第2話 どスケベ妹がめんどくさい

 四歳下の妹、陽子にベッドに押し倒された状態で「そう言う意味で好き」と告白されてしまった。

 そう言う意味ってどう言う意味、ととぼけるには私が先に言った「家族愛と恋人のは別だからね」と言うセリフがあるので無理がある。


「えーっとね、陽子はね、まだ子供だから、そう言う区別とか難しいと思うんだ」

「っ! じゃあ、わからせてやるよ! 私が本気だってことを!」


 そう言うと陽子は怒ったような真っ赤な顔になって私にキスをしてきた。


「んっ!?」


 しかも舌をいれてきた。びっくりして両手をあげかけるけど、どうしていいのか。無理にどかせようとすると歯が当たって痛そうだし。

 と言うか、なんか甘いジュースの味がして、舌とか入ってくる唾とかめっちゃほかほかでちょっと気持ち悪いな。


 べちゃべちゃと音をたてながらキスをされ、しばしされるがままの私に満足したのか陽子はようやく顔をあげた。顎まで唾が滴っている。私もそんな感覚があるけど、うーん、汚い。

 陽子はどこかとろんとしたような顔をしていて、息が上がっている。私は普通に鼻呼吸が基本なので問題なかったけど、陽子は口呼吸なのかな? 寝る時そう言えば結構寝言言う子だったな。


「て、抵抗しないの? ……い、嫌じゃない?」

「え? まあ、別にいいけど」


 陽子だし、小さい頃はしょっちゅうキスしてたし、涎をたらしていた陽子のお世話もしていた。食べかけのものも食べさせられてたし、今だとまあ気持ち悪いけど、陽子がしないなら嫌ってほどでもない。


「そっ、そうなんだ。じゃ、じゃあ、その、す、するね?」

「ん? うーん」


 もう一回したいと言うことか。うーん、これが家族愛じゃなくて恋人になりたい好きであると言う妹なりの証明なら受け入れるのもまずいよね。でも嫌じゃないって言った以上断るのも。と言うかこの行為が恋愛感情って言う証明になる?


「え、よ、陽子?」


 と悩んですぐに返事を返さなかった私に、陽子は無言でさっと私の服に手をかけ、シャツの裾を下から上に持ち上げた。


 どうやら陽子の言う本気と分からせると言うのは、キスだけじゃなくて性行為をして分からせると言う話だったらしい。私の胸を触ったり舐めたりして自分も脱ぎだした。

 陽子が自分に触れというので触ったら笑っちゃうほど敏感で肩に触れるだけで震えちゃうレベルだった。普通に笑ったけど、どうやら陽子は中学一年生にしてどスケベで自分で自分を開発しすぎていたらしい。引いた。

 それでもまだ私のズボンまでおろそうとしたのでさすがにそれはやめさせた。さすがにね、いくら可愛い妹で多少の我儘は許しちゃうとはいっても、限度があるよね?


「な、何で駄目なの!?」

「めちゃくちゃぶるぶる震えてるのに元気だね。駄目なものは駄目。とりあえず、性的な目で私を狙っていたのは理解したし、家族愛じゃなくて恋人になりたいと本気で思ってるのはわかった。うん、わかったよ。それが目的なんだからもう十分だよね?」

「う……そ、それはそうなんだけど」


 陽子を抱っこしてどかせて服をきせると大人しくなった。そもそも本気だと分からせるためにやっちゃおうって発想がどうかしてると思う。私だからいいけど、普通に犯罪だよ?

 まあ陽子は身長の割には瞬間的には力があるほうだけど、普通に私の方が20センチ以上大きいし力もあるから、私がマジで無理って思ったら無理やりやめさせられるからいいけど。これで体格逆だったら普通に強制わいせつだからね?


