第14話 寝落ち通話ってすごい、健全だね

 夜の小梅との通話は、顔が見えないのもあって何だかいつも以上に口が軽くなってしまう気がする。小梅が私をいつからどこが好きなのか、なんてずけずけ質問するだけで飽き足らず、私はさらに疑問を投げかけてしまう。


「どうして私への思いが恋だってわかったの? 普通の好きと違う感じ?」


 自分でもちょっと馬鹿みたいな質問だと思う。子供みたいだ。でも、わからないんだから仕方ない。小梅のことは好き。陽子のことも好き。他にも家族や友人も好き。でも恋愛感情かと言われたらぴんと来ない。それぞれにそれぞれ、好意は形が違う気がする。

 私の問いかけに小梅は少し戸惑ったような雰囲気になる。


『え、そ、そうですね……。あの、そう言う質問が出ると言うことは、先輩って恋愛経験、と言うか、片思いでも人を好きになったことはないと言うことなんでしょうか?』

「あー、うん。恥ずかしながら」

『いえ! 恥ずかしいことなんてないですよ。こういうのは個人差ですから。むしろ私、嬉しいです。私が先輩の初めてになれるなんて』


 ん? 小梅が私の初めて好きになる人って断定して喋ってる? 小梅って、まあ、告白の時もそうだけど押しが強いと言うか、我が強いよね。見た目ゆるふわ系可愛い女子だし話し方も気づかい屋でお淑やかな感じなのに。まあ、私って意志弱い方だから、ひっぱってくれるタイプの方が相性いいかもだけど。


『でも、そうですね。他の人と違って、朝日先輩を見ていると胸がドキドキしてしまうのが一番違いますかね』

「うーん。びっくりした時もドキドキすると思うけど、それがずっと続く感じ?」

『そう、ですねぇ。うーん、ちょっと、改めて口頭で説明しようとすると難しいですね。先輩が特別なのは、何と言うか、本能でわかると言いますか』

「本能って」


 小梅はちょっと声をひそめる様にしてそう言った。冗談めかしているけど、何だか色気のある影のある感じで、すごく、ぞくぞくしてくる。


『今日も、手を繋がせてもらいましたけど、そう言うのでドキドキするの、先輩だけですし。……き、キスとか、そう言うのもいつかしたいなって思うのは、先輩だけです』

「あー……」


 言ったらやっぱり、恋愛感情ってそう言うところに落ち着くのか。他の人にしない特別な触れ合いをしたいと思うのがそうなのか。

 ……小梅と、そういうことするの、別に抵抗はないって言うか、考えるとドキドキはするな。陽子の時はいきなりだったから何も考えてなかったけど、今思うとだいぶあれだよね。

 キスは何とも感じてなかったけど、胸はさすがの私もちょっとそう言う気になったしね。まあ肉体的な反応っちゃそれまでだけど。


 さっきもまあ、間近で見せられて匂いもすごいしてたし、陽子本人がどうこうじゃなくて、そう言う気になるでしょ。小梅との会話で落ち着いてたけど、なんか、ちょっとまたそんな気になってしまうな。うーん。


「ありがとう。教えてくれて。でもやっぱり、ピンとこないや」

『そうですか……』


 しょんぼりと肩を落とす小梅が見えるほどわかりやすく気落ちする小梅には悪いけど、小梅と手を繋いでも他の人と違うって言う感じはしなかった。

 それでも小梅をそのままにできるほど、情がないわけじゃない。すでに小梅のことを大事には思ってる。ただそれが、恋愛感情とは思えないだけで。


「うん。小梅とキスをするのも想像して嫌じゃないし、できるけど。でも、だから特別なのかぴんとこなくて」

『ん!? そ、そう言う感じなんですか!? 私とその、触れ合うとか考えられないと言う感じではなく?』

「え? あ、うん。小梅の事、好きは好きだよ。だからキスとか、抵抗はないけど」


 なんなら陽子のあのキスがあるから、小梅とも一回しておいた方が平等なのでは? 感すらあるよね。妹としてしていたのは別として、この間のは告白されてだったからね。びっくりして思わずだけど、あれは今思えばちゃんと拒否すべきだったよね。

 と軽い気持ちで私はそう言ったのだけど、小梅は何やら唸るように声を低くした。


『……う、うぅ、そう言うの、ずるくないですか?』

「え、ごめん。どういうこと?」

『だって。そう言うのは、やっぱり、ちゃんと両思いになってからかなって思ってたのに……そう言う風にいわれると、その、したいって思っちゃいますし。それで、そう言う行為からでも、朝日先輩に私を意識してもらえたらなって、そう思っちゃいます』

「小梅……」


 なんて、可愛らしいことを言うのだろう。比較対象がひどすぎるだけかもだけど、恥じらいながら言うあたりも可愛らしい。

 と言うか、そう直球で今、そう言う気持ちになっている感じの熱い声音で言われると、ただでさえそう言う気分だったのになんか、ただむらむらするんじゃなくて、段々小梅の存在を意識してしまうな。

