第292話 懐かしき友との日々
一通りホテル内の探索を終え、最初にエミリーに合ったホール前にまで戻ってきた。2時間程で全て周り終えられた。
16時越えだが夏なのでまだまだ日は明るく、エミリーは今度は訓練場を見たいと言う。
訓練場には他の外国人達もいるのでそっちに合流しようと内野と森田が話していると、「お~い!エミリーさん~!」と何処からともなく足立の声がする。
声の方向を見ると、テレビ局のカメラやマイクを担いでいる外国人数人とスーツを来ている足立が走ってきていた。
彼らは全員エミリーの名を呼んでおり、疲れ果てている様子だ。
先頭にいる足立は息をぜぇぜぇと切らしながらエミリーに話しかける。
「良かった……内野君達と一緒にいたんだね。
さあエミリーさん、大人しく会見の撮影の方に行きましょう」
「イヤ!」
「嫌じゃなくて、エミリーさんの担当は覚醒者じゃなくて国会の中継と会見じゃないですか。
勝手に居なくなるのは勘弁して下さいよ~後で起こられるの僕なんですから」
足立の口から出た彼女のプロフィールと、エミリー自身が語ったプロフィールに相違が生じ、内野と森田の頭には?マークが浮かぶ。
その様子を見て足立は彼女の紹介をする。
「ああ、エミリーさんはカナダのテレビ局のリポーターさんね。
これからしばらく日本に滞在して魔物災害関連の報道をするんだ。でも数時間前に覚醒者の宿舎を見たいって言ってから勝手に動いちゃって、ずっと探してたんだ」
エミリーは罰が悪そうな顔をしているので、足立の言葉の方が本当であると二人は分った。だがそうなると最初にエミリーが言ったことが嘘になる。
「……エミリーさん、覚醒者の力を得るっていうのも、ギフテッドっていうのも嘘だったんですか?」
「……ギフトのキキマチガイだと思うヨ。
コウホウカツドウ、ワタシにマカせて。
カイガイでのヒョウカがアゲアゲになる、それがワタシからのギフト」
「なるほど、嘘をついていたと」
内野達に詰めかけられ、エミリーはとうとう頭を下げた。
そして今の少しの話で足立達もエミリーが何をしていたのか察し、頭を抱えた。
エミリーは同テレビ局の仲間達に引っ張り連れられていった。
足立は遠ざかる彼女を見てため息をつく。
「ふぅ……とりあえずこれで怒られなくて済むよ。
あ、そうそう。ついでだからこの場で二人に言っちゃうけど、これからは海外からの目も増えるからね。
海外からの物資支援や人材支援が本格的に始まるのと同時に、君達に向けられる目も増える。
それに西園寺さんだけじゃなくて君達みたいな普通の覚醒者にも取材の申し込みが届くかもしれない。
まあ訓練が最優先だから嫌だったら全部断ってもいいんだけどね」
「取材…か。俺はともかく内野には沢山来そうだな」
「え、どうして?」
「魔物災害前からの有名人で、テレビにも少し映っただろ」
「ああ……そういえば名前も顔もバレてるんだった……」
ちょっとした有名人レベルには知名度があった事を思い出す。
今思うと学校での事件が及ぼした影響はかなり大きいなと、ここにきてあの時の事を思い返す。
(学校……最後に行ったのは一か月前だがもう懐かしく感じるな。
もう俺、授業を受ける事も無いのか……)
プレイヤーになる前は、自分は普通の大学に進学して普通の人生を歩むのだと思っていたので、時々今のこの状況が何だか不思議に感じられる事がある。
この非日常の生活に慣れていっている自分への違和感も拭えなかった。
その日の夕方、ホテルのホールでゲーム大会が開催された。
レースゲーム、格闘ゲーム、パーティゲーム、ボードゲームなど様々なジャンルのゲームで開催され、皆好きなジャンルのゲームを選択して遊んだ。
これは今日来た海外の覚醒者予備軍の者達との交流会でもあり、ホテルは今までに無いほど賑わう。
ある者達はガチ勝負、ある者達はワイワイと楽しんでいる。
ちなみに内野はガチ勝負側で、4人対戦のアクションゲームで他ガチ勢3人と対戦していた。
今このプレイはそこそこ大きなスクリーンに投影されており、観客は100人ほどいる。
対戦相手の一人目は暴食グループの『宮田愛駆』。
彼は大罪を除けば一番レベルが高く、驚異的な反射神経が彼の強さの秘訣である。そしてその反射神経をゲームでも使い見事動いていた。
二人目は傲慢グループで『小野寺心太』。
元々黒沼の仲間で赤仮面を被っていた者である。
彼はこのアクションゲームをかなりやり込んでいたので、その磨かれたテクニックで相手を翻弄する動きを魅せる。
そして最後の者は足立であった。
