第13話 夜会話
陽子と小梅と言う可愛い女の子二人から告白されて迫られている。いやー、モテモテで参っちゃうね! なんてテンションには一切なれない。
元々私はめんどくさがりだしそう言うタイプじゃないけど、多分片方が四つ下の実妹なら誰でもそうなるでしょ。はー、めんどくさい。
ついさっきまで私の部屋で妹が自慰をしていた。とんでもない妹だ。昨日はまだあれで恥じらいがあったようで、今日は最初からヒートアップしていて、さすがに声だすな。と口をふさぐくらいだった。
でも正直、そのちょっと怒ってたのさえ、私が至近距離でしてる陽子の顔を見ているからか興奮に変えられてしまっていた。手の平舐められたし。本当に、どうしてくれようか。
どうしてあんなにどスケベに育ってしまったのだろう。私の育て方が悪かったのだろうか。いやそんなことある? ないない。私のことを大好きな我儘娘になってしまったのはわたしのせいだとして、あんな性欲おばけになったのはさすがに別だろう。
生産者にだって責任の範囲と言うのがある。手を離れたところで腐った食品のせいで食中毒が起こっても責任なんて取れない。陽子が自身で自分の性欲を、そして性癖を育てたのだ。私のせいではない。
そう自分で自分を正当化しながら、手も洗い終わって部屋に戻った私はため息ながらにベッドに転がりスマホをとった。そして一時間も前に小梅から連絡が届いていたのにようやく気付いた。
「あー、そうだった」
お風呂入る前はまだ覚えていたのに、ばたばたしてすっかり忘れていた。
『ごめん、お待たせ。今なら大丈夫だけど、寝ちゃった?』
とすぐに返信をする。時間は10時過ぎだ。起きているだろうけど、寝ているとしてもそう不思議ではない時間だ。私もたまに10時過ぎにでも寝ることあるし。
と言うか小梅って普段何時に寝てるんだろう。小梅のこと、まだまだ全然知らないな。そんな当たり前のことを思っていると、すぐに返事、と言うか反応があった。
通話がかかってきたのだ。そんなにすぐだと思ってなかったので送ってから画面を見るでもなくぼんやりしていたのでちょっと慌ててしまう。
『先輩! こんばんは、全然大丈夫ですよ!』
「わ、小梅、元気だねぇ」
ぴっと応答するなり聞こえてきた小梅の溌剌とした楽しそうな声音にちょっとびっくりしてしまう。
『はい、うふふ。先輩とお話できると思ったら、元気になっちゃいました』
「そ、そっか。嬉しいよ」
反応からして、ずっと待っていてくれたのだろうか。その間私は妹とアホみたいなことをしていた。罪悪感が凄い。
『先輩は結構お風呂遅い時間にはいられるんですか?』
「ああ、いや、お風呂はもうとっくに入ってたんだけど、あー、ちょっと、妹が。あ、いや、もちろん指一本変な触り方はしてないけど」
さっきの状況は真面目に説明するとまるで私まで変態の一部みたいに思われてしまうので誤魔化しながら、弁明はしておく。本当に、私のほうに下心はなかった。
『ふふ、なんですかそれ。さすがにそこまで私もひどいこと言いませんよ。恋敵とは言っても朝日先輩の家族なんですから』
「そ、そう? ありがとう。まあ、私もね、ちょっと距離感計りかねてるところあるけど。うん」
小梅……違うんだ。家族だからと油断したら、食いつこうとする。そんなモンスターなんだあいつは。と言いたくなったけどさすがに今の状態でその冗談は冗談じゃないし、色んな意味で冗談にならないからやめた。
私の家族だからと考慮してくれる小梅の優しさだけ受け入れることにする。無断でGPS監視をしようとしてきた異常さはあったけど、きっと陽子の存在のせいだよね。
『それより、先輩の事知りたいです。いつも何時くらいに寝てるんですか?』
これ以上この話を続けても誰も幸せにならない。小梅の話題変えに素直にのっかる。
「そうだなぁ。決めてないけど、でも日付は変わらない内に寝るようにしてるよ。朝は七時ちょい前に起きる感じだし」
『七時間睡眠タイプなんですね』
「そうかな。小梅は?」
『私は朝六時起きなので十一時くらいですね。睡眠時間はだいたいお揃いですね』
「ふふ、そうだね」
そこ喜ぶところなんだ。ちょっと可愛い。
小梅と日常的な習慣や好きなもの、そんなどうでもいいことを自己紹介しあうように話し合った。仮にも出会ってから半年くらいなのに、改まって言うのもおかしい気分だ。だけど悪い気分じゃない。
私のことを知りたがる自体は理屈のわかる好意だ。正直私は小梅がいつも十一時に寝てることをちゃんと覚えていられるかなんて自信がないくらいにはどうでもいいことだけど、なんとなく今は知りたい気分で、私も思い付くことを質問していった。
「そう言えば、小梅っていつから私のこと好きなの?」
一息ついたところで、ふと思いついて尋ねてみた。
告白されたときにずっと前からと言われたけど、四月の委員会の集まりで隣になってからの付き合いで、かつそれでいてその時に軽く挨拶と雑談するだけの仲だったからいつからでもあり得る気がして逆にあまり突っ込まなかったけど。いったいいつどこに私を好きになるきっかけがあったのだろう。
『え、と……初めて会った時から、です』
「え、初対面からってこと?」
『はい……一目惚れ、です』
まじか。全くわからなかった。普通に声をかけて自己紹介しあってよろしくって言っただけなのに? 反応も普通に緊張する一年生としか見えなかったのに?
