第3話 ヒートアップするパワーハラスメント
管理職との中間面談が運動会後に行われた。
「体調は大丈夫ですか?」
楓は、度重なる徳永からの暴言に身体をやられ、六月ぐらいから生理不順が続いていた。また誰の目から見ても憔悴しきっている様子であったため、初任者研修や部活動の指導の合間を縫って、病院に行くように勧められていた。
「はい、夏休み中に少し病院に通えました。」
「管理職から、何か彼を刺激するようなことを言うと、授業の邪魔をしに行くでしょ、彼は。保護者からもクレームが来ていてね、参っているんですよ。そりゃ、子どもは怖いと怯えますよ。よっぽど指導教諭が嫌なのかね。あなたにこれ以上、被害が行かないように、私共も彼には何も言わないようにしているんです。あと半年ですから、頑張れますか?」
「はぁ。」
正直、境域はとうに超えていた。だが、指導教諭の変更がきかないことは懇願しなくても分かっていたし、初任者に意思がないことも理解していたから、あらゆることを堪えるしかなかった。
「とりあえず、もうソフトボール部の顧問からは、徳永さんは外れてもらいましたから。科目だけじゃなく部活も徳永さんと一緒は辛いでしょ。徳永さんには、顧問のトレードと言うことで、代わりにバドミントン部に行ってもらうことにしました。あなたも少しは身体を休めないとね。」
管理職は憂惧の表情を見せる。心から心配しているというよりは、何とか早くこの年度が終わらないか、と願っているような表情にも受け取れる。
管理職が徳永の顧問を外してくれたのは、楓の身体を気遣ってのことではなかった。
夏休み中に県内で中学校合同の練習試合があった。その時、まだ身体の出来ていない一年生が、何人も熱中症で倒れたのだ。外は三十二度を超えていた。
まず午前中に一人が倒れた。楓がスポーツ飲料を与えようとしたら、
「甘やかしたらいかん、余分に持ってこなかったそいつが悪い!」
と言いだし、生徒からドリンクを取り上げたのだ。それでも青白い顔をしている生徒を楓はこっそり外に出し、水分を与え続けた。
午後には二人、熱中症を訴えてきた。既にふらついていたので風の当たるところに寝かせ水分を取らせていたら、
「おまえ、どうして二人もいっぺんに出すんだよ。別々に出させないと甘えが出るんだよ。本当は立てるはずなのに、立てなくなってしまうんだよ。一緒に対応しちゃ駄目なんだ。そんなこともわからんのか。」
と一般人には理解に苦しむ叱責を受けた。
「彼女はふらついています。どうか水分だけでも与えさせてください。」
と懇願し、楓は足りなくなったスポーツドリンクを買いに近くのドラックストアまで走った。
楓がスポーツドリンクを抱えて戻ってきたとき、体育館横に救急車が来ていた。生徒の一人が痙攣を起こし、他の中学校の先生が救急車を呼んでくれたのだという。
当然だが、この一件で保護者から大きなクレームが来た。その後の保護者との話し合いの席で徳永は、すべて楓の判断ミスのせいにしたのだ。
「森川は今年教員になったばかりの新米です。こいつの判断ミスのせいで、ご息女には多大なご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした。」
初任者研修に行っており、その席に同席しなかった楓は、そのように徳永が保護者に説明したことを後で管理職から聞かされた。
「ただね森川さん、保護者に徳永さんがそういう風に説明した後、家で子どもがね、親に対して『森川先生はずっと介護してくれたよ。無茶苦茶言っていたのは、徳永のじじいの方だよ。』って言ったらしくてさ。そうだろうなとは思っていたよ。徳永さん、過去にも似たようなことをしでかしているんだよね。彼にはソフトボール部を外れてもらうことにしたけど、森川さん顧問を、今度から一人で大丈夫だよね?お願いしますね。」
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