心通わせ

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第1話

「その敵激ロー! 激ロー!」

 静かな部屋の中、一人FPSゲームで盛り上がっている高校生がいた。今彼がやっているのはとある有名バトロワ系FPSゲームをプレイしている。

「よっしゃっ、チャンピオン!」

 ゲームをすること数十分、最後の敵の頭に銃弾を撃ち込むと同時に彼の画面にはチャンピオンの文字が浮かび上がる。

「いやー、あれはまじでエイムが神がかってた」

『GG』『ナイスチャンピオン!』『エイム上手すぎやろ』


「お? もっと褒めてもいいんだぞ。いやー、俺ぐらいのプレイスキルの高さになるとチャンピオンなんて余裕なんだわー」

『は?』『調子に乗んな』『最初即死してたじゃねぇかよ』

「ごめんなさい調子乗りました許してください」

『それでよろしい』『速攻で謝罪するのは草』『謝罪だけはプレデター』

 きっと傍から見れば彼の今の行動は可怪しく見えるだろう。では彼は画面に向かって一人で喋っているのだろうか?

 なら今彼がやっているのは何か? それは配信だ。

 最近だと高校生でもやっている人も多いのではないだろうか? 今どき珍しくもない高校生の配信姿。しかし一つ彼を、東雲司を一般的な高校生たらしめない理由が一つある。

「それじゃあ今回の部活動はこの辺で。ご視聴ありがとうございましたー」

 そう最後に言い残し、彼は配信を閉じた。


「疲れた……」

 二時間も配信をすると、好きで入った部活だが流石に疲れてくる。

 さっき配信の最後に部活動と言ったが、どうしてそういうのかは俺が入っている部活動に関係がある。俺が入っているのは動画部といって、配信や動画など映像関連を扱っている変わった部活だ。

 映像関連を取り扱うということで、部員が活動するためのパソコン三台が横一列に並んでいる。

 自分は一年と半年程在籍しているが、最初は単純にゲームが出来るからという安直な理由から動画部に入った。けれど今では先輩たちの教えもあり、一端の配信者となっている。

 まあ今年は新入部員が入ってこず、先輩も受験でたまにしか顔を出せていないので最近はもっぱら一人で活動することが多くなっている。


 時計を確認すると十九時をまわっていた。

 後にすることといえば部室の鍵を職員室へ返すだけだ。

 ちょっと変わった部活。それ以外はごくごく普通の日々。俺はその毎日が明日も続く事を疑いもせず、部室のドアに手を掛けようとした瞬間だった。

「すまん司……少し話がある」

「びっくりしたぁ……。どうしたんですか部長? こんな遅くに?」

 ドアを開けようとしたら逆に勢いよくドアが開き、思わず声が出てしまった。

 そんな俺に声をあげさせた張本人が息を切らしながら部室のドアを掴んでいたからだ。

  彼は動画部部長の武藤雄樹先輩だ。部長は今は受験期で忙しく部室にはめったにこないはずなのだ。一体どうしたのだろうか? 

 

 

 取り敢えず部長を部室に招き入れ、部長をデスクチェアに座らせる。今部長が座っているのは一年前、部長の定位置だった場所だ。そして俺も部長の隣のデスクチェアに座る。一年前だったらここで軽く世間話をしていたのだが、今回はその気になれない。

「何かあったんですか……?」

 部長の息が整ったのを見計らって、俺は先輩に話を伺う。

「信じられないとは思うが驚かないで聞いてくれ」

「はい……」

 先輩の有無を言わさない圧に俺はより一層頬を強ばらせた。

「動画部は……、動画部は今年で廃部になる……」

「え……」

 部長から出た言葉に俺は血の気が引いていくのを感じていた。

「どういう事ですか!? 動画部が廃部って! 一体どうしてなんですか!?」

「落ち着け。俺だって本意でこれを承諾している訳じゃない。どうして動画部が廃部する事になったのか、まずは学校側から言われたことを説明しないとな」

「と言うと……?」

「学校から提示されたのは主に二つだ。一つ目が部としての人数不足。二つ目が活動不足だ」

「一つ目はともかく二つ目は何故なんですか? 動画部として配信や動画作成とか色々してたじゃないですか」

「それについてはまだ言えないんだ……」

 俺の問いかけに部長は表情を曇らせた。

「どうしてなんですか! 動画部の危機なんですよ!」

「すまない……」

 先輩が俺に頭を下げる。

 そこまでされたら追求を止めざるをえない。

「それじゃあどうしますか? 動画部のこれからについて……」

「今後の対応は明日天城と一緒に考える。明日の放課後部室に来れるか?」

「勿論です」

「分かった。それじゃあ俺から天城に伝えておく。今日は本当にすまない……。戸締まりは俺がやっておくから先に帰っといてくれ……」

「分かりました……。それじゃあまた明日……」

 その日の帰り道が学校生活で一番憂鬱な帰宅となったのは言うま

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