「陽子の気持ちはわかりました。ありがとう。でも私は妹としてしか見てないからごめんね」

「えっ、あ、あそこまでさせてくれたのに!?」

「無理やりでしょ。あのね、そもそも告白して最初にすることでもないし、反省しなさい?」

「う、だって、私が子供だから区別できないとか言うから」


 陽子は拗ねたように唇を尖らせる。昔から変わらないその妹の可愛さに、だからこそ心を鬼にして注意する。


「それは確かにね。子供だからって陽子の気持ちを軽く扱ったのは私が悪かったね。ごめんね。でもそれはそれとしてああ言うことしてもいいと思う?」

「……ご、ごめん。だって、全然拒否らないし、こ、興奮しちゃって」

「はい、反省しようね」

「……うん。そうだよね、初めては、その、ちゃんとしなきゃ、だもんね」

「うーん、うん、そうだね」


 もじもじしながら言われた。

 そう言うことでもないけど、まあ仮に私が陽子に交際OKだよ、などと言ったからって当日その場で押し倒してOKなわけでもないから、間違ってもないのかな?


「で、とりあえず話をすすめようか。陽子は私と恋人になりたいと思ってる好きで、だからデートをすると言ったら怒ったし、別れろって命令してきたわけだね」

「そ、そうだよ。だから、別れてくれるよね?」


 申し訳なさそうに人差し指同士をあわせてもじもじしつつも、期待に目を輝かせて私を見上げてくる陽子。いや、どうしてそうなる?


「あの、今普通に妹としてしか見てないって断ったよね?」

「っ、そ、そうかもしれないけど、それでも私が嫌な思いするのわかってるんだから別れてよ! その後輩とだって仮ってことは断ったのに無理やりお願いされて仕方なくお試しで付き合ってるってことなんでしょ!?」


 陽子はまたも興奮したように立ち上がって怒鳴ってくるので、私も立って肩をおさえる。また頭突きされたらたまらない。


「さっきもいったけど、小梅のことは仮とは言え満更でもないし。仮だからって妹に言われただけで別れるわけないでしょ」

「……っ、なんで!? なんでなんでなんで!? 私が嫌だって言ってるんだよ!? 別れろよ!」

「仮に別れたとして陽子と付き合うわけでもないし、私のことは諦めて、新しい恋しよ?」


 その場で地団太を踏んで怒る陽子に、言い聞かせるように優しく言う。そう言う態度が本当に子供だし、妹にしか見えないんだよね。

 私に恋をしているのが本当だとして、叶わぬ恋なんだから普通に諦めてほしい。なんなら小梅が告白してくれてファインプレーなとこある。

 私がフリーなまま陽子がこのまま大人になるまでこじらせてたら、こんな子供の地団太で済まなかったかもしれないし。


「っ、そんなの、無理! 私が何年おねえのこと好きだと思ってんの!?」

「えー、14年」

「なんで多く言うの!? おねえ嫌い!」

「はいはい、だったら恋人いてもいいでしょ」

「ああああああ、もおおおお! 馬鹿! いいから別れろよおお! 私のこと好きじゃなくてもいいから! 恋人にならなくてもいいから、私の事一番じゃなきゃやあだあああああ!!!」

「ちょ、ちょっと陽子」


 陽子はついに膝をついて泣き出しながら、その場でじたばたと暴れだした。完全にやってること幼児。中学生の嫌がり方じゃない。

 私もしゃがんで陽子の腕をつかみ、転がっていきそうなのを起こしてベッドに転がす。床をバンバン叩いたら手も痛いでしょ。


「うわぁぁぁぁぁん!」


 ベッドの上でごろごろするのは問題ないのでしばらく見守る。


「うっ……ううっ」


 枕を投げて掛布団も蹴って一通り暴れてから、疲れたらしく陽子はぐずぐず言いながら掛布団を引き寄せ、布団にくるまりながら鼻をならしてなんとか泣きやんだようだ。

 鼻水はついてないかもだけど、普通に涙ふいてるよね。あとでシーツ交換しよ。


「ひどいよ、おねえ。可愛い妹が、姉を独り占めしたくて泣いてるのに、恋人と別れないなんて。恋人と家族どっちが大事なの? 私の恋人にならないでいいから、私のおねえでいてよ。私まだ子供なんだよ? 後輩って私より年上でしょ? どっちが優先がわかるでしょ?」


