第13話 AIVIS特有の病です
この世界の人間は、
その事実に
その傍らで、いつの間にか
『あの』
「なに?」
俺は小さく首を傾げた。
すると彼女は俺の前で両膝を地面に付けた。
まるで神に祈りを捧げるような姿勢。いったい何をしているのかと不思議に見ていれば、唐突と俺の頭を寄せて優しく抱きしめた。
「なっ……!」
大きく柔らかい熱の無い胸。二つの山に埋まる顔。自分の心臓が波打つ音を耳の奥に感じる。
「あ、あの、なにして……」
『いえ。ただ貴方に対して何かして差し上げなければと思いました』
囁きかけるように言いながら、
パサついた髪が細い指に
(なんか、懐かしい感じ……)
緊張と安心が混ざり合う不思議な感覚に包まれて、速まる鼓動は徐々に落ち着いていく。
北河から馬鹿にされ落ち込んでいる俺を、慰めてくれているのだろうか。
いっそこのまま眠りに落ちたい。そう思えるほどの心地よさに俺は瞼を降ろした……その瞬間。
――ガシッ!
後ろ髪を思い切り引っ張られ、ふくよかな胸から顔を引き摺り出された。
「なにしてんのよアンタ……!」
ドブの中に落ちた饅頭を見るような北河の眼。刃物のような視線が俺を冷たく刺す。
「アンタやっぱり、この女と……」
「い、いや違う! なにもしてない!」
「抱き合ってるクセにどの口が言ってんのよ! どうせ温泉でも二人でイヤらしい事してたんでしょ、このド変態!」
『待てユウナ』
だが響いたのはヴェルファイヤーの静止する声。
恐る恐ると眼を開けば、北河が寸でのところで手を止めている。
『彼女の行為は決して性的なものではない。恐らく
「マザリーズ?」
ヴェルファイヤーの方を振り返り、北河は怪訝そうに顔を
「なんなのよ、そのマザリーズ行動って」
『母親が幼児をあやすことを語源とした用語だ。
「それってつまり、長瀬をあやしてたってこと?」
『そうなるな』
ヴェルファイヤーの
『私の行為に何か
「いや、なんでもないよ。えーっと……ああ、そういえばまだ名前を聞いてなかったですね」
相変わらず表情は動かないが、どことなく不安気な様子に俺は笑顔で尋ねた。
『申し遅れました。私はエリシオン。どうぞエリスと御呼びください』
女性は……エリスは丁寧に頭を下げた。
「あ、これはどうも御丁寧に」
「俺は
そっちの金髪は
『ナガセ様にキタガワ様、クサナギ様ですね。承知いたしました』
「それからこっちの蒼い
『グル』
『よろしく頼む』
『はい。宜しくお願い致します』
『お二人は私と同じ
「うーん、ちょっと違うけど……そんな感じです」
本当は
正直なところ俺も良く分かってないし。
『ところでエリシオン』
ヴェルファイヤーがヘッドライトを明滅させながら声をかけた。
『エリスで結構です』
『そうか。ではエリス、君の腕や足に付着している結晶体は、もしや
『ええ。その通りです』
「そうなんですか?」
『はい。【過剰症】と呼ばれている
言いながらエリスは自分の腕を付き出した。焚火の明かりに翡翠色の結晶が煌めく。
『その治療のために、こちらの湯を訪れました』
「
エリスはコクリと淑やかに頷いた。
『そういうことか』
「なにがだよ」
『先にも言ったがこの湯には
「へー」
正直よく分かっていないが、とりあえず
『しかしそれほどの結晶を融解するには少々濃度が低いと思うが』
『ええ。ですが症状の進行を緩和させる程度には効果が見込めます』
『なるほど、それでこの湯に通っていたのか』
『はい』
抑揚のない二人の会話はピタリと終わった。
要約するとエリスは肌に浮き出た緑色の結晶体を治療するために、
「なあ。その緑色した石っぽいのが
何の気なしにヴェルファイヤーへ尋ねた。
裸を見てしまったお詫び……などと言うことではないが、出来る事があるなら協力したい。
「ダメよ」
だがそんな俺の提案は、仏頂面の
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