第303話 地中探検隊

2023/11/17 更新ミスで飛ばしていた291話を追加しました

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川崎は「同行者をつけると」言いながら空中から降りてくると、闇からナクビを召喚した。

ナクビは王国に身体を改造され生存特化の身体となった人語を話せる魔物である。

一見肌が青白いだけの人間で、違いと言えば小さな角が頭に2本生えている事ぐらい。人間とそう大差ない見た目である。

だが窒息もせず、ミンチになっても死なず、痛みを感じないという、人類とはかけ離れた生存能力を持っている生物だ。


川崎はナクビの頭だけを出すと、内野の肩にそれを乗せた。


「そいつと他の魔物を君に同行させよう。そいつらは闇に隠れる事が出来るから君の穴掘りの邪魔にはならないだろう。いざとなったら盾として使え」


「そ、それは助かるのですが……そもそも川崎さんはどうしてここに?」


「君が本体を見つけたと報告を受けて急いで飛んできた。

その後他の所でも発見したと報告は受けたが、既にここ近辺に来ていたから寄らせてもらった。

そしたら地下に潜ると言う面白し話を聞いてな、俺もそれに協力したくなっただけだ。

この現状を打破する方法は今の所思い浮かばず、本来なら救助活動などをするしか無い所だったが、君は自分に出来る事を見出してくれた。

ならば俺もそれに協力すべきだと思い、今君の安全の確保の為にナクビを渡させてもらった。投げられる盾として使ってやってくれ」


川崎は内野が地中に潜る事に賛成している様で、ナクビを盾として使用して良いと言ってくる。それに対してナクビは言い返そうとするも、自分に戦闘能力が無い事を思い出して、何も言えず言えず不機嫌そうに頬を膨らませる。

仕草は人間と何ら変わりない。


そして川崎は続いて内野の安全を確保する為の策を述べる。


「今から君の友人である松野君を連れて来る。

彼と君が『契りの指輪』で繋がっていれば、もしも君がピンチに陥った際に彼がここらで適当に『テレポート』を行うだけで君は地上に帰ってこれる。

言わば緊急脱出装置だ」


川崎の策になるほどと内野が頷いていると、平塚が疑問点をあげる。


「しかし地中となるとこのイヤホンの通信は届かぬし、深度によっては空気が足りなくなるのではないか?

内野君の緊急時の合図が地上にいる松野君が分からねばその作戦の決行は出来ぬぞ」


2点の問題点に対し、「その疑問があがるのは分かっていた」と言わんばかりに淡々と説明を行う


「『怠惰』を使用すればその問題も解決できます。

鎖の様に魔物の腕を出し繋ぎ、内野君に異常事態があったら腕を動かせという命令を出しておけば、多少時間の誤差はあるでしょうが地上へその信号が伝わります。

それに空気は『ウィンド』を使える魔物が居るので問題ありません。

平塚さんもご存じでしょうが、俺はスキルについて色々検証するのが大好きです。

なので真空状態の場所で『ウィンド』を使ってみるという検証で、スキルを発生させると風と共に空気も発生するというデータも取れています。そして実際にそれの空気で呼吸する事も可能だと分かっています」


