第291話 ゲーム進行NPC
2023/11/17 更新ミスで飛ばしていたこの話を追加
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エミリーに出来る限りこの辺りの負の面を見せない様に色々な所を回った。
カラオケ・ゲームセンターがある娯楽施設で遊んでいる者達の映像を撮ってもらったり、楽しく食事をしている光景を見せた。
だがエミリーが最もカメラを向けたのは……
「エミリーさん、そんなに飯田さんと松平さんを映してどうするつもりですか?」
「……よく見ろ内野。いつの間にか彼女、松野と原井さんペア、笹森と梅垣さんペアの映像も結構撮ってるぞ」
松野は原井に片思い中、そして笹森は梅垣に片思い中、だからちょくちょく気になる相手の方を見ているのだが、それを全てエミリーに撮られていた。
森田は相変わらずプレイヤー同士の相関図を作っているが、恋愛に結びつきそうなものは積極的にメモを取っていた。だから彼女が撮ったこのペアの写真に驚いていた。
「俺が毎日観察し続けて察知した恋愛模様を、まさかこの数十分で見破り撮るとは……恐ろしいな彼女は」
「ええ。しかも的確に二人を映像のアングルに収めているし、恋愛察知能力だけでなく撮影技術の高さも分かりますね」
二人がエミリーの撮った映像を見ながらそんな話をしていると、内野は後ろからポンポンと肩を叩かれた。
降り返りそこにいたのは新島だった。
「ねえねえ、その人は誰?」
「ああ、この人は今度の魔物災害で覚醒者の力を得る予定の人。
なにやら覚醒者の印象を良くするために、微笑ましい映像を撮ったりして負のイメージを払拭しようとしてるみたいなんだ」
「あ~訓練現場だけを見せるとあまりの厳しさに負のイメージが付いちゃうもんね。
そうだ、今日の夜に皆でゲーム大会をやる予定だったしその光景も撮ってみようか」
「だな!ホテルのホールの大スクリーンでやるゲーム大会、絶対良い光景を取れそう!」
新島と内野は楽し気にそんな話をする。
二人は話に夢中で気が付かないが、エミリーは二人の事をスマホで撮影していた。
しばらくして、また3人での行動に移った。
と言っても1階以外は普通の部屋が連なっているだけなので、上層階については特に映すものはない。
7階建てのホテルで、内野と森田は6階で案内をやめようとした。
エミリーは7階まで見たい様だが、さっきまで快く案内していた内野と森田はその提案に難色を示す。
「いや、特に上には何もないから行かなくて良いだろ。2階~6階と同じ様に部屋があるだけだから」
内野がそう言ったのを森田が翻訳し、エミリーが上に行かない様に説得しようとする。
別に二人は特に嘘は言っていない。ここから上の階も6階と変わらず沢山部屋があるだけだ。
だが内野と森田はどうしても
そしてエミリーはそれを感じ取り、口を開く。
「このウエにマモノでもいるの?」
「「っ!喋れたのか!?」」
エミリーは突然日本語を喋り始めた。
多少片言ではあるが十分聞き取れる日本語で、エミリーが日本語を話せるのを隠していた事に二人は驚く。
だが「どうして喋れない嘘をついていたの?」という疑問を投げかける前に、彼女から内野達に質問をする。
「フタリトモ、ナニかをオそれてる。コワがってる。そんなカンじがする。
マモノ?マモノをカってるの?」
「…そう、そんな感じ」
「それウソ。ワタシすごいキになる、イく」
エミリーはそう言った途端に階段を駆け上がった。
内野はこの7階にはある理由があって行きたくなかったので、走りだした途端に彼女の手を掴む。
二人不意を付いて走り出した彼女だったが、流石の彼女もプレイヤーの反射神経と動きからは逃れられない。
だがその直後、彼女の腕がポロッと取れた。彼女の左腕は義手だったのだ。
その義手は本物の肌と見た目の相違がなく、さっきからずっと彼女は薄着の姿だったのに、左手が義手だと二人とも見破れなかったほどに精巧だった。
突然腕が外れて内野と森田が動揺しているうちに、彼女は階段を駆け上がっていく。
二人も仕方ないとすぐに彼女を追い駆けた。
