第28話 告白成功
私のモノ(恋人)になれ、と告白した。
二人とも顔を赤くしている。だけどもちろん、怒りでそうなっている訳ではないのは見ればわかる。
小梅は勢いの良かった陽子に比べると言葉少なで、いいも悪いも言わなかったけれど、私の改めての告白に素直にときめいてくれているようで、頬を染めてうるんだ瞳で私を見上げてくる。可愛い。
陽子は陽子で、さっき頭おかしいんじゃねぇの、とか言ってたくせに口が半開きになって、はわわ、と言い出しそうなくらいぽっとなっている。可愛い。
「はい……っ。私でよければ」
二人そろって私に見惚れていたけど、先に我にかえったのは小梅だった。目をきらきらさせてそう素直に頷いてくれた。
「小梅!」
最悪二人ともにフラれる想定もしていたので、受けてくれたのはとても嬉しい。陽子はぼろくそ言ってきてるし駄目かもだけど、私には最愛の恋人ができたのだ!
両思いの恋人だと思うと、さっきまでよりなお、小梅が可愛く思えてきた。あー、なんて可愛い子なんだろう。私の恋人だよ!
「ありがとう。こんな私だけど、幸せにできるよう努力するね」
陽子の肩から右手を離し、私はそっと小梅の手を両手で握ってそう宣言する。それに小梅は愛らしくさらに頬を赤くして、はにかみながら満面の笑顔になる。
「はい! 嬉しいです!」
「ちょちょちょっと! 小梅さん!? なに普通に受けてんですか!?」
「ちょっと陽子、今まさに恋人になった瞬間に横やりいれないでよ」
見つめ合う私たちに、慌てたように小梅がまた膝立ちになって横から握り合う私と小梅の手をさらに上からつかんでゆらしてきた。空気読まないやつめ、と横目に見るとすごい睨まれてしまう。
「お前私に告白した口で何言ってんだよ!?」
「それはそれ、これはこれでしょ」
「いや、……小梅さん、本気で受ける気すか?」
私はおかしなことは言っていないつもりだけど、陽子的にはそうではないらしい。でもこれ以上問答しても無駄だと思ったようで、手を離して私じゃなくて小梅に話しかけた。小梅は一瞬不満そうな顔をしていたけど、すぐに真面目な顔になって頷いた。
「そうですね。私は朝日先輩が好きですから。陽子ちゃんも、と言うのは残念ですが、朝日先輩が私を好きだと言ってくださるなら、それだけで私、嬉しいです」
「そんな……」
そして穏やかともいえる微笑みを浮かべてそう答えた。何とも言えない慈悲深い表情に、私は自分の思いが間違いではないことを再確認した。なんていい子なんだ。正直思いが重すぎる気がしないでもないけど、それで恋人になれたんだからいいってことにしよう。
私は小梅の手を離して、よしよしと小梅の頭を撫でた。小梅は私に目線をやって微笑んでから、陽子の顔を見る。私も空気を読んで手をおろす。
「もちろん、陽子ちゃんがそれに合わせる必要はありません。むしろ私としては辞退いただいた方が、私は朝日先輩を独占できますから嬉しいです」
「うぐぐ……わ、私だって、おねえがクズなのは知ってたし、それに、さっきおねえにばらされたから言うけど、初めから、小梅さんと争ったら勝ち目が薄いって思ってたんだ。だったら、同じにしてくれるなら、私だって、おねえの恋人になりたいに決まってる!」
おお、そうなのか。事前に愛人でもいいって言っていたからそんな気はしていたけど、でも実際にはさっきめちゃくちゃ怒ってたから、殊勝なことを言ってみただけで実際はないのかと思ってた。
でもそうか。自分でもとんでもない提案だと思うのだけど、まさか本当にそのまま二人ともに受け入れられるとは。
陽子がちょっとヤケクソ気味にだけど了承してくれた。陽子はめちゃくちゃ怒ったような顔をしてるけど、私は逆に嬉しくなってしまう。本当に陽子は私で一喜一憂するくらい私が好きなのだ。
「ありがとう、陽子。嬉しいよ。陽子のこともちゃんと幸せにするよう心掛けるからね」
「っ……ぜ、絶対だからね。おねえから好きだって言ったんだから、小梅さんだけゆーぐーしたりしたら、駄目なんだからね!」
笑顔でお礼を言う私に、陽子は一瞬言葉に詰まったみたいに口を曲げたけど、目をそらさずにぐっと私を睨み付けて肩をどんどん叩きながら言ってきた。乱暴な態度だけど、それも照れ隠しなのが分かっているので可愛く見えてくる不思議。
「わかってる」
「あ、朝日先輩。私の方が先に返事したんですよっ。陽子ちゃんは私と同じ恋人かも知れませんけど、妹でもあって一緒に暮らしてるのずるいです。その分は私を優遇してください!」
とちょっとほのぼのした気持ちでいると小梅が陽子と逆の私の左肩に両手を添えるようにしてそう主張してきた。
うーん、そう言われると確かに? 家で過ごす方が時間長いか。実際そのせいで陽子は寝る前に尋ねてきたもんね。
「ず、ずるじゃないし。そんなこと言ったらおんなじ学校通ってるのずるいです」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。ちゃんとそれぞれ、平等になるようにするから」
「……はい」
「……ほんとに?」
「私を信じて」
もめられても困るのでちゃんと仲裁したところ、小梅は返事は素直だけど微妙に目が疑っているし、陽子はストレートに疑っている。まあここで言葉を重ねても仕方ない。突然の展開に動揺しているんだろう。ここは寛大な心で促しておく。
「……ん」
私の言葉に陽子は不承不承ながら頷いた。とても恋人になったばかりの相手に向ける顔ではないけれど、今回イレギュラーな感じだしよしとする。
「よし。じゃあ話はこれで決まりだね。よかったよかった。じゃあ改めて二人とも、これからもよろしく」
「はい。よろしくお願いします」
「……よろしくお願いします」
よし!
