第26話 結論は

「おはよう、井上さん。相談に乗ってほしいんだけど」

「お、おはよう。えーっと、いいけどぉ。昨日の今日でって、南雲さんけっこー悩み多き人なんだねぇ」

「と言うか、昨日の続きって言うか」


 相談すれば万事解決じゃん! と思っていたけど、なんて聞くべきか。昨日の相談ではその人のことばかり考えてしまうのは恋、と教えてもらった。

 だけどそれではうまくいかなかった。今悩みの渦中だからだろうけど、二人の事をどちらも考えてしまう。落ち着くまで待つと言うのが素直な手なのだろうけど、すでにどちらとも一線を超えた以上、これ以上猶予を持たせてもいいことはない。

 と言うか、小梅からしたら私めっちゃ浮気者だろうし、早く決着をつけるに越したことはない。なにより私が落ち着かない。


 今日、朝に一緒に登校するだけで罪悪感やばかったし。なので今日も早速朝から井上さんに話しかけた。靴箱で先にいたのを見つけたのでちょうどよかった。意識してなかったけど、同じ電車にのってるのかな?


「ちょーい、朝日ぃ。なに話してんだ」

「あ、ノリか。……ちょうどいい。ついでにノリにも相談にのってもらおうか」

「えっ、相談? おいおい、まず私にするべきだろ。なに井上に先に話してんだ? ああ? 井上ぇ、いつから朝日と仲がいいんだよ」

「わ、わ、な、仲良くなんてないですぅ」


 さらに後ろからやってきた友人のノリが絡んできたせいで、井上さんからひどいことを言われてしまった。

 この井上さんの態度、どうやら前回私にびびっていたのも、ノリの悪評があったからのようだ。そうか、それなら納得しかない。ノリのせいで私までびびられていたのか。

 ノリはノリですぐ喧嘩腰になるし、見た目もいかにもっぽいもんなぁ。


「落ち着けよ。ノリにも相談しようと思ってたけど、まず客観的な意見も欲しくて目についた井上さんに相談しただけじゃん」


 ノリはそんな感じでノリも軽いやつだけど、まあ口が軽いわけでもない。相談するのに十分な信頼に値する。まあ、恋愛経験なさそうだったし、二人から告白されるパターンの相談はしてもしょうがないと思っていたけど。


「そう? ならいーけどよ。んじゃ、井上さん、よろしくー」

「は、はい」

「ノリもいるとなると、話が初めからの方がいいよね。えーっと」

「とりあえずもう時間だし、グループつくるからそれで話せばいいじゃん。井上さん、私と友達になってー」

「ふふっ。ごめん」


 通話アプリで連絡先を交換すると言うだけだけど、友達になってーと小学生のような提案をするノリと言うギャップが面白すぎて笑ってしまった。

 でも私が相談する件なので謝って、とりあえずスマホでだけ繋がって教室に行った。








 三人だけのライングループに、私は他言無用と前置きしてから井上さんに言った以上に詳しく今回のことを説明した。


『と言う訳で、二人の間で取り合いをされてるんだけど、どっちのことも恋人にできる程度には嫌いじゃなくて好意があるみたいなんだよね。どうすればどっちが特別だってわかると思う?』


 プライバシーの問題なので個人名を特定するのは避けたけど、告白された流れから、どっちともやっちゃってることまで話した。


『いや、展開早すぎだろ。先週に告白されて、一週間で二人と関係もつな。あ、早いのは手か』

『私が早いんじゃなくて二人が早いんだって』

『おまえがネコなのかよ』


 なに、猫? 急にどうした。誤爆してない? とりあえずノリのことはスルーしておこう。


『井上さん的にはどう思う?』

『南雲さんの心情的には、どっちも同じくらい人として好きってことで、どっちと恋人になってもいいけど、ならなくてもいいから、どっちかを選びたいけど、どう選べばいいのかってこと?』

『そう言うこと』

『この期に及んで消去法かよ。クズの極みみたいなやつだな』


 すごいディスられている。消去法のつもりはないのだけど。まあ積極的に選ぶと言うよりは、どっちがましかみたいな感じか。

 うーん。でも私にも問題はある。押し切られてとはいっても、普通に浮気だしね。受け入れちゃってるし、ありよりのありってなってるし、まあ、何故私が未だに二人から好かれているのか謎なくらいには問題はあるよね。

 つまり、逆に私ってこういう、問題のある人間にしか好かれないのでは?


