Column.3 女子会の日、無駄にメイクのテーマを決めがち

 さて、上原さんのお誘いも断ってやってきました、高校同期会です。今日は学生時代にとても仲の良かった五人組で集まります! 準備もばっちりです。今日のメイクのテーマは、「それなりに幸せそうな人」。コーラルピンクベースのクリームアイシャドウに、チョコレートブラウンのアイラインとマスカラ。チークはオレンジにしてみたし、普段はあまり塗らないネイルも塗ってみました! 今日のお洋服は、おろしたてのボリュームスリーブブラウスに、内勤のときは職場にもよく履いていく花柄のスカート。どれもお気に入りです!

 これには理由があって、結婚によって生活が変わった私を心配する友人が多いから。なんだろう、昔なら結婚=幸せ、という方程式がなんの疑いもなく成り立ったものなのだけれど、一人でいたって幸せに生きていける今の時代、(特に私みたいな)自由人が結婚をするというのは、下手をすると不自由な生活を強いられて苦しいだけだ、という偏見を抱いている人も少なくはない。私は大丈夫だから。口には出して言わずとも、そう伝えたい。ネイルを楽しむことができる程度には、金銭的余裕も、家事負担的余裕もあるのだ――夫がいつも頑張ってくれているからこそ、周囲の人間には分かっておいてもらわないと、彼に無礼な気がする。





 私が通っていた女子中高一貫校はまあまあのマンモス校で、高校から入学してくる子たちもいなかった。だから正確に言うと「中学高校同期会」。中高同期、と言ってもいいのだけれど、他人に訊かれたときに「うちの学校は中高一貫校で……」なんて説明するのはちょっとイケていない。「高校同期会」と言っておけば多くの人にすっと納得してもらえる。

 あと、一時期「女子会」という言葉が流行ったし、今日の集まりもいわゆる「女子会」に含まれるはずなのだが、最近その言葉を使うのはちょっとずつ恥ずかしくなってきている。「女子」という言葉に、「若くてキュートな女の子♡」という意味合いを含めているつもりは毛頭なく、「元女子高出身の女性同士が集まる会。女性会と言ってもなんら問題はないが、より語呂が良い方を選んだ」程度のものであるが、外野に変な邪推をされると面倒くさいので、知り合いに今日の予定を訊かれたときはやはり「高校同期会」と答えるようにしている。


高坂たかさかという名前で本日十七時から予約している者です」


 ちょっと高級な居酒屋を予約してくれた友人の名前を告げ、席に通してもらう。大体の場合、一番先に到着するのは私だ。

 ほどなくして店を予約してくれた友人が現れ、さらに続々と集まってくる。待ち合わせの場に集まる順番というのはなんとなく決まっていて、時間通りに来る子は時間通りに来るし、遅刻しがちな子は遅刻するものである。しかし、中学生の頃から十年以上の付き合いになる私たち、もはやお互いがどのタイミングで現れるかなんて承知済みだし、遅れてきた子を責めることも早く来すぎた私みたいなのを責めることもしない(早く来た子を責めることなんてありえないでしょうと思った? 意外とそうでもないのよ、特に遅刻癖のある子なんて「あんたみたいなせっかちがいるとこっちの気が休まらない」なんて平気で言ったりするもんなんだから。こっちが責めない限りは放っておいてほしい)。




 さて、本日のメンバーは比較的穏やかで、あんまり遠慮もいらない間柄である。メインの話題は毎回、仕事→恋愛→美容→中高時代の思い出→最近の趣味、の順番。つい最近までは私の結婚がトピックに挙がりがちだったが、ようやく落ち着きつつある。


「結局、医療一択ってこと?」

「まあ、特段の事情がない限りはそうらしいよ」

「でも痛いんでしょう」


 さあ、何の話題でしょうか?


 正解は、おすすめの脱毛サロンです!


 最近、恋愛とどっこいどっこいの重要度で語られるのが、脱毛や矯正歯科、その他美容医療の話題なのだ。――実はこのグループ、女医二名・キャビンアテンダント・メガバンク勤務・大手IT企業SE(←私)という構成で、それなりに派手な職種の人間が集まっている。こう言うと「学生時代もスクールカーストトップに君臨して地味な子をいじめていたんだろうな」なんて邪推されるのだが、学生時代の私たちはどちらかといえば地味なタイプの眼鏡集団であり、こんな華やかな話題に足を伸ばしはじめたのはここ一、二年の話である。

 とはいっても、やはり医者と一般的なIT企業勤務若手OLとの間にはそれなりに世界の違いがあるわけで。――ああ、美容も、医療も、スキルアップの方法も、何もかもがこうやって発達している今の世の中で、お金をダントツに持っている人は、どんどん先に進んでいくというのに、その他の人間はどんどん遅れて行ってしまうんだろうな、と感傷に浸っていた、そのとき。


「……全く、自分がムダ毛薄いからって、我関せず顔しやがって!」


 そう言って私の前腕部を揉む友人。揉むなし。


「そうだよ、まったく、人が三十万かけてようやく到達するところに居やがって!」


 冗談めかして私をからかう友人の声を聴きながら、あ、そういえばこいつら同じ高校の同じグループ出身だったわ、と思い直す。私は結構、他人を突き放そうとしてしまう癖がある。その衝動は、相手が自分より上だと思い気後れをしてしまうようなときにも生じるし、相手が自分をないがしろにしたと感じたときにも生じ得る。そんな私を、十年以上もの間、月一の女子会に誘ってくれる友人たちの存在は本当に貴重なものなのである。

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