第14話 受け入れたくない! 後編

いや~な空気になったけどどうしよっかな。


うーん、うん。

ここは当事者にぶん投げよう。


「そういう訳でラグナ殿下、シリル様、後はよろしく。」


かなり前から来ていたカルゼ、アジス、ラグナ、シリルを見て言ったら、フィーラ様とマリン様が振り返った。


二人からは死角の位置にいたから気づかないよね。


ラグナはアジスに拘束されてるけど、話の途中で飛び出してこようとしてたの?


「アジス、ラグナ殿下を離してもいいわよ。」


なんで躊躇ってんのよ。

ラグナが私に喧嘩売りたいなら買うんだから早く離しなさいよ。


「姉上、殿下は一応王族なんです。」


言われなくてもわかってるから早く離しなさい。


アジスは渋々ラグナの拘束を解いたら、ラグナは私に掴みかからんばかりに詰め寄った。


「兄上はそのような方じゃない!

何を根拠に兄上を貶めるんだ!

いくらシーちゃんでもっ!いだだだっ!!」


ラグナがあんまりにも近づいて来るから、思わずアイアンクローをお見舞いしちゃったじゃない。


「ラグナ殿下、近づきすぎです。

フィーラ様、これは浮気じゃないんで誤解なきよう。」


「姉上、手を離して下さいっ。

この状況で浮気なんて誰も思いませんから!」


なら良かった。


顔から手を離すとラグナは蹲って頭を抑えている。

私の手は小さいけど鍛えてるからそれなりに痛いようだ。

フィーラ様がラグナの傍に行き「大丈夫ですか?」と頭をさすってあげている。

基本優しい人なんだよね、フィーラ様は。


「ラグナ殿下、私は仮定の話をして、私が感じた王太子の印象を話しただけです。

不敬罪に問いたければどうぞ。

後、次に人前でシーちゃんって呼んだらお口を引き裂いちゃうぞ♪」


あんたの浮気相手だと思われたら、立ち直れないじゃない。


「申し訳ない、ラゼントリオ嬢。」


ラグナもアジスと同じ阿呆可愛い所があるから、憎めないんだよね。


「だが兄上への不敬は見逃せない。

根拠はあるのか?!」


はあ?


「ラグナ殿下、姉の発言は確かに不敬ですが、ラグナ殿下を思っての忠言です。

それに僕も同じ意見です。」


言い返そうとしたらアジスがフォローを入れてきた。


「俺も同じだ。」


カルゼもそう言いながら人の腰を抱いて手をにぎにぎしてきた。


いちいち手を握ってこないでよ。

顔が熱くなるんだから!


カルゼもアジスまでとはいかないけど友達思いなんだよね。


恋人思いは程々でいいんだけどね。


「なんで·····兄上が何かしたのか?」


今は・・私達には・・・・何もしてないよ。


「姉上が倫理観のある合理主義者だとして、王太子殿下は倫理観のない合理主義者なんです。

ご自身が有利になるならラグナ殿下を窮地に追いやっても心など痛めないでしょう。

そしてそのようなご自身を上手く隠しておられる。」


あの王太子と並べられるのってちょっと嫌なんだけど。

いちいち言葉なんか選ばないで利己主義だって言えば?

いや、倫理観ないって言ってる時点で言葉選んでないか。


「ラグナもいつも王太子に苦手意識持ってただろ。」


カルゼの言う通り王太子の前ではいつもどこか腰が引けてたもんね。


この子危機察知能力があるから本能でわかってるけど、家族だからって思い込みが強いから認められない。


相手はそんなものゴミ屑程度の認識しかないんだよ、ラグナ。


「あとは自分で判断しなさいよ。

フィーラ様やマリン様も王太子の側室になりたいならいいけど、そうじゃないなら考えた方がいいわよ。

じゃあ私は帰るから。」


おやつ食べそびれてお腹空いてるのよ。


カルゼは自然に私をエスコートして一緒に馬車に乗ってきた。


今日は自分の邸に帰ろうと思ったのに。


うちに大きな海老が沢山送られてきたんだ。

シーちゃん海老好きだろ。」


好きだけど、飛びつくのは危険だって本能が警鐘を鳴らしてるのよ。


ラグナ程じゃないけど私も危機感は持ってるから。


でもこのアクアマリンの瞳にじーっと見つめられると断りにくいんだけど。


「·····ご飯食べたら帰るからね。」


「わかった。

シーちゃんが来たら料理長が張り切って作ってくれるよ。

いつも美味しそうに食べてくれるからね。」


ご飯を一緒に食べるって言っただけで子供みたいに喜ばないでよ。


お昼ご飯も一緒に食べたじゃない。


でもこれがフィーラ様曰く婚約者の普通なんだよね。


確かに私やラグナやシリルは婚約者失格だった。


だけど私には普通じゃない婚約者同士の交流もあるから、カルゼの邸に行くのに二の足を踏んじゃうのよ!