 えぇ、我儘がすぎる。妹としての立場を利用してめちゃくちゃ都合がいいこと言い出した。

 まあね、陽子のことは今でも可愛い妹だ。我儘なのも今に始まったことじゃないし、ドン引きはしたけど家族だし妹として今後も可愛がっていくつもりだ。


 でもだからってここで頷いたら恋人にならなくてもいいからと言いながら私のこと一生束縛しそう。

 今は確かに小梅に恋愛感情ないし、仮に小梅を好きにはならずに別れるとして、大人になったら恋をして結婚するんだろうなって思ってたし、そうしたいんだけど。


「あのね、今回はそれでよくてもいずれ私が本当に誰かに恋をしたらそう言うわけに」

「今回は違うんでしょ!? だったら私が優先でしょ!? 別れてくれるまで毎日泣くよ!?」

「うわ」


 う、う、う、め、めんどくせえええええ!!! めんどくさい! こんなにめんどくさい陽子久しぶりだし、どうやって宥めればいいのかわからん!

 今まではめんどくさかったら全部陽子のいいなりになってたし、それはそれで嬉しそうに笑う陽子が可愛いからいいかなってなって全部解決してたからマジでわからん!

 普通の赤の他人でもお願いを断るのめんどくさいのに、実の妹で一緒に暮らしてしつこくてまじで毎日うるさそうな相手を、どう断ればいいのか。


「ね? お願い? 今その後輩はあくまで仮なんだし、気持ちないんでしょ? だったら、とりあえず別れて、私が大人になるか本当にお姉に好きな人が出るまでこの問題は棚上げしよ? その方が絶対楽だって」

「うぅ」


 くそ! 妹だけあって今私がめんどくさすぎて揺れてるのわかってるな!

 いやー、でも、仮とはいえOKしてデートしようってなってすぐ断るなんて。私としては受けた時点で一か月くらいは付き合うかなって思ってたのに。三日は早すぎというか。一度受けたのを断るのって申し訳ないし。


「明日は約束してるから断れないって言うおねえの優しさわかってるから行ってもいいよ。でもそれっきりにして。デートしたらやっぱり違ったって断ればいいじゃん。それなら自然だし、おねえは何にも悪くないよ、ね?」


 あれだけ偉そうに命令していた癖に、私が命令より可愛い妹からのお願いに弱いと思い出したらしく、布団に芋虫のようにくるまったまま顔だけ出してお願いしてくる。


「いや、でも」

「毎日泣いたら、お父さんとお母さんも絶対理由聞いてくるよね。そしたらバレるし、絶対ややこしくなるよね。もしかして、隔離する為に家族ばらばらに住むことになるのかな……」


 おい、おい、妹! それはもう、普通に脅迫なのよ! めんどくさい超えて、もはや面倒でもそうならないようにしないといけないやつ!


「わ、わかった。わかった。私もまだ本気で好きなわけじゃないし、別れる。それでいいでしょ」

「うん! おねえ大好き!」

「はいはい」


 途端に満面の笑みになってベッドから飛びつくようにして抱き着いてきた陽子。私は小梅に申し訳ないなとか、大学生になったら一人暮らししよとか、思いながら頭を撫でてやった。


 仕方ない。こんな凶悪でめちゃくちゃめんどくさい妹にしてしまったのも、きっと私なのだ。最後までは責任取らないけど、実家にいる間くらいは相手をしてあげないとね。

 ……私の胸に顔を擦りつける様にしてるけど、さっきのがあるからなんか疑ってしまうけど違うよね? これは普通に姉妹としての健全なスキンシップだよね?


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