第33話 陽子視点 おねえ大好き

 おねえに告白された。

 おねえに振り向いてほしくて、ちょっとでも気にかけてほしくて一生懸命だった。でももちろん、ほんとに叶うって心から信じてたわけでもなかった。


 なんならおねえの心が決まる前にいい思いをできたらな、くらいでわんちゃん愛人枠、と思っていた。でもまさかの、両方って。

 普通に何言ってんだ? と思ったしこっちは真剣なのにって腹もたったけど、まさかの真剣だったし、小梅さんが受けてしまったので私もそのまま受けるしかなかった。ていうか、めちゃくちゃだけど想定よりいい結果なわけだし。


 でも折角恋人になれたけど、私の気持ちは今嬉しいよりむかつくでいっぱいだった。


 追い出されたのも腹立つし、両方と恋人ってぱっと印象はよかったけど、でもよく考えたら私はおねえと結婚できないし、絶対親にだって内緒だ。つまりこのまま小梅さんがおねえのことずっと好きなら、大々的におねえと結婚して暮らすのは小梅さんで、私はただの独り身のお邪魔虫だ。

 ちなみに途中でおねえが嫌になったとしても、二股状態を始めた以上おねえに自分からやめる権利はないと思ってるので、どっちとも結婚しないとかいったらそれはそれで怒る。


 でもとにかく、平等にするって言ってるけど、おねえは私じゃなくて小梅さんと恋人ってことになるわけだし、そんなの絶対無理だ。

 それに、小梅さんはどう考えてるのか。分からないのも不安だ。おねえが好きって言ってくれるだけで嬉しいって言ってたけど、私のこと邪魔に思うだろうし。


 小梅さんは私と違う。立場も見た目も性格も能力も何もかも違う。おねえは基本的に流されやすい。意志が弱いわけじゃないけど、面倒くさいと思ったらなんでも言う通りにするところがある。

 もちろんさじ加減を間違えるとぶちキレられて全部ひっくり返されてしまうのでその辺り難しいけど。おねえは外基本小梅さんみたいに下からお願いするタイプには一番弱いんだよね。普段もお願い聞いてくれるけど、前に風邪ひいて素直にお願いしてた時は本当に何でも聞いてくれたし。

 それなら私も普段から下からお願いすればいいと言う話なのだけど、だって、おねえのこと好きなのバレたら恥ずかしいし、我慢してたらそれが癖になっちゃんだからそれはしゃーない。


 とにかく、小梅さんはどう思ってるのか知りたい。なんとかコンタクトをとれないか、と部屋で考えていると小梅さんの方から私に会いに来た。おねえの部屋でイチャイチャしてるだろうと思って隣にいられなくて居間にいたのを声をかけられて廊下に連れ出され、連絡先を交換させられた。


「えっと、あの、小梅さん」

「ごめんね。トイレって言って出てきたから、すぐに戻らなきゃ。陽子ちゃん、こうなって陽子ちゃんも嫌かも知れないけど、私は陽子ちゃんとだから、いいって思ってるの。また、連絡するね」

「あ、はい」


 ……? ??? あれ? なんか全然、小梅さん、めっちゃ私にも優しい雰囲気だったな。もうちょっとくらい、こう、ライバルと言うか。いや、私なんかライバルになれるものじゃないけど。……もしかして小梅さん、おねえにべた惚れすぎて何でもいいなりになってるのかな?

 おねえ、小梅さんといったいどんな感じの話してるんだろ。怪しいな。


「……」


 小梅さんと連絡取れて真意が聞けるなら望み通りなんだけど、なんだかもやもやするなぁ。


 まあでも、とりあえずは待つしかできない。小梅さんとのことも気になるけど、でもやっぱり一番気になるのはおねえだ。

 おねえが私をどのくらいちゃんと恋人扱いしてくれるのか、小梅さんが帰ってからが勝負だ。


 そう考えてもんもんとしながら私は夜を待った。小梅さんが帰ったのは結構遅めの時間だった。すぐに晩御飯だろうし、さすがにすぐはうっとうしいかな、と思ってたら小梅さんから連絡が来た。

 さっきは慌ただしくてごめんね。無理することはないけど、これから協力できればいいと思ってるし、よろしくね。と言うような感じだった。


 協力? とは思うけど、何と言うか、こんな予想外の自体なのに冷静にいい人だな。本心はともかく、私に悪い対応をしようと言う気はない気がする。


 とりあえずは安心していいのかな? ちょっと気持ちが楽になりながら晩御飯を食べた。でもちょっと楽になった気持ちは、おねえとお母さんの会話ですぐテンション下がった。

 なに普通に恋人って言ってるんだ。事実だけど、事実だけどさぁ! 普通私の前で肯定するか? するにしてももうちょい気まずそうな顔するとかさぁ!


 とめっちゃイライラしたので、食べ終わったおねえを追いかけて、私の部屋で話すことになった。抱き着く私にどうしたのとか言ってくるし、本気で私の事、恋人と思ってくれてるのか。

 めんどくさいからついでに恋人ってことにしておこうってだけじゃないの? そんな風に不安になる。わかってる。私が素直じゃなくて可愛くないって。

 でも、それでも素直に甘えたりかわいこぶったりなんてできない。おねえに正面から顔を合わせて、私をもっとちゃんと恋人として扱ってなんて、言えない。


 駄目なのかよ、なんて、せっかくおねえと二人きりになれたのに。言いたいことは何も言えなくて、ケンカ腰みたいな声しか出ない私に、おねえはそっと抱っこしてくれた。膝にのせて抱っこされて、顔を正面から合わせられる。

