第12話想像と違う!

馬車がドゥルド公爵家に着いても、御者に急かされてもなかなか立ち上がれなかった。


だって馬車から降りたらドゥルド邸に入るんだよ!


邸に入ったらカルゼがいるのよ!


そんでゴニョニョをゴニョニョ·····




やっぱり無理!!


学園ではマリン様の教え通り金〇したらいいと意気込んで馬車に乗ったけど、道中でだんだん冷静になってきたわ。


普通に考えて失敗したら男として立ち直れないよね。


カルゼがまた泣いちゃう。


あの泣き顔は好きじゃない。


どっちみち結婚したらやらなきゃいけないけど、どんな好きかはっきりしてカルゼに伝えてからの方が、ショックが少ないような気がする。


償いは別の形でしよう。


帰ろうと思って馭者に伝えるのに馬車の窓のカーテンを開けたら目の前にカルゼのお顔!


「ぎゃあああ!」


淑女にあるまじき悲鳴がでて腰が抜けそうだったわ!


「シーちゃんが出てこないからどうしたのかと心配だったけど、元気そうだね。」


笑顔で馬車の中に入ってこないでよ!


カーテン開けたら悩みの種がドアップでいたら、100才の老人でも叫ぶわ!


「さ、行こう。

母上もシーちゃんに会うの楽しみにしてたんだ。」


あ、叔母様も居るのね。


意識し過ぎで恥ずかしい·····。


安堵感で体から力が抜けてカルゼの差し出す手を取って馬車を降りた。


ドゥルド邸に入るとブルーシルバーの髪を緩く一つに纏めた品の良い美女がエントランスで出迎えてくれた。


「シーちゃん、お久しぶり!

ずっと来てくれなかったから寂しかったのよ。

こんなに綺麗になったなんて月日が流れるのは早いわねー。」


叔母様に悪気がないのはわかるんだけど、今の私にはその言葉が胸に刺さる·····


笑顔でガーデンテラスに案内され、色とりどりの花の中でお茶会。


「沢山召し上がって。

シーちゃんの好きな魚介のカナッペも用意したのよ。」


海老やホタテやサーモンのカナッペの他にサンドイッチやキッシュまである。


叔母様、夕ご飯前のお茶なのに多すぎない?


「久しぶりだから母上が張り切ったんだよ。」


カルゼまで久しぶり言うな!


「叔母様、ご無沙汰してしまってごめんなさい。

私の好きな物覚えていて下さったのね。

ありがとうございます。」


ここはしっかり謝罪とお礼を言わないと。


婚約者なのに相手の邸に全然来てなかったもんね。


「昔はわたくしに会ったら抱きついて挨拶してくれたのに·····。

大人になったのは良い事だけど叔母様は寂しいわ。」


そんなんで目をうるませないで!


罪悪感が膨らんでいくから!


「母上、シアが困ってるよ。

取り敢えず座ろう。」


「そうね。さあ、どうぞ。

足りなかったから言ってね。」


私のお腹は牛じゃないんです。

テーブルいっぱいの料理を平らげる胃袋は持ち合わせておりません。



そう言いながら一通りは頂いて昔話ー私の黒歴史ーに花を咲かせたわよ。

ーー主に叔母様が。


食べ過ぎてお腹を壊しただの、木に登って林檎を取っただの、追いかけっこして池に落ちただの、昔を知ってる人に会うと大抵子供の頃の悪戯話をされるから、こっちは羞恥で居たたまれなくなる!


