これをしくじったら動画部が廃部だしな……。
この日のためにプレゼンの練習や企画案の推敲を何回もしてきた。ここに立つにあたって完璧と言えるほどには練習を積んできた。
それでも俺は手の震えは止まらないし、心臓もうるさい程鼓動を鳴らしている。高校入試の時だってこんなに緊張した覚えはない。
これが大切なものを背負った重みだというのだろうか?
そんな事を考えても体の震えは止まらなかった。
「すまない。所用で遅れた」
プレゼンの準備も済み、後は気持ちを作るだけという段階で彼女は現れた。
なんとも形容し難いが彼女が生徒会室へ入ってきたから、周りの空気が急速にひりついていくのを感じた。
緊張のせいかとも思ったが、他の生徒会役員の硬い表情を見るとどうやら思い違いではないらしい。
「えっと……、生徒会長でよろしいですかね?」
「そうだが? 君が動画部の人か?」
「あ、はい。そうです」
何故だろう……。喋っているだけで別の意味で体が震えてきた。
容姿はキリッとした顔立ちで特段怖いわけではないし、特別強い言葉を使っている訳でもない。ただ、怖い。生憎他に当てはまる言葉を俺は持ち合わせていない。
「早速で悪いのだが準備は出来ているのか?」
「あ、大丈夫です」
「それじゃあ始めてくれ」
そうして生物的恐怖の中、動画部の存続をかけたプレゼンが始まった。
「えっと、まずは――」
初っ端スライドをしくじった。
何故か三枚目のスライドを表示してしまう。
「失礼しました……」
早々にミスをしてしまったが気を取り直して原稿を読み始める。
「えっと……、まず動画部の企画としましては、は?」
「どうかしましたか?」
「すみません。何でも無いです!」
次は原稿が何故か二ページ目になっていて、想像してた一言が全く違うものとなっており、急な出来事に戸惑って醜態を晒してしまった。
もう次は無いと意気込んで、プレゼンに挑み続けたが想定外のことばかりおきてしまう。練習の時はスラスラと読めた原稿が今じゃ噛みまくって聞けたものじゃないし、ミスする度に目の前が真っ白になっていく。
「大丈夫か?」
「だっ大丈夫です。続けさせて下さい」
口ではこう言っているが内心ここから逃げ出したいぐらいには錯乱している。けれど動画部のこれまでの思いが俺の足をここに留めていた。
「えっと……」
「もういい、十分だ」
この地獄のような空気の中生徒会長が切り込んだ。
「君の拙いプレゼンはもう見てられないよ。君は一体何をしに来たのかね?」
生徒会長の言葉に何も言い返せない。いや、こんなものじゃ無いと叫びたかった。しかしさっきと同じ様に口が開かない。
「答えられないか……。はぁ……、生徒会としてはこれは承認できない。動画部として何か弁明はあるかね?」
俺はその言葉に拳を握りしめて、俯くことしか出来なかった。
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