「なるほど……

お主の研究の意味に疑問を持った事が何度もあったが、こうして今日役に立つとは思わなかった……無駄な事など無いのじゃな」


平塚は顎の白い髭を触りながら川崎に感心する。

川崎もこうして自分の趣味で行っている検証が役に立ち、嬉しそうに頭を掻いている。


こうして川崎が考えた策により内野が地中を探索する事が可能になった。

松野をこの場に呼びよせ『契りの指輪』をお互い装備した後に、内野は敵の根を掴み地中へと潜っていく準備を整える。


内野が敵の根を前にした所で川崎から最終確認が入る。


「君の肩の闇にはナクビと数匹の魔物が居る。

そこから腕の鎖を繋ぐから、肩とそこが分断されない様に気をつけてくれ。君の肩と離れたら信号を送る様に魔物達には命令してあるから探索打ち切りになる。

そしてこれはあくまで偵察だ、もしも敵に遭遇し少しでもマズいと判断したら撤退の為、肩の闇の魔物達に触れて命令を出すんだ」


「分かりました。少しでも情報を持って帰れる様に無理しない程度に頑張ります」


「頼んだ」

「儂らは他の所の援護に行かねばならないから見届けられないが、任せたぞ」

「さっき向こうで盗ってきたんだ。『光の玉』があるから要らないだろうが、念のため懐中電灯持って行っとけ」


川崎と話した後、平塚と松野がそう言う。

松野はここに来る道中で懐中電灯を持ってきた様だが、内野には2回目のクエストで購入した『光の玉』があるのであまり必要そうなはない。

だが念の為それを貰っておき、魔力探知付きの『鉄の兜』を被りながら内野は肩を回して軽く準備体操をする。


(ここからずっと窮屈な穴の中を進む事になるからな。汚くなるししんどいけど敵の本体を探る為だ。やってやる)


内野は覚悟を決めた。

『光の玉』を肩の闇から出ているナクビの手に持たせ、両手で穴を掘って行く。内野が両手で地面を掻くとアスファルトの上ですら砂場の様に真っ直ぐに下に穴が掘られる。内野の姿はあっという間に地上からは見えなくなった。


砂とは違いある程度強度があり、その上命綱があるので掘った穴はポッカリと開いたままだった。

松野は穴の近くで内野の姿が見えなくなっていく様子を見ており、友の姿が見えなくなった所で歯ぎしりをする。


「結局俺はテレポートでの離脱ぐらいしか手伝えないのか……『フルメタル』って身体が硬くなるスキルを手に入れたから盾として前に出る訓練もしたが、実践する機会が無いな……」


「友達と共に行動出来ず歯痒い気持ちは分かるが、適材適所という言葉がある通り君には君に出来る事がある。

君の場合は『テレポート』で素早い離脱など、サポート特化の方が良いかもしれないな。

戦況を見て即判断……それが出来れば君も内野君を救えるかもしれない」


「戦況を見極める……ですか。俺って皆と比べて実戦経験が無いのでその判断が難しいですね」


「俺や田村、それに西園寺がいれば撤退の判断などはこっちで下す。今は君はそれに従っていればいいさ」


川崎と松野というあまり見ない二人の会話。

川崎は彼の能力からただ普通にアドバイスをしただけだが、松野にとってはそれ以上に大きなものだった。

なにせ大罪最強からの言葉だ、胸に刺さらないわけがなかった。


(……自分で判断…か、自分で道を決めるってのは難しいな。

でもいつかは俺も川崎さんみたいに、勇太みたいにそれが出来る様にならねえとな。じゃないと離されちまう)


松野は心の中でそう決意を決めながら、穴の奥の闇を見続けた。





50mぐらい掘った所で辿った根に変化が訪れた。

さっきまで半径2㎝ぐらいの太さのツルだったが、次第に本格的な根になり始めたのだ。

理科の授業で習ったひげ根というもの根に似ており、更に掘り進んでみると根の壁にぶつかった。


ひょろひょろと細いひげ根が地面に壁を作っているかのようだ。

そしてそれらの根が広がっているからか、内野が多少強引に穴を掘っても穴が崩れる事はなかった。ひげ根ごと土を掻き分けて穴を掘っていく。


その才中でナクビが肩の闇から頭を出してきてヒソヒソと話しかけてくる


「この根の壁……なんか怪しくないか?

こっからは警戒しながら掘ろうぜ」


「だな」


「ギャギャ!」


内野はナクビと話していたはずだった。

だが帰ってきた返答は変な鳴き声で、内野は肩に目を向ける。

するとナクビの隣からゴブリンも頭を出しており、ご機嫌そうに鳴いていた。

緑色の肌という特徴はどのゴブリンも同じだが、その個体は老体で薄っすらと生えている髪が赤い。

その特徴から、その魔物が川崎が大切にしているゴブリンだと内野は分かった。ハンバーグが好きという特徴から親近感を抱き内野も好きな魔物でもある。(119話)


