第5話 月曜の出社は気合を入れるために明るい色のワンピース着がち。服装規定緩くて助かった。あとコンタクトは買った

 月曜日。


「おはようございます! 先日はありがとうございました、いろいろとご馳走になってしまって」


 始業十分前、樹利亜がわざわざ席の近くまで来て声をかけてくれた。


「いえいえ、私だってだいぶんご馳走になってる側だから」


 実際、まだまだ若手扱いの私は自分の食べた分すら全額は支払っていない。管理職、いったいいくら払ったんだ。


「お仕事のお話もたくさん聞けてよかったです。これから頑張ろうって思いました」


 樹利亜の本心はあまりよくわからないが、どうやら例の件はあまり根に持っていないようだ。少なくとも、怒ってる感は出さないようにしようとしているのだと思う。


「仕事、大変なこともあるかもだけど、面白いこともいっぱいあるから頑張ってね」

「はい、頑張ります」


 当たり障りのないコメントをした私の両手を、樹利亜はがばっと彼女自身の両手で包み込んだ。


「清水さん。女性同士、同郷同士、これからよろしくお願いいたしますね」

「みんな見てるから……あと同郷っつったって、都内でしょう」


 これがお互い北海道や沖縄出身だったら、こんな遠い土地で再会するなんて、という驚きもあろうものだが、お互いに都内育ちだと、「まあ、うっかり鉢合わせることもあるよな」くらいのテンションにしかならないのが普通である。






「すみません、来週期限の資料、とりあえず昨年の雛形に沿って作ってみたんですけど、ご確認お願いできますか? ちなみに付箋が貼ってあるところなんですけど、どうやら今年ちょっと変更があったようで……」


 眠くなりがちな昼休み直後は、一人で集中する仕事よりも先輩に声をかけたり、隣の部署までアクティブに動くような仕事をするのが吉だと思っている。――まあ、実際は必ずしもそんなにうまくいくとは限らないのだけれど。

 しばらくして係長から資料が戻ってきた。


「全体的にめっちゃいいと思うよ。……ただ、ここだけちょっとフォントがおかしいかも。後の付箋は、文章に関する俺の趣味の問題だから、直すか直さないかはそっちに任せるよ」

「……フォント、確かに間違ってますね、申し訳ないです。では、これ全部修正して、そのまんま課長に提出しちゃいますね」


 大きな問題がないようで安心した。ふっとため息をついた瞬間、パーテーションの向こう側から大声が聞こえてきた。


「そんなしょうもないことに時間使ってるんですか? 非効率的です」


 あ、これ、樹利亜の声だ。


「隣の部署の新人さん? 同郷だって聞いたけど」

「嫌な予感しかしないですよ、もう」


 私は頭を抱えた。

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