第6話一番の馬鹿は私だった!
ラグナが隣の部屋を貸してくれてカルゼと移動したけど、何を話すの?
「この間の俺の失言と言うか、暴言は申し訳なく思ってる。
本当に悪かった!」
あ、あれね。
「別に良いわよ。
気にしてないし。
むしろあれを利用して婚約解消しようとしたからお互い様だしね。」
どっちもどっちって言いたかったのに、なんで泣きそうな顔してんのよ。
「そんなに嫌だったのか。」
泣いた!
止めてよ、カルゼに泣かれるの苦手なのに!
「嫌とかじゃなくて、カルゼは私を好きじゃなさそうだし、私はカルゼを異性として好きじゃないから婚約解消できるならしたいなって。」
もっと泣いたーーー!
「友達としては一番好きだよ!
カルゼとアジスは私にとって特別だって知ってるでしょ。
異性として意識してないだけ!
ここ数年ほとんど交流もなかったし、学園に入ってからはシフォンといい感じだったから、もういいんじゃないって思ったの!」
「やっぱりそうだったんだーーー!」
大号泣。
もうどうしたらいいの?
とりあえず椅子に座らせ背中を撫でて泣き止むのを待った。
これって男女逆じゃない?
そう思いながらハンカチで溢れ出る涙を拭いていると、涙の膜でキラキラしたアクアマリンの瞳がこちらを見た。
「ごめん、いきなり泣き出したりして。
シーちゃんも焦ったよね。」
カルゼからシーちゃんなんて呼ばれたの何年ぶりだろう。
昔はよく舌っ足らずに「シーちゃん、待ってー!」って泣きながら追いかけてきたな。
「いいわよ。
男だって情緒不安定になるだろうし、アジスなんてリルと似たようなガタイしといて未だに泣いてるわよ。」
主に私のせいでだけど。
「俺ね、子供の頃からいつかシーちゃんに異性として意識してもらえるように、勉強も武術も頑張ったんだ。」
「だけどシーちゃんはいつまでたっても俺を弟みたいな感じで見るし、婚約できた時は凄く嬉しかったけど、シーちゃんからしたら俺の立ち位置は弟のままだったでしょ。
俺からアプローチしなくなったら邸にも遊びに来てくれなくなるし。」
あら?
「学園に入ったら一緒に登下校したりご飯食べたりできると思ったのに、毎朝王城の早朝訓練に参加して放課後はラゼントリオの経営する店とかに行くから先に帰るし、昼休みはさっさと食堂でご飯食べて図書室に行くから誘えなかった。」
不味い⋯
「シフォンとの噂が流れても気にしなかったんでしょ。
可愛い物好きのシーちゃんはシフォンの顔も好きだよね。」
人に説教たれてる場合じゃなかった。
私もやらかしてる!
「昔は俺の顔が大好きだって、水色の瞳が泉のようで綺麗だって言ってくれたのに、成長して可愛くなくなったら顔さえ合わせてくれなくなった。」
ここだ!
ここでフォローできる。
いや、ここでしかできない!
「今でも顔も瞳も大好きよ!
昔は可愛かったけど今はかっこよくなったし、アクアマリンの瞳もチスの泉のように透き通ってずっと見ていたい程綺麗よ!」
チスの泉は天の御使いが降り立ったと言われる泉で、国一番の澄んだ泉。
綺麗なもの、美しいものにはチスの泉のような~みたいな褒め言葉によく使われている。
陳腐な台詞だけどカルゼは嬉しかったみたいで涙が止まった。
「本当に?」
「本当に。」
カルゼさん、いつの間に両手を恋人繋ぎしたの?
「いつまでも見ていたい?」
「も、もちろん!」
お顔が近いんですけど。
「じゃあ、ずっと見てて。」
「ずっとって⋯」
近い、近い、近すぎて見えにっ?
「ん~~っ?!」
ーーー今、何が起きてるの?
唇になんか当たってるんですけど!
「んっ、んっ!」
口を開けちゃいけない気がする。
私の本能、じゃないけど。
だって唇をペロペロ舐めてんだもん。
口開けたらこの舌が確実に入ってくる!
でももう息がーーー!!
「プハッ!カ、んあっ!」
やっぱり入ってきた!