そんな暴露お茶会も終わり、カルゼの部屋に来た時にはぐったりしてソファにだらしなく体を預けた。


「ごめんね、シーちゃん。

母上が一人で盛り上がって疲れただろ?」


確かに疲れたけど無沙汰した私が悪いしね。


「何年も来なかったのに歓迎してくれて嬉しいわよ。

カナッペも美味しかったしね。」


食べ過ぎて夕ご飯食べれなくなるくらいだわ。


「そう言ってくれたら嬉しいよ。」


カルゼが嬉しそうに笑顔で顔を近づけてきた。


私は両手でカルゼのお口を塞いで馬車で思った気持ちを伝える。


「カルゼ、あんたとは結婚するけど、私はまだカルゼにどんな好きかわかんないのよ。

もし流されてしちゃった後で恋愛感情じゃないってわかったらどうするの?」


カルゼはきょとんとして私を見る表情は子供の頃の面影が残っててちょっと可愛い。


「恋愛感情があろうとなかろうと結婚するんだよ。」


いや、そうなんだけど·····


「どんな好きかわかってからの方が良くない?」


ゴニョニョするには。


「シーちゃんは昔から白黒つけたがるけど、人の気持ちって変化するんだよ。

シーちゃんは俺を好きは好きだろ。

それともこれから嫌いになる?」


ちょっと、涙溜めながら言わないでよ!


「嫌いになんかなるわけないでしょ!」


恋愛にならなかろうがカルゼが私を嫌いになろうが、それは変わらない。


「あんな酷い事言ったのに?」


特Aでの暴言の事?

それはもういいって言ったでしょうが。


「まあ、普通なら腹立つけど自分のしてきたこと考えたらね。」


カルゼも空気扱いとはいえシフォンがいる特Aで過ごして醜聞になってるけど、私はそんなの気にせず婚約者らしい事もしないで好きに過ごしてたんだもん。


「本当にごめん。

煮詰まってたからって言っていい事じゃなかった。」


ちょっと目が虚ろになってるよ?


「じゃあ、次からは私の前で言ってよ。

そしたら腹が立ったら言い返すし、悪いと思ったら謝れるから。

今更こんな事言うのもおかしいけどこれからはカルゼと向き合ってちゃんと話したい。」


私は違う方向ばかり見てたしカルゼはこっちを見てたけど何も口には出さなかった。


これじゃあ上手くいきっこない。


「ありがとう。

俺はシーちゃんがどんな感情でも好きでいてくれるなら、それでいいんだよ。」


「本当に?」


「うん。」


「傷つかない?」


「なんで傷つくんだよ。

⋯シーちゃんはこの前のキスは嫌だった?」


口の端にキスしながら聞いてくる。


「嫌じゃなかった。」


カルゼは目を細めて唇にキスして舐めながらまた聞いてきた。


「じゃあ、これは?」


「いや、うぁんっ·····じゃ、んんっ!」


舌が絡まってゾクゾクして気持ちいい。


「シーちゃん、俺の目を見て。」


キスしながらカルゼのアクアマリンの瞳を見ていると、この前のように溺れそうになる。


「気持ちいいね。

もっとしてもいい?」


「·····カルゼはいいの?」


私の気持ちが定まらなくても辛くないの?


「シーちゃんが大好きだから、触れたいんだよ。

シーちゃんは嫌?」


首や鎖骨にキスされ胸に優しく触れられて、思考がフワフワしててまともに考えられない。


「自分が変わってしまいそうで怖いけど、嫌じゃない。」


カルゼの温かい手が私の体と思考をドロドロに溶かしていく。


「じゃあ、怖く無くなるまでゆっくりしよう。」


耳元で囁かれて溶けた私の思考を侵食していく。


怖くなくなるならいいかな。

カルゼも傷つかないし、何を心配してたんだろう?


カルゼの首に両腕を回すとキスが深くなった。


「んんっ、ルー、んぁっ·····」


「シーちゃん、シア、大好きだよ。

愛してる。

·····これで俺のものだね。」


カルゼの声が遠く、快楽に溺れて言葉の意味がわからない。


私はカルゼに体を委ねて全てを明け渡した。








翌朝、カルゼの腕の中で目覚めた私は恥ずかしさに逃げ出したかった。


私も裸、カルゼも裸、しかも抱き込まれて逃げるどころか腕も動かせない!