階段を上がるスピードも内野の方が彼女より早いので、彼女が7階に足を踏み入れた瞬間には再び彼女の肩を掴めた。
しかしその瞬間、廊下の角から人が現れた。
普通の成人男性であり、エミリーとぶつかりそうになると「おっと」と軽く驚く。だがその後、男は軽く会釈して部屋へと戻っていった。
ごく普通の見た目の男性が普通に挨拶しただけで、そこには何も異常はない。
その他の部屋にも何か異常があるとは思えない。
エミリーはキョロキョロとフロアを見た後、二人の方に降り返る。
「コワいのナい。どゆコト」
「…上階に嫌われ者がいるってだけですよ。さ、早く下に降りましょ」
内野と森田は彼女をそう言いくるめ、共に3人で下の階へと向かった。
エミリーは腑に落ちない顔をしているが、とにかく二人はこの階から早く離れたかった。
二人の恐れの原因になるものが現れたのは前回のクエスト終了後。
ホテルの一室で内野・西園寺・川崎の3人で話している時に、西園寺のスマホに通話がかかってきた。
覚醒者の宿舎本部にいる足立からの連絡だ。
西園寺はその通話に出るも、その内容を聞き声では平然を装っていたが顔をしかめていた。
通話終了後、何の話だったのか語られる。
「…いつも通り出たみたい、
「っ!向こうに魔物が!?」
「あ~違う違う、クエストで死んだはずの人間が謎に現実世界で生きてるあの現象の事。僕らの所じゃ死人って呼んでたんだ」
西園寺の死人呼びに内野は納得した。
内野にとって一番馴染み深いのは新島の死人だった。彼女の死によって死人の存在を知ったからである。
彼女曰く、自分が死んでいる間に偽物の自分が普通に生活しており、『蘇生石』で魂が復活するとその偽物の身体に意識が戻るという。
川崎はその報告を聞いた後、顎に手をあてて何かを考え始める。そしてぽつりと話し出す。
「死人はプレイヤーと極力関わらず元の生活を送ろうとする。
その者の記憶を持ってはいるが、クエスト関連の事は知らないと白を切る。
最初はクエストの記憶を無くなって魂が復活したのかと思ったが、質問責めすると黙り出すんだ。
恐らく、復活したプレイヤーが復活後に何不自由なく動ける様にするために黒幕に作られた偽物だ」
「ま、あれのお陰で数か月死んでいた人を生き返らせても、その人は直ぐに普通の生活に戻れたりしたし悪いモノではないよね。
でも不気味さはある。自分と同じ顔と記憶を持っている偽物がいるなんて気色が悪いよ」
川崎と西園寺が口々にそう言うので、内野はこれまで踏み入って聞いたことがないこの死人について尋ねる。
「ちなみにこの死人に拷問とかかけてみました?」
「おっと、結構エグイ事聞いて来るね」
「気持ちが悪い話だからあまり公にしてほしくはないが……ある。だが結果は駄目だった。
奴らはクエスト関連の話になると途端に黙り込み、いくら殴ろうともピクリとも動かない。瀕死になるまで全身を拷問しても身体が自動再生するし、殺してみてもすぐにまた現れる」
川崎の経験談を聞いて内野は一気にその死人が恐ろしく思えた。
話を聞く限り、まるでゲームのNPCの様な奴でそんなのが現実で普通に生活していると思うと背筋がゾワっとした。
魔物に対する恐怖とはまた別のベクトルの恐怖だ。
内野の顔が暗くなると、西園寺はそこである事を思い立ち提案してくる。
「帰ったら死人の様子見ない?」
「いや、その死人の中に顔見知りの人がいたら気分が悪いしやめとく……」
「と言ってもね、今いつものホテルにその死人が泊ってるんだよ。
さっき足立さんから「なんか数十人こっちに帰って来てるよ!?」って電話が来て、メンバーを聞いてみたら全員今回のクエストで死んだプレイヤー達だった。
それで、紛れられるとややこしいから彼らを上階に隔離しようと思うんだ。その為にカウンセラーと称して怪しい人を一人一人呼び出して死人か確認しないといけないんだよね~」
「なるほど……それじゃあ誰かしらは死人と話さないと駄目なのか」
「そうそう。それで今後の為にも死人に慣れる……というか死人について知っておいた方が良いと思うんだ。だから帰ったら一緒に死人に接触しよう」
「俺はいいけど、西園寺は忙しいしそんな事やってる暇ないだろ?
