探索開始
「佑、朝、起きて。」
朝、ノックとドア越しの紬(高藤)の声で目が覚める。
俺はスマホを目覚まし時計代わりに使っていたため、紬が起こしてくれる事になっていた。
「佑、起きた?」
「ああ、起きた。ありがとう。」
「ん。」
俺が起きたことを確認して紬は去っていった。
朝女の子に起こして貰うっていいなと思った。
そんなこと思ってる場合じゃないんだが。
寝巻替わりの体操着から制服に着替えリビングルームに行くと、既に3人は席に着いており、テーブルには朝食が用意されていた。
「おふぁようございます。」
香奈恵さん(桐谷さん)は朝は弱いらしい。ギリギリ起きてるといった感じだ。
莉心(椎名)は4人の中で一人だけ、体操着を着ている。
「むしろ制服に着替えなきゃいけない理由が分からない。」
莉心の意見も一理ある。少なくとも今日学校に行ける確率は低い。
「眠れた?」
紬がこちらを見て言う。
この状況では絶対に眠れないと思ったが、予想に反して昨晩はぐっすり眠れた。
眠れたことと起こしてくれたことへのお礼を改めて言って、俺は席に着いた。
テレビは既につけてあってニュース番組が映っている。
誘拐のニュースは流れていない。高校生が4人も同時に行方不明になったのだから間違いなくニュースになるだろう。
だが昨日の今日だ。ニュースなどに取り上げられるのは、もう少し経ってからかもしれない。
朝食後、午前中は各自自由時間とすることになった。
こういう状況だからこそ個人の時間も大切にすべきというのが理由だ。
ただ提案者はすごく眠そうだったので、二度寝するための口実かもしれない。
特にやることもないので、俺は一人探索を続けることにした。
とりあえずもう一度屋敷入り口まで行ってみたが、やはり門は開かなかった。
その後はタブレットの『マップ』を頼りに洋館の探索を行った。
――― 一時間後
俺は廊下途中にある両開きの大きな扉の前に立っていた。
「佑、何やってるの?」
そう声を掛けてきたのは莉心だった。制服を着ている。
結局、香奈恵さんと紬に怒られて着替えたらしい。
俺は莉心にタブレットを見せる。
タブレットの『マップ』ではこの扉の先に階段があると表示されている。
だが扉には鍵が掛かっていて先に進めない。
「OK。じゃあ3・2・1で行くよ!」
莉心はやる気に満ちた顔で肩を回しながらそう言う。
莉心がやらんとしてることは何となく分かる。体当たりでドアを破るというシーンは様々な作品に登場する。
だがこの扉を俺と莉心の力で破れるとは到底思えない。
「いや、やらないからな。」
「なんで?ノリ悪い!!」
莉心はどうしてもやりたいらしい。
頑なに拒否すると、拗ねた莉心は俺の手からタブレットを奪い取り、画面を指でモシャモシャし始めた。
まあそれで気が晴れるなら思う存分モシャモシャしてくれ。
この館は迷路のような構造をしており、変なところに壁があったりする。
階段の前に扉があるというのも普通ではない。
「?、なにこれ?」
モシャモシャしていた莉心の指が止まる。
壊したんだろうか。そう簡単に壊れるものなんだろうか。
彼女の持つタブレットを覗き込むと、映っていたのは『使用人たちの話』だった。
ただしその内容は昨日見たものとは異なっていた。
∞∞∞ 使用人たちの話 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
メイド1『鍵は猛獣の口の中。』
メイド2『まあ怖い!無闇に取ろうとすれば大怪我してしまいます。』
メイド1『大丈夫、猛獣は夜行性ですので昼間は眠っていますから。』
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
いつ変わったんだろうか?
鍵という言葉が気になった。ちょうど鍵がなくて困っている状況だ。
昼食の時間になり、香奈恵さんと紬にも『使用人たちの話』のことを伝えた。
なぞなぞか何かではないかという話になったが、真相は分からないままだった。
結局その日は調査に大きな進展もなく夜になった。
21時30分、風呂に入る。
風呂には洗濯物カゴがあるため、俺が先に入ることになっていた。
浴室は銭湯並みに広い。女の子たちは3人一緒に入っているようだ。
浴槽いっぱいに張られたお湯は温度加減もちょうどよく気持ちがいい。
「このままじゃマズいよな・・・。」
誘拐されてきたはずなのに至れり尽くせりの生活。
誰もいない筈なのに用意される食事や風呂。
明らかに奇妙なのにこの生活を受け入れて始めてしまっている自分がいる。
女の子たちも同じなんじゃないだろうか。
誘拐犯の目的も未だに分からない。
『使用人たちの話』の内容が変化したことは何か意味があるんだろうか。
色々考えながら、ふと横を見る。
「・・・猛獣。」
そこにはお湯を吐くライオンの頭の石像があった。
俺はライオンの口の中を覗き込む。すると何か光るものが見えた。
ただライオンが吐くお湯はかなりの熱湯で、手を入れるわけにはいかない。
棒のようなものがあれば取れるかもしれないが、お湯に乗って流れ出て来ないということは固定されている可能性が高い。
「昼間は眠っている、か。」
俺は『使用人たちの話』の内容を思い出していた。
つまり昼間のお湯が止められている時に来いと、そういう意味だろうか。
――― 次の日
朝食後、俺は浴室に向かった。
浴槽のお湯は抜かれており、ライオンもお湯を吐いてはいなかった。
俺はライオンの口の中を覗き込む。
やはりそこには鍵があった。
鍵には「南棟1階階段前」というタグが付けられており、そのタグ通り階段前の扉をこの鍵で開けることができた。
ただ開けられたのはその扉だけで、他の扉には違う鍵が必要なようだった。
―――
俺は3人に鍵を見つけたことを伝えた。
「昨日お風呂入ったのに、全然気づかなかった。」
「これで二階に上がれますね!」
紬と香奈恵さんが賞賛してくれる。ありがとう。
「元はといえば莉心のおかげだけどね。」
莉心が自慢げに言う。そうなんだろうか。
ただ素直に喜んでいいものかは分からない。
確かに行動範囲は広がったが、今回の俺の行動は誘拐犯の思惑通りだったはずだ。
「魔女か。」
俺は呟く。
俺たちを誘拐し、現在のこの生活を提供している人物。
その目的は未だ分からないままだ。
「そのことなんですが・・・。」
香奈恵さん持っていたタブレットをみんなに見せる。
そこには『マップ』が表示されており、3階のさらに上、屋根裏の間取りが表示されていた。屋根裏には一つだけ部屋があり、部屋の名称は、
『魔女の部屋』
と書かれている。
この場所に魔女がいるのだろうか。
謎を解いてこの部屋まで来いということだろうか。
何にしても俺たちのやる事に変わりはない。
これからも脱出方法の模索と屋敷の探索、二つを並行してを続けていくだけだ。
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