それにあらぬ所が痛い·····


ヤッてしまった·····


一線は守るつもりだったのに、途中からはまともに考えられない状態でカルゼのなすがまま。


私って快楽に弱かったんだね。


初めて知ったよ·····


カルゼは宣言通り優しくゆっくり私を怖がらせないように行為をしてくれた。


一線を越えた時の痛み以外は気持ち良さしかなかったわよ!


これ、償いになんの?

快楽に耽ってただけじゃない!


想像してたのと違いすぎて、もう泣いてもいいかな?


「シーちゃん、どうしたの?

どこか痛い?

途中から加減が出来なくなったから、体が辛かったら言って。」


カルゼは起きた途端、心配そうに私を見るけど、恥ずかしさで目が合わせられない。


「本当に大丈夫?

初めてだったのにあんなにヤッたからどこか痛めたんじゃない?」


ヤッたって言うな!


確かにめちゃめちゃヤッたよね。

こちとら初心者なのに1回で終わってくれなかったよね。


でも今はそんなんどうでもいいのよ!


怖いとかカルゼを傷つけるとか償いとか何もかも飛んでって、快楽に溺れた自分が情けなくて顔を見れないんだよ!


「シーちゃん、シア。

お願いだから顔を見せて。

そんなに嫌だった?

俺酷かった?」


カルゼの情けない声に羞恥も忘れて顔を上げて両手でカルゼの頬を挟む。


「違うから!

その、すごく気持ちよかったよ·····

ただ、あの、最初に、あれだったのに、き、気持ち良さに溺れちゃって·····恥ずかしくて·····」


これを言うのもめちゃくちゃ恥ずかしい!


でもカルゼにこの事で不安にさせたくない。


私の恥ずか死ぬ告白でカルゼはアクアマリンの瞳をキラキラさせて嬉しそうに笑った。


「良かった!

俺も初めてだったから上手く出来なくてシーちゃんに嫌われたかと思ったんだ。」


ん?

今おかしな発言しなかった?


「初めて?」


「うん。」


「誰が?」


「俺が。」


ナニをとは聞けない·····


初めてでアレなの?


えっ?ちょっと待って。


私、初めて同士って悲惨だって聞いてたし、普通にカルゼは経験があるって思ってたよ?


無神経な私でも今「経験なかったの?」なんて聞いちゃいけないのはわかる。


でも初めて?


それで私は快楽に溺れたの?


「シーちゃんがもっと良くなるように俺頑張るね!」


いや、もう充分だから。


これ以上は私がおかしくなるから。


「カルゼは優しかったしすっごい上手だから、今の・・ままで・・・いいよ。」


私をおかしくさせたくなければ何もすんな!


心の内を悟られないように笑顔で言うとカルゼもニッコリ笑って私にキスしてきた。





婚約は解消出来なかったし留学も出来なかった。


その上、自分の屑さを自覚させられ償いでカルゼと引き返せない関係になっても受け入れている自分がいる。


ここまでは自業自得だからいい。


ただこの展開快楽に溺れる私だけは受け入れられない!


いつか逆転してみせる!



~[完]~



♪ ♪ ♪ ♪ ♪


読んで頂きありがとうございました

m(*_ _)m


コメディが書きたくなって一話完結のつもりで書いたのですが、ズルズルと長くなってしまいました(;_;)


途中で主人公の屑さにタグを付け加えてしまい、書いた本人も吃驚の作品になりました。


完結してからじゃないと投稿できない!と完結してから投稿しましたが、途中、読者様の感想によりタグの付け方失敗の発覚·····


開き直って4話目で訂正文入れされてもらい突き進みました( ̄∇ ̄*)ゞ


そのうち番外編も書きたいと思っています。(いつになるかはわかりませんが💦)


コメディは書いてて楽しいので、他の作品の続きを書きながら次こそ一話完結で書きたいと思います(〃・д・) -д-))ペコリン


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