第27話 どっちも好き

 井上さんに恋愛相談したところ、どっちと付き合わない時に後悔するか、つまりマイナス面で評価してみてはどうかと提案を受けた。私が恋人にならなかった時のマイナス面、つまり、わたしと付き合わない時、相手は私から離れて他の誰かと付き合うと言うことだ。


 小梅が私以外と付き合う。つまり他の誰かにあんな風に笑って、私にしたように尽くして気持ちよくさせるのだ。それはなんというか、気分のいい話ではない。と言うか、普通に嫌だ。

 陽子はどうだろう。陽子が私以外の人間に必死になって抱きついてキスをねだって欲情する。とても複雑な気分だ。と言うか、普通に嫌だ。


 二人とも、私以外と付き合うのを想像したら嫌な気分になってしまった。これは嫉妬なのだろうか。独占欲で、恋愛感情?


 正直、自分自身にそう問いかけると、いやー、違うんじゃないか? と言う気にはなる。だってなんか、えー? 全然ぴんと来ない。しかも二人ともって。気が多すぎか。単にやっちゃったが故の情と傲慢さでしかない気がする。

 でも、そんなこと言ってたら一生恋愛がわからんくね? と言う気もするのだ。


 今私は、あの二人ともとセックスできるし、他の子と恋人になるのなんか嫌だなーと思っている。それはつまり、嫌だなーと思わないようにするには、私が二人と付き合うしかないのだ。

 そう、これが恋愛感情だったのだ。と言うことにしよう。もうめんどくさいし。これ以上悩むくらいならこれでいいだろう。ありのまま二人にこの気持ちを伝えよう。それで二人ともにフラれたなら、まあ、その時はその時だ。


 もちろん二人ともが私に愛想をつかして他の誰かを好きになり付き合うと言うなら、それは嫌だなーとは思うけど、まあ二人が幸せになるために自分で選んだことなら仕方ないだろう。

 そしてもし二人とも私と付き合うと言うなら、そう言うことだ。責任をとろう。


「よし」


 そう腹をくくってしまえば、もう私の悩みは消えた。色々考えたしこの結論に問題がないとは言わない。でも少なくとも結論がでたのだ。私はこれ以上悩まなくていい。


 私としては早いところこの結論を言いたかったのだけど、いわば告白みたいなものだ。学校で言うのはちょっと。いや、小梅からの告白は学校だったけど。それに陽子にも関係のあることだ。

 小梅だけに言って下手にあれこれ言われてこの覚悟がゆらいでも困る。


 と言う訳で、明日、土曜日。元々小梅は午後におやつをもって遊びに来てくれることになっている。その時に二人同時に話すことにした。


「小梅、明日の約束なんだけど」

「はいっ。楽しみです!」

「うん。大事な話をするから、そのつもりでいてね」

「!? ……い、今聞いちゃ駄目ですか?」

「駄目。陽子にも一緒に話すから」


 私の宣言に小梅はなんだか挙動不審になってそわそわして、そう言わずにこっそり教えてほしいと引き下がってきたけど、そういう訳にはいかない。これは絶対二人同時がいい。今回ばかりは私も引かず、鋼の意志を通した。


 家に帰ってからは陽子にもそれを宣言した。


「陽子」

「なにー?」

「明日、小梅がうちにくるから。陽子もちょっといい? そんなに時間とらないし、一緒に大事な話がしたいんだ」

「……え? ちょっと、明日は忙しいんだけど」

「え? そうなの?」


 と思ったらまさかの断られてしまった。確かに急だったけど、そんなぎゅうぎゅうに予定詰まってると思わないじゃん? まあ陽子も友達付き合いとかあるし、しょうがないか。


「うーん、だったら、小梅に先に話すしかないか。急にごめんね。じゃあ、陽子は帰ってきてから話すね」

「と思ったけど、日曜日と間違ってた。ごめん。全然OK。気合入れておくね!」

「え? うん」


 どうやら勘違いだった、のか? でも態度急に変わりすぎだし怪しいな……まあ、いいか。私の希望通りになるんだし。


 その日は二人とも翌日が気になっているのか遠慮がちな態度で、私も悩みがなくなったのでのびのび憂いなく眠ることができた。







 と言う訳で、小梅と陽子を私の部屋に招いた。


「ごめんね、改まって。ま、座ってよ」

「……」

「……はい」


 小さな折り畳みテーブルを挟んで座るよう促すと、二人は目配せしてから床に並んで座った。何故か二人とも正座だ。何かを感じ取っているのか緊張しているようだ。

 と言うか普通に目配せしあったね。なんか二人仲良しじゃん。


 とにかく私も向かいに座る。なんとなく二人に合わせて私も正座だ。


「えっと、まあ、大事な話とか前置きしたから二人とも緊張してるよね、ごめん。何かって言うと、まあ、私って二人のことなあなあにしてるよね。小梅のことも仮の恋人だし、陽子のことも中途半端にしてるって言うか」