 おねえの表情は柔らかくて、いっつも、私がどんなに我儘言って困らせても、最後に許してくれるいつもの笑顔だった。

 だけどそれだけじゃない。いつもの平気な顔じゃなくて、ちょっと赤くなっていて、今まで通りじゃなくて、ちゃんと、私のこと女の子として、恋人として見てくれている目をしてくれていた。


「告白に応えてくれたのに、部屋を追い出したのは仕方ないとはいえ、悪かったと思ってるよ。ごめんね。二人ともを選ぶような私を諦めずに、それでも恋人になってくれてありがとう。陽子、好きだよ」

「っ~!!」


 その目に見とれていると、真正面からおねえの言葉が降ってきて、私はもう、どうしようもなくドキドキして、たまらなくなってしまう。


「お、おねえはさぁ! ほんと、ずっこいなぁ!」

「なにそれ」


 ずっともやもやしてたのに。色々いっぱい考えてたのに。おねえが私だけを見て、まっすぐに好きって言ってくれたから。それだけで、胸がいっぱいで、もう、なにもかもどうでもいいくらい満足しちゃうから、本当に、ずるい! ずるいくらい、大好き。

 なのにおねえは苦笑して笑っていて、全然私のこのしんどいくらいの思いをわかってくれてない感じで、胸が苦しいくらいで暴れだしたくなる。


「もう、もう! ……好きってこと!」


 たまらなくって、大好き、好き好きってぎゅっと抱き着いてキスして、それ以上だってしたくて、でもそれじゃあさすがにちょろすぎだから。おねえになめられて、いい加減にされたくなくて、もっとずっとこんな風に恋人扱いされたいから、私はぐっと我慢しておねえの肩に顔を擦りつけるだけで我慢する。


 それからおねえに、ちゃんと私のことどう扱うつもりなのかって聞いた。どうせ小梅さんの次なんだろうけどって心の準備してたけど、でもまさか、おねえは私のこともちゃんと、一緒に暮らして言葉にしてくれるつもりがあったみたいで、嬉しくなってしまう。


 こんなの口約束のその場しのぎかも知れない。そう思ってるけど、それを問いただす気にはなれなくて、私はそれ以上に、おねえとぎゅっと抱き合ってるのが我慢できなくてキスをお願いした。


 そうしたら小梅さんにもしなかったといいながらキスしてくれたから、本当か嘘かは分からないけど、本当に私は舞い上がってしまった。嘘でも、今だけの気まぐれでもいい。

 おねえと触れ合って、気持ちよくなれるならそれだけでいい。


「お風呂行くね」

「えっ!?」


 途中で中断になっちゃったのは残念だけど、もう一回お部屋に行けるみたいなのでほっとする。そしてお風呂に入ってからうきうきドキドキしながら尋ねると、まさかの本当にお話だけだと思ってたのはびっくりだった。

 もう本当におねえは、子供じゃないんだからそりゃあ、そう言うことでしょ! もう、鈍いんだから。


 でも結局してくれたし、今までしなかった気持ちよさもいっぱい感じられてすごくよかった。


 そのあと小梅さんから連絡が着て、まさかの小梅さんがおねえのストーカー、と言うか、無断でGSPは把握しようとしたり盗聴器しかけるのは普通に犯罪では? ストーカーって普通に犯罪者なのかな? まあとにかく、ストーカーでびっくりした。


 まあ、私もさ、おねえに悪いと思いながら下着借りたりしてたし、おねえにすぐ悪態ついたり力いれちゃうし、善人とは思ってないけど。うーん、それ考えると本当に、おねえって、器おっきいよね。細かいこと気にしないって言うか。

 めっちゃ怒ったりしても、一晩おいてまだ怒ってたことないし、おねえは私の事自分で言ってるように雑に扱うこともあるけど、やっぱ基本優しいと思う。


 ……うーん、なんていうか、漫画の不良の優しさみたいな気もしないでもないけど。そう言うとこ、意識するとやっぱ大好きって思っちゃうんだよね。うう。悔しい。


 翌日、わかってたし私が小梅さんに優越感持ちながらお願いしてえっちなことしたし、仕方ないけどこれからおねえが小梅さんに抱かれに行くと思うとちょっと複雑だった。

 それはそれとしてちょっと興奮もするし、その上で恋人になって最初にしたのは私だし、まあ、順番だしいいかなとも思ってるんだけど。乙女心は複雑だ。


 でもやっぱり起きてから複雑だし、おねえにちょっとでも絡みたくて部屋に行ったらお泊りの準備してるし、うーん。って思ってたらふと思いついてしまった。


 恋人らしいことなんかしたいなって思って、キスしたいなって欲求があって、いってきますのキスって言う大義名分の存在に気付いてしまった。恥ずかしかったけど、でも何にもなしでおねえを見送るのはやっぱりちょっと、悔しい。だから頑張って、いってきますのキスをお願いした。

 昨日いっぱい優しくしてもらえたから、今日は素直にお願いできた気がする。


 そしたら思った以上におねえはすんなり、優しい顔で了承してキスしてくれた。

 舌はだしてくれなかったけど、一回で終わりのたんぱくのじゃなかったし、なんか、おねえも本当に私のこと好きだなって。 昨日のえっちでもおねえの目が前と違う感じで、愛情感じてたけど、おねえの愛情をすごい実感してきて、すごい嬉しくなった。


「……明日、帰ってきたら、おやすみとおはようの分までキス、してよね」

「そう言う可愛い恋人のおねだりなら、大歓迎だよ」


 可愛いって。えへ、えへへ。

 小梅さんと一緒って言うのでどうなるかまだ分からないけど、でも、おねえの対応はもう私的に、恋人として百点満足だから、まあ、いいかな。未来、明るいかも! えへへ。

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