第2話

「来たか……」

 昨日の一件から一晩が経ち、俺は部長に言われたとおり放課後すぐに部室へと向かった。

 一番最初に来たかと思ったが部長が座っている。先輩は昨日と同じ様な暗い顔をしていて、昨日の夢であって欲しい出来事が実際に起こっていることを物語っていた。

「副部長は一緒じゃないんですか?」

「天城なら俺が教室出る時には寝てたよ。あまりにぐっすり寝てるもんだから起こすに起こせんかったよ。まあクラスメイトとしては恥ずかしい限りだがな」

 呆れたような口調で話しているが、そんな部長の口には笑みが浮かんでいる

「部長って副部長だけには甘いですよね」

「あれでも俺の幼馴染だからなぁ……。でもあいつの思考は何時まで経っても読める気はせんよ」

 先輩と副部長はとても仲が良く、何時も行動を共にしている。

「ごめーん。教室で寝てたら遅れたー」

 扉が開き、甘栗色の艷やかな髪を所々跳ねてさせている副部長が立っていた。

「遅いぞ。こんな重要な事に遅刻するなよ」

「イイじゃんインジャン。そんなカリカリしないでよー。怖い顔してるよ?」

「あー……、これだからお前は……」

 呆れたように部長が頭を掻く。

「副部長っていつもこんな感じですよね」

「いつもってなんだーいつもとはー」

 やる気のない声で副部長は抗議する。

 副部長は可愛らしいのだが、この重要なときなのにこんな感じである。

「何かこんな賑やかなのは久しぶりですね」

「確かにな……。」

「あー、ごめんねー。たまに顔だしてたんだけど寂しかった?」 

「寂しくはないですよ」

 そう俺はクスクスと笑う。

 こうして部室で笑ったのはいつぶりだろうか? 配信でもよく笑ってはいるが、一人ではどこか寂しい気持ちがあったのかもしれない。またこうして三人で笑えていることに懐かしい気持ちがこみ上げてくる。


「まあ天城も来たからそろそろ始めるか。動画部のこれからについて」

 部長の一声で、緩んでいた空気が一気に締め上げられた。

「えー? あれって本当なの? 何で動画部が廃部なの?」

「そうですよ! どうして昨日急に廃部になったんですか!」

 俺と副部長から疑問の声が飛ぶ。

 実際動画部の廃部は疑問しかない。動画部は部活動として、十一年の学校での活動もしっかりと行っている。

「お前らの聞きたいことは分かる。俺もそれは学校側から細かく聞いている。ただ問題としてはたった一つだ」

「たった一つ? そんなたった一つで動画部って廃部になるの?」

「そうだな……。そのたった一つなんだ。だがその一つが大きいんだ……」

「その問題って一体何なんですか?」

「それはな……」

 そうして部長の重い口からたった一つの問題が語られる。それは学校に貢献する活動が一切ないことだった。

 この学校に貢献する活動だけど具体的に言うと、大会で賞を取る・学校の行事活動に参加する事などだ。動画部はこの二つもどちらも満たしていないという。

「待って下さい? うちの部活って学校行事に参加していませんでしたっけ?」

 確か動画部は学校が利用する動画、 例えば学校説明会の動画などを制作していたはずだ。

「それは学校が業者を呼ぶことになったらしい。だから動画部はお役御免というわけだな」

「それってあんまりじゃないですか! そんなの学校側の都合じゃないですか!」

「私もそう思う……。そこ指摘しなかったの……?」

「俺だってそこについては指摘はした。けど学校側からは学校方針の変更としか言われなかったし、そこを更に追求しても曖昧な返事しかしてくれなかった」

 どうやら映像制作では無理そうだ。学校側の返答が不透明なのが気になるが、そう言われてしまっては映像編集しかできない動画部ではどうにもならない。

「だったら動画部のチャンネルで投稿してる動画とか配信についてはどうなんですか?」

 動画部は動画投稿サイトでチャンネルを保有している。そこに投稿している動画や配信は合計百本を超えていて、どれも再生回数は十万前後ある。これが微量ではあるが学校の知名度の上昇に貢献しているのではないか?

「あぁ……、今から言うことを聞いても怒らないか?」

「はい? まあ怒りませんけど」

「えっとな……、それも学校側に言ったんだが『そんなもの一人でも出来るだろ』とのことだ……」

「ふーん……。そうですか……」

 先輩の話を聞いた俺は部室に置いてあったエアガンを手に取った。

「一応なんでそれを持ってるかだけ聞こうか……」

「え? 今から職員室にカチコミに行くだけですが?」

「うん予想通りだな。学校に抗議するのは勝手だが法は犯すなよ。あとお前は何持ってるんだ?」

「え? エアガンだけど?」

 後ろを振り返ると確かに俺と同じエアガンを手に持っている天城先輩が立っている。

「東雲は冗談だと分かるんだが、お前は本当にカチコミに行きそうだからガチでやめてくれ」

「バレてましたか」

「そうだったの……? 私カチコミに行く気満々なんだけど」

「冗談を信じないでくださいよ……。本当にカチコミしたら動画部が廃部するどころじゃすみませんよ」

 ただ俺の配信をそんなもの扱いした学校には怒り心頭だ。それこそカチコミでは済まないぐらいには。

 そんな感情を心にと留めつつ、俺はこの話し合いのステップを次に進める。

「まあそんな事は置いといて。部長なら何か考えがあるんじゃないですか?」

「まあな。でもそれは東雲、お前にしか出来ないんだ」

「え? 俺だけでですか?」

「そうだ。東雲には文化祭に動画部として出し物を出して欲しい」

「文化祭の出し物ですか……」

 部長が言うには動画部が廃部を言われた理由は文化祭にあるらしい。この弱小の動画部が今の今まで生き残ってこれたのは学校の貢献活動もあるのだが、一番の理由としては文化祭の出し物が原因らしい。動画部は弱小だが文化祭の出し物は毎年出している。

 だけど今年の代は先輩たちが受験期で忙しく、残ったのが俺一人だけだったからこれでは満足のいく出し物は出来ないので棄権していたのだ。だが恐らくそれが原因で今回の廃部宣告になったのだろう。

「まあそういうことなんだ。俺たちは来年で卒業するから別に大丈夫なんだがそれだと残された東雲に申し訳なくてな……。本当は俺だけの力で何とかしようとしたんだがな……。すまない」

「謝らなくても大丈夫ですよ。それなら俺やりますよ」

 どうやら動画部の存続のためには俺が頑張る他にないようだ。

「ありがとう。変わりと言ってはなんだが俺も受験勉強の合間を縫って手伝う。言ってもあまり力にはならないだろうが……」

「そんな事ないですよ、部長たちにはいつも助けられていましたから」

「それじゃあこれから頼んだぞ。動画部の未来について」

 そうして俺は動画部の未来を託されることとなった。

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