しかも両手は恋人繋ぎで拘束されて、体も絶妙な力加減で乗っかられてるから動けない。
「カルッ、ふぁ⋯もう、んっんっ!」
もう酸欠でフワフワしてるのか、気持ち良くてなのか、わからなくなってきた。
くったりした私の手を離し、服の上から胸を揉んできた。
「カルゼ、止め、んんんっ!」
やっとキスが終わったと思ったらまた舌が入ってきた。
舌と舌を絡ませたり上顎を舐められて胸を優しく揉まれーーー
もともと力でかなわないのに今はフワフワしてて思考さえ働かない。
カルゼも別の意味で思考が止まってる。
「ああ、ずっとシーちゃんの体に触れてみたかったんだ。
こんなに気持ちいいなんて⋯」
カルゼの瞳を見ながらキスしてると水に絡め取られて溺れているような錯覚に陥って、怖いのか気持ちいいのかわからなくなってきた。
このまま溺れてもいいかもー
「そこまでー!」
バンッと凄い音がしてアジスの声が聞こえてきた。
意識がハッキリして自分の痴態に羞恥で全身に火が付いたように熱くなる。
服は上半身は脱がされてスカートも上の方に上がってる。
そこまでだったらカルゼがやったと言えるけど、私の両手はカルゼの頭の上と背中にあるし、片足はカルゼの足に絡めていた。
どう見ても合意、下手したら私が誘ったように見える。
「せっかく気持ちよかったのに。」
不貞腐れた表情は昔のままで可愛い。
確かに気持ちよかったし。
「シーちゃん起きれる?
続きは俺の邸でする?」
そういえばさっき邸に遊びに来なくなったって拗ねてたっけ。
頬を撫でる手が気持ちよくて思わずスリスリしてしまった。
「姉上、しっかりして!
このままじゃ貞操の危機だよ!!」
ていそう、テイソウ、低層?
「姉上の処女がなくなるんだよ!
弱ったフリした狼に
頼むからいつもの姉上に戻ってよ!」
アジスが私の傍まで来て泣き出した。
その泣き声で本当に頭がハッキリした。
ガバリと起き上がってカルゼから距離を取りながら服の乱れを直した。
危なかった!
何カルゼの邸に行ってもいいかもとか、可愛いとか思ってんの?
カルゼの邸に行ったらもう終わりだったわよ。
カルゼが残念そうに見てきたけど、邸には絶対に行きません!
私の決意がわかったのか名残惜しそうに唇をペロリと舐めて私を見てくんのよ。
色気が凄すぎる!
⋯カルゼがこんなんだったなんて知らなかった。
だって私の中でのカルゼは私を泣きながら追いかけてくる可愛い弟(みたい)だったから。
私より大きくなっても、強くなっても。
だから距離ができても、嫌われてるって思っても、弟なんてこんなものって気にしなかったのにーー!
身内意識が強くて異性(恋愛対象)としては圏外だったのが、たった数分で目の前に現れたのよ!
どうすりゃいいのよ?!
「逃げてもどうにもならないよ。」
「⋯逃げてないわよ。」
あの後、私はカルゼに「じゃあ、また!」と言って顔も見ずに城から出てきた。
これは戦略的撤退!
「姉上らしくないよ。
いくら動揺したからってカルゼ様を置き去りにして、殿下に挨拶もせずに帰るなんて。」
あ、ラグナに声かけるの忘れてた。
「殿下は姉上の状態を知ってるから良いけどカルゼ様には明日謝った方が良いよ。」
あんたら立ち聞きしてたな!
それは良いとして(良くは無いけど)アジスのお人好しさが少し心配なんだよね。
「あんたってどこまでもいい子ちゃんね。」
私がそう言うとアジスは顔を顰めた。
「言い方が悪かったわ。
いつも正しい方や弱い方の味方をするって言ってるの。
良いのか悪いのかわからないけどしんどくないかなって。」
いつも周りを気遣っているんだよね。(家族が奔放だから反面教師なのもあるのかな)
「別にそんなつもりはないよ。
ただ姉上がカルゼ様を意識してなくてカルゼ様は姉上だけを見てたのも知ってるから。
二人の問題だから口出ししたくなかったけどそうもいかなくなったし。」
あの特Aでの失言?も私の話題が出て、溜まりに溜まった鬱憤が吹きでただけなんだそう。
シフォン以外はカルゼの気持ちを知ってたから窘めなかったらしい。
「カルゼ様からしてみれば意地悪だし、優しくないし、結婚しても異性として意識してくれなきゃカルゼ様の人生お先真っ暗だしね。」
本当にね。
カルゼのあれは失言でも暴言でもなかった。
確かに婚約してからも私は変わらなかった。
弟のようにしか見ず、好きな事や興味のある事に夢中で婚約者としての交流をちゃんとしなかったし、カルゼが努力する理由なんて聞こうともしなかった。
寧ろあの程度の愚痴くらい零さなきゃやってられないよね。
改めて考えると私って最低だわ·····
「でもカルゼが私を好きだなんて知らなかったんだから仕方ないじゃない!」
私の言い訳をアジスは無常にも切って捨てる。
「それこそ向き合ってこなかったからじゃないか。
カルゼ様はいつだって姉上を見てたし努力してたよ。
姉上が少しでもカルゼ様を婚約者として見ればすぐにわかるぐらい。
シフォンの件だって殿下の友人として行動してただけで二人きりになったことなんかないし。」
·····私ってラグナやシリルよりも屑だったんだね。
「明日は姉上から昼食に誘ってあげたら?」
アジス君、なんでそんなに大人なの?
♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪
読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
やっとアーシアとカルゼを絡ませられました。
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