多華子と大家さんの立ち話
「ん?ああ、あの大学生の子なら地元に帰ったよ」
やっぱりそうだったのだ。
「どうしてそんな悲しい顔をするの?」
地元に帰ったということはこっちでの就職を諦めたということだ。自らは就活で失敗し、相談してきた子までを救えなかった自分が情けなくてしょうがなかった。
「大家さん、あの子は、あの子はどんな顔で出ていったんですか?」
「それが分からないんだよ。紙だけ置いてどっか行っちゃったからさ」
「…それじゃあ、どうして地元に帰ったって分かるんですか?」
「それは…手紙があったからね」
「じゃあその…手紙の字は?…どんな字をいましたか?!元気そうな字でしたか?悲しそうな字でしたか?!」
「もう落ち着きなさい!」
多華子は両手で目をこすった。
「どうしたの?泣くことはないでしょう。あなたは自分の経験をもとに丁寧に答えてあげただけじゃない。さあほら、そろそろ仕事に行く時間よ。ほら」
大家さんに言われて初めて気づいた多華子は急ぎ足で仕事に向かった。
「頑張りなさいよ~」
多華子の背中に向かって声をかける。でも本当は自分自身に納得出来ていなかった。
「これでいいのかしら…」
大家さん自身がどのように声をかければ良いか分からなかった。悩みを解決させるどころか余計に悩ませってしまってはいないか?それでも仕事に走って向かう多華子とは対照的に大家さんはいつもよりとぼとぼ歩きながら自分の部屋に戻っていった。
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