「……」

「……」

「それで、二人にちゃんと返事をしようかと思って」

「!」

「! ……!」


 二人は黙って真剣な顔で聞いてくれている。息が詰まりそうになりながらそう続けると、二人ははっとしたような顔になり、ばっと顔を見合わせてから私を見た。


「いえいえ、そんな。私、全然に急いでませんから!」

「そうそう! そんな慌てることないんじゃないかな!」

「え、いやまあ、そう言われてはいたけど、でもほら、私はこの状況落ち着かないし、結論を出そうと思って」


 二人とも急がないと言ってくれているけど、そうは言ってもやっぱりこの状況を歓迎してるわけじゃないはずだ。だから早く結論がでるならそれに越したことはない。

 と思っていたのに何故か協力体制で後回しにしようとしている。もしかして、悪い結果を言おうとしてると思われてるのかな?


「なんか、二人、勘違いしてない?」

「なんだよ、勘違いって。お姉がどっちか選ぶってことなんだろ。わかってるよ、私がまだ、全然お姉に好かれてないってことは!」

「……あの、もちろん、結論が出たと言うなら仕方ないですけど。でもその、やっぱり恋がわからないとか、そう言うのならまだ諦めるのは早いと思います」


 やさぐれたような陽子の態度を横目で見てから、小梅は何か考えるようにしながらそう言った。まあ、気恥ずかしいからってこれ以上引っ張っても二人もしんどいだろう。

 とにかく言うしかない。


「そうじゃなくて、私は、その、二人とも好きだなってこと」

「え……?」

「……あの、それはその、朝日先輩は私のことも陽子ちゃんのことも恋人にしようと言う、そう言うことですか?」

「そう」


 ぽかんとした間抜け面で声が出ない様子の陽子とは逆に、小梅は何かを考える様に眉をしかめながらおそるおそると言う風に確認してきた。

 まさにそう言うことだ。でもやっぱり、そう詳細に聞かれるとなんだか私がとんでもないことを言いだしたみたいで、ちょっと恥ずかしいな。と思いつつもあんまり照れて見せるのも格好悪いので、堂々と肯定してみせる。


「……いや、そう、じゃねえだろ! おねえ頭おかしいんじゃねぇの!?」


 ぱん、と床を叩きながら陽子が膝立ちになって怒鳴ってきた。全く、すぐ怒鳴る。そう言うのよくない。動物の威嚇じゃないんだから。


「陽子、落ち着いて話せ。怒鳴る必要ないだろ」

「いやいやいや、必要とか、まともぶるなよ! 堂々と二股宣言して!」


 興奮しているようでどんどんと床を叩きながら文句を言われると、本当に私がおかしい気がしてくる。

 いや、おかしくないとは思わないけど、それ言ったら最初に私が好きとか言い出したの陽子なのに。二股宣言って言うけど、実質すでに二股みたいなものだし。


「そうは言うけど、今更じゃない? ていうか、そんなこと言うなら仮でも小梅と付き合ってる状態であれこれ言ってきた陽子が原因なんだけど」


 責任転嫁をしたいわけじゃないけど、二股状態になってしまったのは普通に恋人がいるってフったの時点で陽子が諦めればそうはならなかったからね?


「そ、それはその、だって、えっと、私のことも小梅さんのことも二人ともが本気で好きじゃないって言うから、それだと納得できないし、それってしゃーないじゃん?」

「あと陽子、自分は愛人でもいいみたいなこと言ってたよね?」

「そんなこと言ってない! 一番じゃなくてもいいって言っただけでしょ!」


 えぇ? 恋人じゃなくて一番じゃなくてもいいから一緒にいてえっちしてって言うのは愛人じゃなくてなんなの?

 だいぶ理不尽な気がする。でも仕方ない。今は私が二人に告白しているターンなのだ。ここは真剣に、私の思いを伝えよう。


「小梅! 陽子!」

「わっ」

「は、はい」


 私は膝立ちになって二人の肩を掴み、陽子は上から押し付けて座らせ、両手に力をこめて二人の肩がぶつかるようにしてから二人まとめて顔を寄せる。

 陽子はどこかおびえたように眉を寄せて口をすぼめ、小梅はちょっと照れたように目をぱちくりさせている。そんな違いも面白い。


「……」


 二人にそれぞれ目をしっかり合わせ、口を挟まないのを確認してから、私はしっかりと気持ちを伝える為、口を開く。


「好きだ。私のモノになれ」

「!?」


 私の言葉に、二人はそろって顔を赤くした。

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