覚醒者をサポートする立場にいる彼であるが、これへの参加はこのホテルにいる者なら誰でも参加可能なので彼も参加していた。
宮田以外全員このゲームをそこそこプレイしていた者であるが、それにも関わらず宮田は善戦している。
最初は弱かったのに操作方法を覚えて以降、驚異的な反射神経で全ての攻撃をガードしカウンターを決めてくる。
彼が戦っている場面はまだあまり見た事ないが、彼がレベルトップの理由が良く分かる。
そんな彼に、隣でプレイしている内野が不満を溢す。
「宮田さん。流石にその反射神経イカレ過ぎてませんか?」
「魔物と戦う度に磨かれていってるから、これでもまだ発展途上だ。
悪いけど勝たせてもらうよ、涼川さんが俺を見てるから」
宮田はそう言うと攻めの姿勢に入り積極的に動く様になる。
全て愛する涼川に良い所を見せたいという理由の為。
だがそこで小野寺が心無い言葉をかける。
「涼川さん、さっき下着姿で708号室に入って行っていましたよ」
「っ!浮気!?
これではゲームなどしている場合ではない!」
宮田は早急にコントロールから手を放し、階段へとダッシュしていった。
小野寺も7階の死人階には行ってないので当然これは適当に付いた嘘だが、本人にとってはたとえ嘘でも確かめねばならない重要な事だったので、宮田は途中棄権した。
小野寺はどうやらこの勝負を本気で勝ちに来ているみたいで、顔はクエストの時以上に真剣だ。
足立はその小野寺の策略ぶりと顔に笑う。
「はは~小野寺君、さては賭けでもしてる感じ?
勝ったら何か貰えるとか」
「ええ。仲間同士で賭けが行われていましてね、俺に賭けてくれた薫森の為にも優勝を目指しています」
「ちなみに何を賭けてるの?」
「ほら、覚醒者も海外から来た彼らとコミュニケーションと取る為に、何人かは英語を勉強しないといけないじゃないですか。
それをしたくない俺の仲間達が賭けで勉強係を決めている所です」
「それはまた小金より重いものを賭けてるね~
でも別にそれ強制じゃないよ?
だって外国人さん達の方が日本語の勉強してくれてるし」
「…それを聞いて肩の荷が下りました」
小野寺はさっきまで切羽詰まった表情でプレイしていたが、足立のその言葉を聞いて途端に顔とプレイが緩む。
そして内野にあっけなく倒された。
遂に内野と足立の1対1となり、会場は大きな盛り上がりを見せる。
新島や工藤、その他の仲が良いメンバーからも声援が飛んで来ているし、外国人の面々が上手い事場を盛り上げてくれているので会場のテンションはピークに達する。
そんな中、内野は画面を食い入るように見て必死にプレイする。
それとは対照的に足立は内野の表情を見る余裕さえもある。
明らかに相手の方が余裕はあるが、力を抑えてくれているのか互角の勝負であり、見ている者達も飽きずに見てくれている。
「僕このゲームじゃ負けナシなのに、結構やるね内野君」
「本気で来てくださいよ。
じゃないと勝っても嬉しくないです」
「立場的にこの場を盛り上げなくちゃくちゃいけないからね、本気を出してほしいならもっと強くならなきゃな~」
内野に闘争心の火を付けたいのか、普段のほほんとした雰囲気の足立は煽ってくる。
内野もその煽りに乗せられて周囲の声が聞こえなくなるほど画面に集中する。
クエストで魔物と戦闘する時並みの集中力で画面に食らいつき指を高速で動かす。
すると途端に内野の動きが良くなり、足立は驚きながらもそれに合わせて本気を出していく。やはりいくら集中しようとも足立には敵わなそうにない。
そしてある程度会場が盛り上がった後に、足立はとうとう本気を出してきた。
まるで世界大会レベルのプレイヤーの動きを始め、内野は徐々に追い詰められていく。
周囲もそろそろ勝負あったかと、足立の勝ちを確信する者が大半になってくる。
そいて内野もこの動きにはついていけないと、潔く諦めていた。
(これは集中してどうにかなる相手じゃないな……無理だ)
完全に諦めゲーム内のキャラが次の攻撃で負ける状況になった。
だがその時、内野は気が付けばカウンターを発動しており足立のキャラを倒していた。
相手の攻撃と同時にガードを押すとカウンターは発動するが、内野は最後の方は全くガードボタンを意識出来ていなかった。
だからどうして自分がカウンターを決められていたのか分からなかった。
もはやコントローラーから指を離している感覚だったので内野自身何が起きたのか理解が追い付いていない。
そこで自分の指に目を向けると、ガードボタンに置いている指が『哀狼の指輪』が付いている左手の中指である事に気が付く。
内野はその指輪を見て確信した。
(お前……もしかして助けてくれたのか?