惚れっぽいにもほどがあると言うか、もしかして私の見た目がめちゃくちゃ小梅の好みすぎるとか?
通話なので相手の顔が見えないのがもどかしい。声だけではその場しのぎで嘘を言っている感じはしないけど、私ってそんなにいい感じの見た目?
「小梅って私のどこが好きなの?」
『えっ、そ、それはその……』
「ごめんね、質問ばっかりして。でもほら、一目惚れってことは私の見た目が好みだったのかなって」
『ち、違います!』
え、全力で否定されてしまった。いや、別に私が絶世の美少女なんて自惚れたわけじゃないよ? でもほら、人には好みってものがあるわけで、小梅の好みと言うごく狭い領域において高得点だったのかなって思っただけだよ。ほんとだよ?
『あ、すみません。つい。でもけして、見た目だけが好みと言う訳じゃありません。見た目ももちろん好きですけど、それ以上に中身が好きなんです。見た目しか見ていないと思われるのは、心外です』
「あ、そう言う」
私が小梅の剣幕にびっくりしたと思ったのか、小梅は謝罪してからだけどそう芯の強い声で続けた。
見た目が好み、と聞いたのが見た目だけが好きなのかと言う質問ととらえたようだ。そういうことならわかる。よかった。
内面があるから好きになったけど見た目が好きなわけないだろ自惚れるなってことかと思った。そんなわけないけど、ちょっと嬉しくてテンション上がったところにするどい注意声だったのでびびってしまった。
そもそも一目惚れなんだから外見が好みじゃないのに覆して好きになるほど内面を知れるわけないよね。……いや、そもそも内面そんな一目でわかるほど丸見えなの? 私、自分で自分の事外面いいタイプだと思ってたからちょっとショックなんだけど。いやいや、いい意味でだもんね?
「ごめんね、変なこと聞いて。恥ずかしいのに答えてくれてありがとう」
『いえ。私がどれだけ先輩を好きなのか、伝わってほしいですから』
「小梅……」
小梅の顔が見れないのが惜しいくらい、小梅の声は柔らかくて、何を言っても優しく受け止めてくれる感じがして、心からいい子だなぁって思う。
それと同時に、顔が見られなくてよかったと思うくらい、気恥ずかしい。そんなに真摯に思ってくれてるなんて。
『うふふ。先輩が、告白した時よりちょっとは私のこと、ありだなって思ってくれてたら嬉しいです』
「ん、んー、まあ、先週よりは好きだよ」
『やた。ふふ。嬉しいです。私、もっともーっと、頑張りますね』
可愛い。この子、可愛いな。好きになっちゃいそう。なんてね。基本私は恋愛的な意味ではないにしろ、優しくしてくれたり私のこと好きな子は好きだからな。
そう言う意味ではもちろん陽子だって好きだ。ちょっと我儘が過ぎるし呆れてはいるけど、可愛い妹には違いない。
今のところ陽子も小梅も、私が明確にどちらかに恋愛感情があるわけではないと言うことで、二人ともが私が恋愛感情を向けるように自分が努力すると言う方向性で頑張ってくれている。
……いや、陽子は一応そう宣言してるけど頑張ってないような。まあそれはともかく。
そんなわけで、私はこの二人のどちらかを好きになる流れだ。と言うかこの流れでこの二人以外の誰かを好きになったらちょっとガチで怒られそうだ。
そうなると、普通に無難なのが小梅だ。当然だ。陽子を好きになってどうする。いばらの道だ。仮にガチになったとして、言わずにその思いは心に秘めておいた方がいいタイプの恋愛だ。なんせ実の妹なのだから。言っちゃうのが陽子だけど。
姉として妹をそんな道に進ませるわけにはいかない。と言う思いがまず好きになるならないの前にある。陽子には悪いけど、可能性の前に好きになりたくないなぁと思っちゃってる。しかも変態だから純粋に付き合うの大変そうだし。
「ありがとう。ねえ、小梅。そう言ってくれる小梅だから、恥を忍んでもう一つ、質問してもいい?」
『え? な、なんでしょう。私にわかることなら、なんでも』
私の真面目な声に小梅は一瞬戸惑ったようだったけど、すぐにきりっとした声でそう応答してくれた。頼もしい。
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