魔女の部屋

とら

はじまり

 何があったのか覚えていない。ただ気を失っていたようだ。

 気を失う前の記憶がはっきりしない。

 登校途中だったっか、いや学校には着いたんだっけ?

 気が付くとそこは知らない西洋風の部屋で、俺はソファーに寝かされていた。


「異世界転移・・・とかじゃないよな」


 ふと出た言葉がそれだった。そんなこと言っている場合じゃないんだが。

 まだ頭がぼーっとするが、状況を確認しようと俺はソファーから起き上がった。

 俺は学校の制服を着ていた。やはり学校へ向かったのは確かなようだ。

 財布が無くなっている・・・。

 スマホはカバンの中に入れていたが近くにカバンは無いだろうか。

 辺りを見渡そうとしたその時、


「あ、あの・・・!」


 突然後から声を掛けられた。女性の声だった。

 驚いた俺は慌てふためきながら振り返った。

 さっきの言葉を聞かれていたかもしれないと思うと恥ずかしくて、顔は真っ赤になっていたと思う。


 振り返った先には3人の女の子が立っていた。

 3人とも異なった学校の制服を着ているが、どの制服も見覚えがある。

 俺と同じT市内の高校の制服だ。

 ここは異世界では無かったようだ。


 3人ともこちらをかなり警戒している。

 まあ挙動不審なところを見せてしまったばかりだし、これは仕方がない。


「驚かせてごめん、俺、気付いたらここにいて、何が何だか分からなくて・・・。

 えーと俺は澤北高校の2年で山野やまの ゆうっていうんだけど。」


 平静を取り繕いつつ、とりあえず名乗ることにした。

 T市内の高校生であれば澤北高校は知っている筈だ。

 一応ソコソコの進学校なので印象も悪くない・・・ハズ。


「あの、私たちも気が付いたらここにいて・・・何も分からなくて」


 3人の中の一人が返事をしてくれた。良かった。

 それから俺は3人と自己紹介および情報交換を行った。

 女の子たちの話だと、皆別々の部屋で眠らされており最後に目を覚ましたのが俺だった、ということらしい。

 皆持ち物はすべて無くなっていたそうだ。


「とりあえず外に出よう。」


 俺は女の子たちにそう提案した。

 何が起きたのかは分からないが、とにかく警察に助けを求めるべきだ。

 女の子たちも同じ意見で、俺たちはとりあえず建物から出ることにした。


 エントランスから外に出ると、そこには整備された庭園が広がっていた。

 日の光が眩しい。太陽の高さからすると昼を過ぎた頃だろうか。

 振り返ると建物はかなりの大きさの洋館であることが分かった。

 3階立て、面積は学校の校舎くらいあるかもしれない。


 庭園の向こうには大きな門が見える。

 俺たちはその門へと向かった。


――― 数十分後、


「ダメか・・・。」


 残念ながら門は固く閉ざされており、開けることはできなかった。

 門の両側には塀が続いている。高さは3m程、家具などを運んできて足場にすれば飛び越えることもできそうだが、

 塀の上には電気柵のようなものが張られており容易に試す訳にはいかなかった。


 門からの脱出を一旦諦め、俺たちは洋館に戻ることにした。

 エントランスについた俺たちは、そこに置かれていた長椅子に腰掛けた。

 俺は改めて女の子3人を見る。



 桐谷きりたに 香奈恵かなえさん


 私立 美ノ杜みのもり学園の3年生。

 俺が目を覚ました時、最初に話しかけてくれたのが桐谷さんだった。

 背中まで伸ばした黒髪が綺麗だ。しっかりした性格といい、きっと良いところのお嬢様に違いない。



 高藤たかとう つむぎ


 県立 誠立せいりゅう高校で俺と同じ高2だ。

 髪はショートカットで、肌が少し日に焼けている。

 スポーツ少女って感じだが、人見知りしてるのか口数は少ない。



 椎名しいな 莉心りこ


 私立 明育めいいく大学付属高校の1年生。

 ちっこい。髪の毛がフワフワしている。

 一つ後輩だが高1ってこんなに幼かったっけ?



 皆それぞれに可愛く学校じゃモテるんだろうなーとか、そんなことを思った。(美ノ杜学園は女子校だが)


「これからどうするの?」


 椎名がみんなに尋ねる。

 俺は次の手を考えるがなかなか良い案が出てこない。

 少しの間があって、


「とりあえず建物内を探索して休める場所を探しましょう。あと飲み水の確保とできれば食料も。」


 そう切り出したのは桐谷さんだった。

 このまま脱出方法を探し続けるのは体力を消耗させる事になる。

 まず休める場所を確保するという意見は妥当だと思った。

 他の二人も桐谷さんの意見に同意し、今度は洋館の探索を行う事になった。


 ここから俺たちの奇妙な共同生活が始まる事になる。

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