「じゃあ、話もまとまったし。一旦これで私からの話は終わり。この後は予定通り小梅と遊ぶから、陽子はもう部屋にもどってもらっていい?」
「えっ……いやなんだけど。私だって恋人になったのに、何で追い出されなきゃいけないの?」
ほっとしながら空気を切り替える様にそう朗らかに陽子に提案すると、めっちゃ嫌そうな顔をされた。追い出すって人聞きが悪いなぁ。そもそも陽子には最初から、時間はとらないって短時間で解放することを伝えておいたのに。
「いや、私にとっては二人は恋人だけど、二人は友達でもないじゃん。無理に仲良くさせたいわけじゃないしね。今回大事な話だから二人一緒にしたけど、そうじゃなかったら、私と二人ずつの方がよくない?」
「それはそうだけど、問答無用で小梅さんからってのが……」
「陽子は夜にだって遊べるでしょ。今は、最初からちょっとだけ話をするだけって言ってたよね?」
「……わかったよ。ばーか、ふん。好きなだけいちゃいちゃすればいいじゃん。ばーか」
二回も馬鹿って言われた。私はおかしなことを言ったつもりはない。この状況から、じゃあ三人で親睦を深めようねと言い出す方がおかしいし、小梅の方が先に今日遊ぼうと約束してたし。
いや、陽子の言いたいこともわかるよ? 普通は恋人になってすぐは何というかこう、甘酸っぱい雰囲気になって一緒に時間を過ごすものってことでしょ? 少女漫画とかそんな感じだもんね。でもしゃーない。初手三角関係からはじまるこの世界は現実、漫画とは違うのだ。
「ごめんねー」
私を罵倒しながら立ち上がり部屋を出ていき自室に戻る陽子の背中に謝罪してから、私はドアを閉めて小梅を見る。居心地悪そうにしている。まあそうだろう。
「ごめんね、なんかぐだぐだしちゃって。でも、別々に話をするのも違う気がして」
「えっと、はい。予想外でしたけど、でも、それでも、朝日先輩が私を好きって言ってくれたこと、すごく、嬉しいです。えへへ」
「小梅……ありがと。小梅には本当に、悪いと思ってるよ。あ、もっと楽にしてよ。ベッドにもたれて、って言うか、ベッド座って。隣座るし」
ためらうことなく嬉しそうに笑顔を向けてくれる小梅に私も笑顔になりつつ、慌ててそう促す。
三人で真面目な話を向かい合ってする都合上、ベッドに座ってと言う訳にはいかなかったけど、もう真剣な話は終わりだ。ベッドに座ってゆっくり話してもいいだろう。
「は、はい」
小梅の肩に触れて促し、一度立ち上がらせて座らせ、私も隣に座る。ついでに肩から手を下して、小梅の腰を抱く。こうやって触れると細いよね。
「小梅が最初に告白してくれて、仮だけど最初に恋人になったのに、こんなことになってごめんね」
「い、いえ……」
「さっきも言ったけど、小梅のこと好きなのは本当だから。これからよろしくね」
「はい……はい。私、精一杯頑張りますっ」
気合を入れたように小梅はそう言って両手を握ってアピールしてくれる。うーん。可愛い。
こういう健気アピールが本当に似合うんだよね。私も素直にぐっとくると言うか。
平等に、とは言ったけど、法律的に姉妹は結婚できないのだから、将来的には結婚するのは小梅になるだろうし、親にも恋人として紹介できるのは小梅だけだ。少なくとも身内や公的には陽子はあくまで仲のいい姉妹でしかない。
それは陽子が何と言おうと仕方ない部分だし、家を出てしまえば日常的に差があるものではないだろう。それでも家をでるまでは明確に差となるだろう。そこは陽子には申し訳ない気がするけど、逆に言えば小梅には一週間とちょっと先に恋人だった分程度には顔をたてる差になるだろうし、人生全体で見ればちょうどいいんじゃないかな。
まあ、あくまで仮定の話だ。このままならするんだろうと思うけど、本気で絶対結婚するって思ってる訳でもないのに、本格的に付き合いだしてすぐ結婚の話とか人生設計たてるのは重すぎる。こう考えてはいるけど、実際に結婚前提で小梅から言い出してもちょっと引くし。
ここは無難に流しておこう。
「そんなに頑張らなくてもいいよ。そのままの小梅が好きだから」
「! あ、あ、朝日先輩……! わ、私……嬉しいです。ありがとうございます」
「こちらこそ、好きになってくれてありがとう」
感極まったように真っ赤な顔で、本当に嬉しそうに笑顔をむけてくれる小梅に、私は心からの言葉を伝えた。
小梅が私を好きにならず、告白してくれて、断ってもまだあきらめない。そんな気持ちでいてくれたからこそ、今こうして私も小梅を好きになれたんだ。そうじゃなきゃ、まだしばらく、もしかしたらずっと、私に恋愛は縁遠いままだっただろうから。
「っ、あ、あの……抱き着いても、いいですか?」
「もちろん」
小梅の控えめなお願いに、私からぎゅっと抱きしめることで応えた。
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