ドゥルド邸に到着してカルゼのお母様の歓迎と海老料理を堪能。


港から離れてるのにプリプリ新鮮な海老は美味しかった。


自然な流れでカルゼの部屋でお茶を飲んでるけど、私は帰るからね。


「シーちゃんの好きそうなお酒が手に入ったんだ。

飲むでしょ。」


いや、帰るんだって!


「今度貰う。

もう遅いからそろそろ帰るね。」


「もう封を開けたから一杯だけ飲んでいったら?」


なんの思惑もありませんって顔で琥珀色のグラスを差し出されると断りづらいな。


「·····ありがとう。」


だから、子供みたいに喜ばないでってば。


ここ何年かは大人びた微笑みしか見てなかったのになぁ。


私に意識してもらうのに無理してたんだそう。


それさえもわからなかったって私の目はどんだけ節穴だったんだ!


商談で商人や貴族の裏の顔を読むのに慣れてるつもりだったのに自信を無くすわ⋯


「あ、美味しい!」


ちょっとフルーティな香りで喉にスルスルと入っていく。


「このチーズとよく合うよ。

試してみて。」


つまみ用のチーズも美味しい。


トラットリアの飲酒解禁年齢は貴族は15才からで平民は18才から。


貴族は他国との交際でお酒を飲まなきゃいけない時もあるから、社交の場で醜態を晒さない為に、お酒に慣れとかないと駄目だからね。


貴族って面子と見栄でできてるから、生きるのに苦労するわ。


その分恩恵も凄いから文句は言えない。


私のグラスにおかわりを入れようとするカルゼの手を止める。


「一杯だけでいいよ。

ご馳走様。美味しかった。」


そんな残念そうに見ないでよ。

一杯だけっていったでしょ。


「じゃあ、また今度飲もう。」


カルゼは琥珀色の瓶をテーブルに置いてキスをしようとしたのですかさず躱した。


「シーちゃん·····」


哀れっぽい声だすな!


「帰るって言ってるでしょ。」


もう流されるシーちゃんはいません。


「キスだけだよ。」


「いつもキスだけで終わらないでしょ。」


婚約者・・・だったらキスくらいいつでもするもんだよ。」


うっ、婚約者を強調してきたな。


しかもそれを言われると私が断れないってカルゼは知ってる。


「一回だけだからね。」


軽くね!軽くだよ!



「うんっ。」


軽い返事を求めてるんじゃない!


·····口閉じとこ。


カルゼの唇が私の唇に触れて舌でも触れてきた。


··········


·····長くない?


一回って唇が離れなかったらカウントされないって思ってる?


「シーちゃん、シア。

口開けて。」


唇離さないでよく喋れるね·····


しかも口開けるまで止めるつもりないな。


なんかだんだん気持ち良くなってきて、勝手に口が開いていく。


「ふぅ·····んっんっ!」


カルゼの舌が私の口内を我が物顔で蹂躙して、キスだけで理性が崩壊しそう。


「ルー、もっと·····」


カルゼが私を抱き上げてベッドに移る間も、ベッドでもキスをしていた。






爽やかな朝の光の中、裸のカルゼの腕の中で裸の私は落ち込んでいた。


あの時なんで一回って言ったんだろう。


秒で言えばよかった·····


そうすれば小鳥がチュンチュン鳴く可愛らしさに頬を緩ませられたのに!


私の最近の最大の悩み、カルゼとの閨での抵抗が無くなってきている。


それどころか途中からは私の方が積極的な気がする。


初めての朝からその兆候はあった。


いくらカルゼが優しいと言っても処女だったのに痛みが少なすぎた!


それからも行為が始まれば快楽に流される日々。


自分が淫ら·····いや、違う!


17才でそんな訳ない!!


しかも結婚もしてないのにそんな悲しい事実と向き合いたくない!


「シーちゃん、おはよう。

どうしたの?そんな悲しそうな顔して。

もしかして足りなかった?」


そんな訳あるか!


怒りの枕をカルゼに投げつけるけど笑いながら受け止められた。


「冗談だよ。

お腹すいたんだよね。

湯浴みしてご飯食べよう。」


軽く唇にキスして起き上がる。


そのキスを求めてたんだよ、昨夜の私は!


そうすれば起き上がれなくて顔を真っ赤にしてなくても良かったのに~!


カルゼは私に果実水を渡して朝ごはんを頼みに出ていった。


このまま行けば私が・・カルゼから離れなれなくなるじゃない!


アジスー、お姉ちゃんを助けてーーー!!




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【本編完結】婚約を解消したいんじゃないの?! as @-as-

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