だって明日も今回の魔物災害関連で会見に……」
西園寺は日本防衛覚醒者隊のリーダー、そしてトップアイドルでもある。
彼の多忙さは考えるだけで血の気が引くほどだ。
だが西園寺は親指を立てて笑う。
「大丈夫大丈夫、僕要領良いから!そんな時間直ぐに作れるよ」
「だ、大丈夫…かぁ?」
多忙な彼の事が心配になり、つい疑問形の聞き方になってしまった。
だが彼は変わらず笑顔であった。
翌日。
いつものホテルへ帰宅後、一室に死人を呼び出した。
呼び出したのは今回の使徒に殺された中堅レベルだった男性で、内野と西園寺がいる部屋に男性が入ってくる。
「どうもどうも。お二人が私を呼ぶなんて何かあったんですか?」
彼は陽気な生活の男性で、笑顔でそう言いながら入室してくる。
一見ごく普通の人間で、やはり死人の見分けはぱっと見じゃ出来ないと改めて感じた。
だがここで一つのワードを出してみる。
「ねぇ、クエストについてどう思う?」
「……」
西園寺がクエストというワードを口にすると、途端に男性は真顔に変わる。
さっきの笑顔は何処へやら、彼の顔からは一切の感情が消えた。
西園寺はそれを指差して内野の方を見る。
「ほら、これこれ。
クエスト関連の話になると直ぐにこの状態になるんだよ」
「気味が悪いな…ほんと何の為にいるんだよ……」
「蘇生石で復活された時にその者が直ぐに戦線に復活出来るようにするのが私達の仕事。
私達はゲームを円滑に行う為にいるNPCだと思ってください。それ以上の事もそれ以下の事は一切しません」
内野がそう呟くと、なんとここで真顔の死人が口を開いた。
西園寺と川崎の話だとこの状態じゃ一切何も語らないはずだったが、なんと今回はあっさりと喋り始めた。
突然話し出したので二人はびっくりしながらも、西園寺は死人に話す意思があるうちに質問を投げかける。
「……どうして今になって話すつもりになったの?」
「プレイヤーの皆さんがこうして共同生活を送る様になったからです。
本来、一般人と交流する際は出来るだけ交流関係が変わらない様に現状維持をするのが役目でした。だがこちらが死人だと分かっているプレイヤーの方々がこうも沢山周りにいると、その役目ももう必要なくなります。
今はもう国が管理する覚醒者の死亡リストにさえ名前が載らなければ、蘇生石復活後に即前線入りが可能ですのでね。
それにクエストが進行する以上、これからも死人は増え続ける事でしょう。
なのでその説明を私達の口からしておいた方が良いかと思いそうしました」
死人は表情を一切変えずに淡々と述べる。
この不気味さにもある程度慣れてきたので、内野からも質問をする。
「その身体に魂や意思はあるのか?」
「ありませんよ。身体の記憶から最適な返答を反射的に行っているだけです」
「……じゃあこれからはどうするつもりだ?」
「どうもしません。
既に日本防衛覚醒者隊の一員として所属しているので、クエストには行かずにここに居続けます。本人が生き返った時に再び戦える様に。
なので私達は貴方の命令には極力従います。
私達とマスターはプレイヤーの味方ですから」
マスターというのは黒幕の事とだろうとなんとなく分かった。
ただ内野と西園寺の死人への警戒は消えず、二人共それが顔に現れていた。すると死人はまたしても自ら口を開く。
「貴方達を勝利に導くマスター。そしてプレイヤーが円滑に戦線復帰できる様にサポートする私達。
何も警戒する事などありません私達はただゲームの進行をスムーズにするための存在ですから」
「この嫌悪感はお前らが敵とか味方とかそういう問題じゃなくてな、偽物って所が駄目なんだよ。
お前は人じゃないから分からないかもしれないが、自分の記憶を持った偽物がいるとかハッキリ言って気持ちが悪い」
「生き返れない大罪の貴方達には私達は現れませんよ」
「……偽物の仲間がいるのが嫌だって事だ」
「そうですか。ともかく私達は与えられた使命を遂行します、私達の待遇はそちらでどう決めてもらっても構いません」
死人はそう言って席を立つと、途端にさっきまでの男性の性格に戻る。
「じゃ、じゃあこれで私は帰りますね!お二人共、私達の分まで頑張って下さい!」
明るい顔でそう言い退出した。
さっきまでの無表情との差が凄まじく、死人に対する嫌悪感は増すばかり。
そしてその後他のプレイヤーも含めて話し合った結果、死人を7階に隔離する事が決定した。
こうして死人のみが泊っている7階は、プレイヤーが寄り付かない階になった。
だがそんな話をエミリーにする事も出来ない。
だから彼女を遠ざける事ぐらいしか二人は出来なかった。
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