突然騒ぎ出したゴブリンに目をむけ、内野は掘る手を止める。


「お前……どうして急に騒ぎ出したんだ?」


「ギャギャギャ!」


「何言ってるか分からん……ナクビ、翻訳お願い」


「俺日本語しか知らんから無理だ」


突然テンションが高ぶるゴブリンが何を思っているのかは分からないが、内野は作業を再開する。

手で根のを掻き分け更に下へ下へと進んで行く。


そこから20数メートルほど掘って行ったが、ずっとひげ根はびっしりと詰まっており地面が硬くなっていた。そしてある所でびっしりと地に詰まっていたひげ根が、再びさっきまでのツルと同じ太さになってきた。

そしてその途端に内野の『穴掘り』スキルでツルと根を掘れなくなった。


この『穴掘り』スキルは生き物の身体以外全てを掘る事が出来る。人の体でも死体であれば砂場の様に穴を掘り中を抉り出す事が可能。

つまり掘れなくなったという事は……


「敵の身体の一部……ここから先の根は全て生きている敵の身体の一部って事だ」


「んじゃあ超警戒しないと駄目だな。ゴブリン、お口チャックな」


「ギャ……」


ゴブリンはナクビの言葉を理解して口を閉じて小さく頷く。

そんなゴブリンの姿に、少しだけ犬や猫みたいにペットみたいな可愛さを感じた。

ただ今はそんな事を考えている場合ではないので、内野もそこから先は慎重に掘り進んでいった。

根が次第に太くなっていくので出来るだけそれに触れない様に進む。


そして遂に、内野は大きな空洞にまで辿り着いた。

その空洞は東京ドーム丸々入り込みそうなぐらい広く、壁には太い植物の茎やツルが張り巡らされていた。

白色の光を発生する謎の植物がドームの中央にあってその空間全体を照らしており、光の玉が無くても内野達はそのドームを一望する事が出来るぐらい明るかった。

幻想的で現実離れしたその光景に、内野はこの世界が本当に現世なのか疑う。


「な、なんだここ……本当に現世か?

こんな広い空間が地下にあるわけが……」


「このドームの外壁を作ってる植物から見るに、ここにボスらしきやつがいるのは確実っぽいな。

どうする、ここで一旦引くのも手だと思うが」


「それもそうだが、相手の正体をまだ見れていないからな。

戻るのはここにボスがいる確証を得られてからでも十分なはずだ」


内野は前進の判断をし、周囲を警戒しながら穴から飛び出してその空洞の地面へと降り立つ。

肩からはまだ命綱代わりの魔物の腕が連なっており、逃げようと思えばいつでも逃げられるので内野の気は楽だった。


魔物もおらず、襲ってくる相手もいない。そして魔力の反応も無い。

そんな場所なので内野の歩みはどんどん早くなっていく。

地面は木の太い根が連なっている様な動きにくい足場、内野はジャンプでそれを飛び越えドームの中央へと向かう。

見たところこの場には赤黒い実は無いが、当たればステータス関係無く暴走してしまうので警戒は緩めない。


ドーム中央には大木の切り株の様な台座があり、その上に眩く白色の光を放っている球体があった。球体の大きさは100円玉の上に乗せて納まるぐらいのサイズでとてつもなく小さい。

だがよく見るとその球体は、2回目の防衛クエストで戦った嫉妬の使徒の核となっていた白黒の実であった。

相違と言えばサイズと、発光の有無、そしてわずかに凹んでいるという事だ。


内野はそれを見た瞬間、これが相手本体の核だと認知して『黒曜の剣』でそれを破壊しようとしていた。

相手の核だと認知してわずか数コンマの反応速度、内野の刃はその核を突き刺さるはずだった。


だが内野が突き刺すのと同じ速さで台座がぐにゃりと柔らかくなり、核に与えた攻撃の衝撃が相殺されてしまった。そして核はそのまま柔らかくなった台座の中へと消えていこうとする。

内野は核を逃がさまいとギリギリの所でその核をキャッチするも、腕が台座に埋まってしまった。


そして台座が柔らかくなったのと同時に、まるで警報装置が発生したかのように壁を形成していた周囲の植物がざわめき始めた。

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