ある日の探索風景

∞∞∞ 使用人たちの話 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


 メイド『本なんか読んでどうしたの?』

 フットマン『いやこの本に出てくる家がこの家に似てるなって思って。』

 メイド『そうかな?』

 フットマン『ほらここ、鍵の置き場も一緒。』

 メイド『あら、本当だ。』


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 昼食後、俺と香奈恵さんは南棟の2階にある「図書室」という部屋に向かった。

 『使用人たちの話』の内容が本に関するものだったためだ。

 学校でもないのに図書室というのは変な呼び名だが、この洋館は変なことばかりなので気にしても仕方がない。


 だが部屋に入ると、そこは思った以上に学校の図書室に似ていた。

 書籍の棚が立ち並び、その前には読書用の机が置かれている。

 入り口付近には雑誌コーナーもあり、ファッション雑誌などが置かれている。


 ただ棚をよく見ると本の分類がおかしい。

 『児童書』、『図鑑』、『地理・観光』、『性教育』・・・

 何だろうこのちぐはぐ感は。


「手分けして調べましょう。」


 香奈恵さんはそう言うと、棚から数冊の本を机に運び、それを読み始めた。

 俺はまず『地理・観光』の棚に向かった。


 『地理・観光』の棚は旅行ガイドブックと各地の写真集で埋め尽くされていた。

 殆どが国内のものだが、海外に関する本も数冊混ざっている。

 

 俺は上段左端の本を手に取る。どの本に洋館が載っているかは分からない。

 総当たりで探すしかない。


――― 十数分後。


 流石に疲れる。日本国内だけでも思った以上に洋館があるらしい。

 その上『使用人たちの話』にはどこが似ているのかが書かれていないため、何を手がかりに探せばいいのかも分からない。

 俺は少し休憩することにした。


 ふとあたりを見渡すと『性教育』という札が目に入る。

 『性教育』だけで独立した棚があるというのはどういうことなんだろうか。

 ほんの少し気になる。


 香奈恵さんの所在を確認する。彼女まだ机で本を読んでいるようだ。

 俺は音を立てないよう静かに『性教育』の棚に移動した。


 『性教育』の棚にたどり着くと、何と言うことだろう、そこには一般的に言われてる性教育とは異なる内容と思われる本がたくさん並んでいた。

 本の多くは夜の営みのノウハウについて書かれた本のようで、中には過激な内容を思わせるタイトルの本もあった。

 俺は後学のためその中の一冊に手を伸ばす。


「やっぱりこういうって興味あるんですか?」


 ・・・いつの間にか後ろに香奈恵さんが立っていた。

 香奈恵さんはいつもと変わらない口調で俺に質問する。


「いえ、あの調査のため一応・・・。」


 俺は精一杯の声でそう返すと、香奈恵さんと目を合わさないようすーっと棚の裏側に逃げこんだ。

 そこは『児童書』の棚だった。


(なんでの成人向けの棚の裏が児童書なんだよ!)


思ったが口にはしなかった。


―――


 『児童書』の棚はグリム童話シリーズで埋まっていた。


狼と七匹の子山羊

ラプンツェル

ラプンツェル

ラプンツェル

ヘンゼルとグレーテル

灰かぶり姫

灰かぶり姫

灰かぶり姫

赤ずきん

ブレーメンの音楽隊

いばら姫

いばら姫

白雪姫

白雪姫

白雪姫

星の銀貨

・・・


「一冊しかない本と2〜3冊ある本があるの何故だろう?」

「人気があるか無いか、でしょうか。」


 俺の疑問に香奈恵さんが答える。言われてみると確かに複数ある本はどれもお姫様、王子様の出てくる人気の作品ばかりだ。

 俺は一つ一つ作品名を確認していく。


「人魚姫は無いんだな。」


 人魚姫もお姫様、王子様の物語のはずだが、ここには一冊もない。


「・・・人魚姫はアンデルセン童話です。」


 香奈恵さんが少し怒った口調で答える。

 無知を晒してしまったか。

 なんか香奈恵さんの俺に対する好感度がどんどん下がってる気がする。


 そんな時、一つの作品が目に止まった。それは「ヘンゼルとグレーテル」。

 この作品に出てくるお菓子の家はたしかだったはずだ。

 俺は「ヘンゼルとグレーテル」を机に持って行き香奈恵さんと一緒に読み始めた。


 何となくは知っていたが、ちゃんと読んだのは初めてかもしてない。

 もっとメルヘンな感じかと思っていたが、魔女はヘンゼルとグレーテルを食べようとし、最後にはグレーテルが魔女を殺してしまう、思ったより残酷な物語だった。


「これだと思ったんだけどな・・・。」


 最後まで読み終えたが、残念ながら鍵の記述は無かった。

 やはり総当たりで探すしかないのだろうか。


「いえ、この本であってると思いますよ。」


 香奈恵さんはクスッと笑い、一枚の挿絵を指差す。

 それは台所を描いた絵で、そこには調理器具と一緒にぶら下げられた鍵が描かれていた。


―――


「魔女は何故子供を食べようとしたんでしょうか。

 食べ物には困っていなかったはずなのに。」


 調理室に向かう途中、香奈恵さんが呟く。

 ヘンゼルとグレーテルに出て来た魔女のことだろう。


「・・・子供が好物だからって本には書いてありましたね。」


 この洋館の魔女も俺たちを食べるつもりで太らせているんだろうか。


「まあでも悪い魔女が勝つ童話おはなしはありませんよ。」


 香奈恵さんは暗くなってしまった雰囲気を誤魔化すように明るい声で言う。

 俺は大きく頷いた。


―――


 香奈恵さんの予想通り、鍵は調理室に調理器具と一緒に置いてあった。


 あと鍵とは別に、調理室にジュースやお菓子が置いてあることも発見したが、とりあえず莉心には黙っておく事にした。

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