 この二人のどちらかを恋人にしたいわけではないけど、もしこの二人ともを恋人にしなかったとして、他に私を好きと言ってくれる人がもっとやばい人とは限らない。

 そう言う意味でもここでこの二人を好きになっておくのも私の人生において悪くない気もする。この二人は少なくともまだありだし、ガチの犯罪者ではない。


『じゃあ、ノリならどうする?』

『しゃらくせぇ! 私なら二人とも恋人にするね。寝たんなら相手がいいっていうまで責任取るべきだろ』


 えぇ……責任取ってるのかそれ。うーん、でも正直、今と何が違うのか分からないな。


『井上さんならどうする?』


 井上さんに問いかけると、すぐには返事がこなかった。しばらく授業を真面目に聞いて返事を待っていると、一時間目が終わる直前に井上さんから返事が来た。


『正直、そこまで行くと色々想像超えてるけど、私がもし二人の人間から告白されて、どっちかと付き合うか悩んだなら、どっちと付き合わない時に後悔しそうで選ぶかなぁ?』


 むむ? その発想はなかった。プラス側じゃなくて、マイナス側で選ぶのか。一緒にいたら幸せになれる、じゃなくて、一緒にいなかったら不幸になりそう。みたいなことか。


 授業は終わったけどその場で話しかけていくと相談していることが他の人にもばれてしまう。

 私はしれっとそのままスマホで返事をする。


『ありがとう、井上さん。さすが、頼りになるね! 考えてみるよ』

『確かに、私もその発想無かった。さすがモテる女は違うねー』

『い、いえ。そんなことはないです』


 ノリは全然いらなかったな。まあおいておいて、じっくり腕を組んで考えてみる。


 あの二人はそれぞれ可愛いところもある。問題もあるけど、恋人になったらそれはそれで楽しく過ごせるのではないだろうか。つまりプラスな幸せ度は変わらないだろう。マイナス。付き合わなかった時に後悔するか。

 ……そんなことある? 恋人にならないマイナス? 一人一人考えよう。


 小梅と付き合わないとする。友人ではないから、まあこれでさよならだね。そう言われたらちょっとは寂しい、かな?

 陽子と付き合わないとする。まあ正直、じゃあこれから清く正しい姉妹として付き合っていこう、なんていうのは無理だろう。陽子の性欲に付き合う約束をしてしまってるし、これからもそうならなおさら、今の状態でも私を好きなんだから今後私を嫌いになる可能性は低いのではないだろうか。それだとなし崩しに実質陽子と付き合ってるみたいなものだな。

 それじゃあ条件が違うから、本当に付き合わないってことは、それこそ最初に考えていた陽子と縁を切るってことになるだろうね。大学出て陽子だけじゃなく家族と縁を切る覚悟で住所を知らせず引っ越して暮らせば可能だろう。そこまですれば陽子も私を諦めて、別の人を探すだろう。


 ……いや、重すぎない? かるーく縁切ればいいかって思ってたけど、地元も家族も捨てるってもはや私への罰じゃん。いやまあ、妹に手を出したみたいなものなので、その罰と考えれば妥当な気もしなくもないけど。


 でもこうなると別れた時のしんどさは陽子が上だし、陽子と付き合うしかないのか? でもこれって個人と言うより妹と言う要素だし。


「……」


『ごめん、井上さん。後悔するパターンも具体例でもらっていい?』


 この決断で本当にいいのか決められない。だってそれだと妹なら二人の立場が逆でも偉ぶってことになるし。恋人になるのに妹だからと言うのは関係ないはずだ。だからここは妹だから、と言うのをおいておいて、一人の人間として判断するべきだろう。

 まあ、単純に私に決断能力がないかもだけど。もうちょっと決定的なものが欲しいので、井上さんにお願いする。今度はそう時間をかけずに返事がきた。


『例えばだけど、恋人にならないってことは、その相手は南雲さんを諦めて他の人と付き合うってことなんだから、そうなったら嫌だなって思うとか? 自分に興味なくなって友人ですらなくなったら寂しいし離れてほしくないと思うとか? そう言う感じをイメージして言いました』

『なるほど、ありがとう』


 陽子の場合、ちょっと拡大解釈しすぎたね。そうだね、陽子とすんなり別れられたとしよう。でも仲良し姉妹には戻れないだろうから、挨拶を交わすくらいの関係ってことだろう。……それは、寂しいな。

 うーん。縁切りまでいくともう想像力が届かないからやばいなって思うけど、そうか、普通に陽子と距離ができるのは寂しい。でもそれは小梅も同じだ。


 じゃあもう一つ、他の人と付き合うってことか。


 私は目を閉じてそれぞれ想像してみた。


「……」


 それを想像していると、休み時間は終わった。だけどその短い時間でも十分だった。私は想像しただけで、自分の気持ちに結論を出すことができた。そうだ、難しく考える事なんてなかったんだ。


 私は――





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