第7話 タイトスカート、デザインはオフィスカジュアルに向きがちだけど動きにくいから本当はあんまり仕事に向いていないがち

 樹利亜が入社してから三か月。新入社員研修もすっかり終わり、本格的に働き始めた頃だろうか。久しぶりに、商品企画部の上原さんと飲みに行く機会があった。上原さんと二人って、ちょっと緊張する。彼女はおしゃれで仕事もできる、女性社員の中でもひときわ目立つ存在だ。公私ともに私にはとても良くしてくれる人なのだけれど、何が楽しくて私みたいな地味な社員を気にかけてくれるのだろう。紺色の七分袖ブラウスに、くすみピンクのレースタイトスカートはできる女性! って感じ。私もタイトスカートをはきこなせる女性になりたいし、上原さんのように誰もが信頼する社員になりたい。


「どうですか? 樹利亜ちゃんの様子は」


 間違いなく彼女の話題は出るだろうと思い、私は先に樹利亜の名前を出した。


「普通に優秀だと思うよ? 仕事の覚えも早いし」


 上原さんの言葉にはわずかに含みがある。


「まあただ、結構な頻度で榎本とぶつかってるのがねー」

「ああ、そうなんですか」


 まあ、榎本くんと合わないタイプの人間がいるというのは容易に想像はつくものの(実際、私はちょっと苦手)、それが樹利亜だというのが意外だった。榎本くんのようなてきぱきとした人間と、樹利亜のようにはきはきとした女の子は、往々にして仲が良いイメージがある。


「たぶんね、長岡さん、そもそも男性が苦手っていうか、嫌いなんだろうね」

「へえ」

「清水ちゃん、学生の頃気づかなかった? ――っていっても、小学生の頃は平気でも、今は苦手なものは誰しもいっぱいあるもんね。そのころとは変わってるか」


 これまた意外だな、と思った。小学生の頃、彼女はいつも男子の注目の的だったように思っている。美人でそこそこ頭の良い転校生は、もちろん女子からの歓心も買ったけれど、それ以上に男子の興味を引いた。転校してしばらくすると、樹利亜は男子とよくふざけ合っていた記憶がある。――中学高校、もしくは大学で嫌なことがあったのだろうか。


「……まあ、上の人たちは長岡さんのこと、『良くも悪くも今時の子』って言ってるよ。賢いし、新しい業務の飲み込みも早いんだけど、自分と他人の価値観が合わなかったら、すぐに他人を無能ってジャッジしちゃうところとか、苦手な人間とは働きたくないって切り捨てちゃうところとか」

「今時の子、別にそんなんじゃなくないですか」

「まあ、色々いるよねえ、実際。清水ちゃんも『今時の子』だけど、ちょっと違うもんね」


 結局、人による。それはどの世代であっても同じ。ただ、世代ごとに一定の傾向が見られる、というのは確かによくある話だと思う。私たちの世代は、昔ほど企業や社会に忠実であることを求められずに来たと思う。そして生産性の高い人間を是とし、無能な人間はたとえ年長者だとしても切り捨てて良い、そういう流れであることは事実だ。まだ学生だった頃、SNSで社会人の愚痴を眺めながら、「会社勤めって面倒そうだな」と漠然と感じていた。意地悪で頭の固い先輩にいじめられに行くのが仕事。そう信じて疑っていなかった。

 しかし、蓋を開けてみたらどうだ。もちろん、多くの人間が働いている以上、たまには理不尽なことも(取引先でお茶をかけられるのはその一例)、他人と意見が食い違うこともあるけれど、人には人の事情があるし、自分とは異なる立場から物事を見れば「ああ、なるほど」と納得することができることもよくあるし、なにより、他人を「無能だ」なんてジャッジできるほど立派な人間なんて誰一人いない、どんなに優秀な若手社員ですら、そんな資格はない。……と思っているのだけれど、そういう考えは古いのだろうか。っていうか、よく皆、自分と考えの違う人のことを堂々と「役立たず」「頭が固い」「無能」「非効率」だって言い切れるな、と感心する。私には無理、どんなに正しげな論理が自分の中にあったとしても、自分の意見を絶対とする勇気はない。羨ましい限り。

 価値観の問題は置いておくとして、いずれにせよ少なくともうちの会社にはお仕事小説の悪役レベルの理不尽な人間は少ないと思うし、そもそも新入社員なんて今の時期、みんな歓迎ムードなんだから、ありがたくその恩恵を受けておけばよいと思う。

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