第5話馬鹿なの?!
王城で湯浴みをさせてもらいラグナの部屋に行くと、もう皆集まっていた。
ラグナはベッドに沈没、シリルはクッションに埋もれて巨大なテディベアを抱きしめている。
シリルって身長2m近くあって筋肉モリモリの武骨なイメージあるけど、繊細なんだよね。
私に気づいたアジスがラグナ達に声をかけに行った。
「殿下、姉上が来ましたよ。シリル様も起きて下さい。」
二人は怯えたように私の方に来た。
叱られる前の子供のような顔しないでくれないかなぁ。
「私に何言われるかわかってるよね。
なんでそんなに弱いの?」
マイルドに言ったのに落ち込まないでよ。
さっさと理由を話せ。
眼光に力を込めると
「訓練をサボってました。」
「俺もです。」
「⋯⋯」
ん?終わり?
二人をじっと見つめても無言のまま。
う~ん、うん。
「じゃ、私帰るね。」
「「「えっ?」」」
「だって言う気ないでしょ。
私も暇じゃないし、弱いヘタレの腰抜け浮気男に付き合ってるなら、まだ淑女のお茶会に出た方がマシだもん。」
婚約継続でギスバル公国への留学は中止になったけど暇ではないんだよ。
「浮気なんかしてない!」
「俺もだ!」
「だから?」
私に言っても仕方ないんだけど。
「だからって、シーちゃんが僕らを⋯」
言い訳しだしたので、面倒だからやっぱり帰ろう。
扉に向かって歩いていたらカルゼとアジスが私の前に回り込んだ。
「送っていく。」
いらない。
「姉上、殿下達の話を聞いてあげてください。」
アジス、優しいのは良いけど時と場合によるよ。
「私は二人の親でも保護者でもないの。
鍛錬もせず学園での評判も底辺の、王族や高位貴族の自覚もない阿呆にどう言えって?」
そんな悲しそうなお顔しないでよ。
お母様そっくりの造作だから胸が痛むじゃない。
「でも幼なじみじゃないか!
友達だろ。
姉上みたいなひねくれ者でも縁を切らないでいてくれてててててっ!」
減らず口ばかり叩くので両頬を引っ張って黙らせる。
呻いている弟を放って二人を見たら、途方に暮れたように私を見ていた。
こんなんでも幼なじみで私の数少ない、素をさらけ出せる奴らだ。
私は大きく息を吐いてまずは現状を認識させよう。
「あんた達学園でなんて言われてるか知ってる?
シフォンの取り巻きって言われてんの。」
「えっ、それって僕も?」
弟よ、残念ながらそうなんだよ。
「あんた達四人がそう言われてんの。
シフォンを巡って争ってるとか、誰が一番シフォンと仲が良いかとか賭けまでされてるし、婚約者達は捨てられた哀れな女とか耳を塞ぎたくなるような悪口を言われてんの。」
ラグナもシリルも知らなかったって顔だね。
「そんな、そんな風に言われてたなんて⋯」
「マリンがシフォンを嫌ってるのは知ってたが⋯」
呆然としたようにラグナ、シリルが独り言のように呟いたけど、私はシリルの発言を聞き逃さなかった。
シリルのそばに行き鳩尾に一発いれてから両頬をビンタして蹴り倒した。
「姉上、落ち着いて!
シリル様は知らなかっただけだから!!」
「落ち着いてるわよ。
リル、あんたの婚約者は心のない人形だとでも思ってんの?
シフォンを嫌ってる?
そりゃ嫌うでしょうよ。
自分の婚約者が阿婆擦れに鼻の下伸ばして尻を追っかけてんのよ。
それで会う度にその阿婆擦れにドヤ顔されてみ。
私だったらあの可愛い顔をふためと見れないようにしてやるわ!」
ラグナに向き直り震えてる奴の胸倉を掴んで真正面から睨んでやった。
「ラグ、あんたもよ。
抑々の元凶はあんた。
シフォンにかまけて婚約者を蔑ろにして、何がしたいの?
婚約を解消したいならさっさとすればいいのよ。
それをせず特Aにシフォン一人いれて婚約者を拒否して。
一人の女性を複数の男性が取り囲んでたらどう思われるかなんてわかってるでしょうが!
わからないなら男止めなさいよ。
切ってやるから!」
四人を見回すと全員項垂れてる。
淑女の前で股間を押さえるな!
「あんたらの評判が地に落ちようが貴族から外れようがどうでもいいけど、婚約者を巻き込むんじゃない!」
一気に長文で怒鳴ったからしんどいわ。
こんなお節介は私の柄じゃないんだけどな。
落ち着く為に長椅子に座るとアジスがアイスティーを差し出してきた。
よく気のつく優しい子なのに、婚約者が決まらないのは優しすぎるからかな?
アイスティーを飲み干して優しさのやの字もない阿呆を眺める。
全く動かない。
まあ、なーんにも知らなかったんならショックだろうけど、それはそれで問題なんだよね~。
「ここ数年なんで私があんた達と距離置いたかわかってなかったの?」
お顔に?って書いてる。
まじで?
「普通に考えて自分の婚約者に馴れ馴れしくしてる異性がいたら、嫌じゃない?
世の中って男性が悪くても叩かれるのはいつも女性なんだから。」
女性に生きづらい世の中なんだよ。
「それはそうだけど、政略なんだから。」
「政略だろうが恋愛だろうが相手の立場を考えろって言ってんの。
恋愛感情持てなくても信頼関係を築く努力しなさいよ。」
ラグナは甘やかされ過ぎてちょっと自己中なんだよね。
私も人の事言えないけど。
「マリンは俺なんて気にしてない。」
まだ言うか、この唐変木が!
「姉上、口で、口でお願いします!」
チッ、アジスが味方で良かったね!
「リル、そんなにマリン様が不満なら、あんた有責で婚約破棄しなさいよ。
この前マリン様がシフォンになんて言われたか知ってる?
『シリル様って見た目通り優しいんですよね。この前倒れかけたら抱きとめてくれたんです。でもお顔が真っ赤になって吃驚しました。』だよ。
皆がいる教室でよ。
それを聞いてた人はリルがシフォンを女性として意識してる、マリン様は全く眼中に無いって陰口されてんの。
ハニートラップの講習受けといてこの体たらく。
こっちが吃驚だわ。」
アジスが私の袖をクイクイしてくる。
どうしたの?
「姉上、もうその辺で。
お二人が立ち直れません。」
「そうね。
どうせもう少しで思い知るでしょうし。」
アジスが泣きそうだしね。
「思い知るってどういう意味だ?」
ラグナが聞いてきたけど、私はそこまで親切じゃないよ。
「そのまんまの意味。後は自分達で考えてよ。
一つだけ言うと女を怒らせたら怖いわよ。」
よし、忠告はしたしもう用はないし帰ってご飯を食べよ。
動いてお腹すいたからビーフシチューだったら嬉しいな。
帰ろうとしたら肩をガシッと持たれてクルンと回れ右、目の前にカルゼのお顔が。
「俺とも話してくれ。」
え~、もう帰りたいんですけど~。
でも言える雰囲気じゃないんだよね。
目が虚ろになっててちょっと不気味。
♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪ ♪♪
読んで頂きありがとうございます
m(*_ _)m
次回予告、「一番の馬鹿は私だった!」
アーシアとカルゼが話し合い、アーシアは自分の屑さに気づきます。
タグの〈ヒーローが一途〉を〈婚約者が一途だった〉に変更しました。
読んで下さっている皆様にはタグ設定でご迷惑をお掛けしました。
お許しをーーー_|\○_
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