え、戦闘中でもないのに?クエストの時は特に何もしてくれなかったのに?)
まさかの黒狼のアシストで内野は勝利を収めた。だがこんな所でサポートするぐらいならクエストの時にもう少し何かしてくれと文句の言葉が頭の中を駆け巡る。
しかし周囲の者達はそんな内野の様子に気が付かず、歓声を上げる。
足立も自分のあの攻撃をカウンターで返されると思ってもみなかったので目を見開いて驚いていた。
だが直ぐに自分の負けを認めて内野に称賛の言葉を贈る。
「あれを防いだのこれまで沢山の人と戦ってきて君だけだよ……凄い、こりゃあ僕も負けてられないな」
「いや、あれは……」
「謙遜しなくて良いよ。最後は僕も本気だったしそれを君は打ち負かしたんだ。このゲームのレートトップである僕を倒したんだ、胸を張っていいよ。君は強い」
「……」
(黒狼……お前どうして今俺を助けたんだよ)
黒狼が何をしたいのか時々分からなくなる事がある。
内野がお風呂に入っている時に新島の事を考えていると『カノジョカラハナレルナ』と言って来たり、肉塊の魔物を強欲で呑み込もうとしたら『コレハ…ダメダ……』と言って来たり。
これらはクエスト関連のものだからまだ黒狼が動くのも分かるが、別にこれはただのゲーム大会であり娯楽だ。
黒狼が動く理由がさっぱり分からなかった。
結局その後も色々考えてみたが、黒狼が動いた理由は思い浮かばなかった。
頭を悩ませソファーに座る内野に、新島が話しかけてくる。
「どうしたの?
さっきあれだけ盛り上がったのにそんなに悩んで……緊張しちゃった?」
「いや、あれって実は黒狼が勝手に操作したから勝てたんだよ。俺の力じゃない。
……なんで俺を助けたのか不思議でならない。別に命が危ない状況でもないのに」
新島は平然と内野の隣に座ってきて、『哀狼の指輪』を眺める。そして新島は優しく指輪を撫でた。
何も言わずに新島は指輪を撫で続けるので、一体何をしているのかと内野は尋ねる。
「に、新島?何してるの?」
「なんか……懐かしい感じがして胸がポカポカするの。
知らない光景のはずなのに妙な懐かしさがあって……」
「それって最初の頃に言ってた黒狼に対して感じた懐かしさと一緒?
俺があのゲームをプレイしている光景を見て思ったの?」
「うん。絶対に初めての経験なのに不思議と懐かしい感じがする。
なんなんだろうねこれ。さっき進上さんと涼音ちゃんも私と同じ様に懐かしさを感じたって言ってたし……やっぱり『闇耐性』を持つ私達は誰か別の人の記憶の干渉を受けてるのかな?」
内野を除く同期三人。
新島・工藤・進上だけが感じる妙な懐かしさと、3人が共通してい所持している『闇耐性』。これらが無関係な訳が無いので、新島は『闇耐性』のせいで誰かの記憶の干渉を受けているのではないかと考察していた。
そうなると候補として上がるのは、内野の前に『強欲』を所持していたという前大罪の者だ。
候補と言っても彼ぐらいしか思い当たらないので、新島は完全に彼だけに絞って考えをまとめている。
「結局いくら考えようともその人が誰なのかも分からないしここで止まっちゃうんだけどね。
でも、どうしても知りたいんだ……この私達に共通して起こる違和感」
「俺も知りたいな。俺とも無関係な気もしないし」
「だよね。だからね私、これから運を100まで上げようと思う。
そしてそこで黒幕から話を聞いてみる」
「…………え」
内野は突然の新島の決意表明に驚き言葉を失った。
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