 ただなんか、そうなるとちょっとすごい気になるんだけど。これ質問してもいいかな? ……いいよね。夜だし。何かそう言う流れだし。


「あの、こんな質問するの、変態だって思わないでほしいんだけど。その……私のこと考えて、夜、慰めたりとかってする?」

『え? ……あっ、……あの、朝日先輩。それはさすがに、恥ずかしすぎるんですけど、答えないと、駄目ですか?』

「ご、ごめん」


 駄目だった。だよね。恋人になって一週間もたってない上、さらに仮でひっぱってる癖にそんなん聞いたら絶対駄目だよね。

 一瞬意味がわからない、みたいにきょとんとしてから、理解が追いついたように恥じらいつつ責める小梅の声に普通に謝罪する。


「でもあの、実質それ答えだよね」

『……先輩って、結構その、そう言う、えっと、性欲強いほうですか?』

「え、まあ。多分そう」


 答えてから、ちょっと恥ずかしくなったけど、先にもっと恥ずかしいこと質問したのは私のなのでここは素直に答えないとね。


『……わ、わかりました!』

「ん?」


 気まずさにここからどう言う会話をするべきかと考えていると、ふいに小梅はこれまでの小声になってた流れを無視して急に大きな声を出した。


『先輩が望むなら、ううん、先輩が嫌じゃないなら抱かせて下さい!』


 何か、全然雰囲気を変えるような話題転換をしてくれるのかな? と待つ私に、小梅は高めのテンションでとんでもない宣言をした。


『その、経験はないですが私、頑張ります! チャンスをもらえたら絶対先輩を気持ちよくさせますし、私なしじゃ生きられないくらい頑張りますから!』

「お、おお」


 なんか、とんでもないこと言われた。小梅なしで生きられないくらいにするって。えぇ。やばい。それは恋人になっててもやばいのでは?


『……嫌、ですか?』


 い、嫌かどうかで言うと、まあ?


「い、嫌ではないけど……今はまだ、ちょっと、早いかな」

『づっ……んん”。はい。ちょ、ちょっと、そうですよね。まだ、早いですよね』


 私のひよった返答に小梅はちょっとこもったような、何かを我慢するような唸った感じに相槌をうった。いやほんと、私から言い出したのに梯子外すの最悪だよね。

 でもさすがに、じゃあしようかって言うのはさすがに、ちょっと心の準備が。いやもちろん、嫌ってわけじゃないけど。


「うん……あの、なんかごめん。私から変なこと言っちゃったからだよね。ごめん。あの、別にいつもそう言うこと考えてる訳じゃなくて。その、何か今日はそう言う気分になっちゃっただけで」

『わ、わかります。そう言う気分の時、ありますよね』


 私の申し訳なさとかフォローしたい気持ちとか伝わっているのか、小梅も空元気じゃないけど気持ち明るめの声で頷いてくれた。


「うん…………あの、もう、寝よっか。夜遅いしね。うん」

『そ、そうですね』

「じゃあ、トイレも行くし、切るね。おやすみ」

『あ、はい。じゃあ、私も寝る準備しますね。はい。失礼します』


 おやすみ、で返ってこなかったなと思いながら私は通話を切った。

 時間は小梅が寝ると言っていた十一時を過ぎている。ちょっと遅くまで通話しすぎたかな。私はまだ全然、トイレは行くけど、これからもうひと頑張りしてもいつも通りって言うか。


 とにかくトイレにいってから戻る。部屋に戻って鍵をかける。しっかり施錠を確認。言ってもね、陽子はさすがに寝てるだろうけど。


「……」


 まあ、うん。あんな会話のあとでそんなすぐに寝れないわけで。いや、朝は確かに考えたよ? 陽子をおかずにした以上、小梅もしたほうがいいかなって。

 でもそれって別に私の内心何て誰も知らないわけで、私の罪悪感から来るやつだし、別に本気で必要なわけじゃない。だから、あの……いまそう言う気分なのは、普通に小梅のせいってことで。


 まあ、どっちにしろこの状態じゃ寝れないし、するか! うーん、どんな感じにしよう。小梅、私に尽くしてくれそうな感じだよね。どんな感じなのかな。やっぱりこう―


 ブブブブ―

「……」


 ベッドサイドにおいた充電中のスマホが音を立てた。伸ばしかけた手でスマホを手にすると小梅だった。

 思わずドキッとする。まさかすでに監視されてるんじゃないだろうな。でも別にまだ何も始めてないし、音もたてていない。


「はい、どうしたの?」

『え? はい。えっと、普通に、もう寝る準備ができたので』

「ん?」

『はい。……あ、忘れてます? あの、寝落ち通話とか、するお話だったと思うのですが』


 あ。忘れてた。普通に忘れてた。え、今からずっと繋げたまま寝るってこと? だよね? え、じゃあ変なことできないじゃん。


「あー、今日?」

『あ、これからもしかして勉強とかですか? すみません。無理なら大丈夫です』

「あー……大丈夫」

『よかった。私はもう寝ますけど、でも先輩は起きているなら、全然好きにしてもらっていいので』

「うん。大丈夫です」

『それじゃあ、おやすみなさい、小梅先輩』

「うん、改めておやすみ」


 スマホは静かになる。じっとしていると、頭の横に置いているのかかすかに吐息は聞こえる。これ、確実に向こうにも同じように聞こえてるよね? 声とか出さなくても鼻息聞こえるし、絶対無理じゃん。


 ……寝よ。


 私は諦めて寝ることにした。まあ別に、絶対しなきゃ無理ってくらい性欲お化けじゃないからね。私は陽子じゃないからさ。はい。

 私は小梅の吐息を感じながら、何だかどきどきしながらもなんとか寝た。

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