魔女の館
「なんだこれ・・・。」
1階の探索を開始してすぐ、俺たちは其々の名札がかかった部屋を発見する。
『佑の部屋』と書かれたその部屋の中には信じられない光景が広がっていた。
そこにあったのは俺の部屋ほぼそのものだった。
ベッド、机、棚、どれも俺の部屋にあった物そのものだ。
ベッドに腰掛ける。間違いなく俺のベッドだ。
思考が追いつかない。わざわざ俺の部屋から運んだのか?どうやって?
途方に暮れているとトントンッとドアをノックする音と桐谷さん声が聞こえた。
「山野くん、ごめんなさい、ちょっと来て貰えますか?」
ドアをあけるとそこには困惑した表情の桐谷さんがいた。
彼女に連れて行かれたのは『佑の部屋』の向かいの部屋だった。
部屋には高藤も来ていた。
そこはかなり広い部屋だった。
大きなテーブルを囲むように椅子が並べられ、壁にはテレビが設置されている。
それだけであれば何の問題の無いのだが、問題は机の上に4人分の食事が用意されていたことだ。
「よかった、すごくお腹空いてたんだ!」
後から来た椎名が用意されたパスタを前に無邪気に喜ぶ。
しかしこれは食べていいものだろうか・・・残りの3人は顔を見合わせる。
「いただきます!」
どうするか迷っていると、椎名が席に着きパスタを食べ始めてしまった。
俺と桐谷さん、高藤はそれをじっと見つめる。
「??、みんな食べないの?おいしいよ?」
俺たちの視線に気付き、椎名は不思議そうにこちらを見る。
まあ毒を盛るつもりであれば、眠らせた時すでに飲ませるなりしてる筈だ。
3人は椎名に異常がないのを一応確認してから席について食事を始めた。
パスタはとても美味しかった。
食事中、テーブルの上にテレビのリモコンが置いてある事に気がついた。
テレビは普通に見られるようだった。
チャンネルを変えてみたがローカル放送局を含めチャンネル構成に違いは無い。
やはりここはT市内かその近郊のようだ。
今日が6月4日で、現在の時間が午後2時であることも分かった。
6月3日の記憶はあるので、連れて来られてまだ一日も経っていないと分かる。
「ごちそうさま。」
結局全員パスタを完食した。
食後、俺たちは再び情報交換を行った。
話を聞いたところ、女の子たちの部屋も『佑の部屋』と同じように普段生活している部屋が再現されているようだった。
俺は高校が実家から遠かったため一人暮らしをしている。
なので家から家具が持ち出された可能性は、低いが0ではない。
だが女の子たちは違う。家族に気付かれずに家具を持ち出すのは不可能だ。
そしてますます誘拐犯の目的がわからない。
屋敷に誘拐した相手の部屋を再現し食事も提供する。
一体俺たちをどうしたいのだろう。
相談の結果、もう一度それぞれの部屋を詳しく調べ、役に立ちそうなものがあれば持ち寄るという事になった。
『佑の部屋』に戻った俺は、改めて部屋を確認する。
この部屋は元の部屋よりも小さく形も違う。それでなのかは分からないが、俺の部屋にあったものが全てここにあるわけではない。
例えばテレビは無くなっている。あと何故か私服も無くなっているようだ。あるのは学校の制服、体操服、下着だけだ。
俺は何か使えるものが無いか部屋を探し始めた。
しばらく探した後、ふと机の上に目をやると、そこに俺の部屋には無かった見慣れないものが置いてあることに気が付いた。
――― 十数分後
食事をした部屋に戻ると3人とも既に戻ってきた後だった。
食器類が無くなっている。
話を聞くと最初に戻ってきたのは高藤で、その時には食器は既に無かったらしい。
椎名がテレビに何かしようとしている。
テレビは貴重な情報源だ。壊されては困る。
椎名をテレビがから引き剥がすと、その手には流行りのテレビゲーム機があった。
「みんなで遊ぼうと思って。佑も一緒にやろ。」
椎名は満面の笑みを見せそう言う。
ゲーム機は俺が後で取り付けるからと説得して、椎名を席に座らせる。
椎名が持ってきたのはゲーム機とソフト。
高藤が持ってきたのは腕時計だった。
学校にして行っていたものはここに連れてこられた時に取られてしまったが、部屋にあったものは無事だったそうだ。
桐谷さんが持ってきたものは、筆記用具にノート、ハサミやテープといった文房具、裁縫道具、乾電池、生理用品などなど、役に立ちそうなものが満載だ。
俺が持ってきたものは二つ。一つは救急箱。
これが自室にあるのは一人暮らしならではだろう。
そしてもう一つは机の上に置いてあったもの。それはタブレット端末だった。
「おお、iP○d?」
椎名が興味津々で覗き込む。
「いやそういったメーカー品ではなさそう、それに・・・」
そう言いながら俺はタブレットの電源を入れる。そこに表示されたのは、
『魔女の館にようこそ!』
という大きな文字。
そして『マップ』『使用人たちの話』というアイコンだった。
俺は『マップ』というアイコンをタップする。
すると画面にはこの屋敷の間取り図と思われるものが表示された。
各部屋には名称も書かれており、例えば今俺たちがいる部屋は「リビングルーム」と書かれている。
「もう一つの『使用人たちの話』というのは何でしょうか?」
桐谷さんの質問に答えるため、俺は『マップ』を閉じて、今度は『使用人たちの話』のアイコンをタップする。
すると画面には、
∞∞∞ 使用人たちの話 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
執事『朝食は7時30分、昼食は12時、夕食は19時、浴室の使用は21時から25時までです。』
執事『他の仕事に支障が出ますので、これからは時間を守ってくださいね。』
執事『洗濯物は脱衣所のカゴに入れて置いてください。洗っておきますので。』
メイド『やるのはすべて私たちですけどね。』
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
という文章が表示された。
まるで誘拐犯が俺たちにこの洋館で生活しろと言っているような文章だ。
桐谷さんも同じように思ったようだった。
「私たちに危害を加えるつもりは無い、と考えていいんでしょうか・・・?」
誘拐犯の目的が分からない以上断言はできないが、この文章を信じるなら、とりあえず普通に生活をさせるつもりのようだ。
「これ、時計代わりにも使えますね。」
桐谷さんが言う。
確かにタブレットの画面上部には小さな時計が表示されている。
時間も正確なようだ。
その後、その日はタブレットの『マップ』と実際の部屋の確認で過ぎていった。
鍵のかかった部屋が多かったが、浴室、トイレ、洗面所など生活に必要な部屋は一通り使えることが分かった。
19時、リビングルームに向かうとそこには豪華な夕食が用意されていた。
この屋敷には間違いなく自分たち以外の誰かがいる。だがその姿は確認することができない。
もしかして本当に魔女がいて魔法で料理を作ったり運んだりしているんだろうか。
夕食後、これからのことについて話し合いを行った。
この屋敷から脱出するという目的に変更はなく、明日以降も調査を続ける事。
あとお互いを下の名前で呼ぶ事になった。
女の子たちが下の名前で呼び合っていたのと、椎名が俺のことを「佑」と呼ぶので、そういうことになった。
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