第301話 幸せ崩壊の秒読み

内野と工藤は時間になった後、二人共顔を見合わせず下へと降りる。

ただ二人とも相手の顔が赤くなっていた事だけは視界の端で視認できた。


下に降りて市民の避難誘導へと移ると工藤は明るいヒーロー状態に戻り、さっきまでの照れなど一切感じさせない態度になる。


しばらく内野と工藤が避難誘導していると、内野のスマホに川崎から通話がかかる。


「今から相手の頭を叩く。君も同行してくれ」


開口一番にそう言われたが、内野は相手の頭だとかの存在を知らず、今の状況すらも分かっていないので詳細の情報を尋ねる。


「他にも召集を掛けねばならないからあまり時間は取れないが、端的に言えばこの騒動の元凶を叩く。

ボスの任意のタイミングで一定の範囲内にある実を爆発可能という事しか分からず詳しい場所は判明していないが、今ドローンで捜索中だ。

君にもこっち側に来てもらいたい」


「分かりました」


「もう戦闘したから分かっているだろうが、ツルを纏っている人間の身体にも赤黒い実はある。いつ爆破するかは分からないから暴走者にはあまり接近するなよ。

爆発範囲はほんの小さいものだという報告があるから剣での攻撃なら大丈夫だろうが、殴りなどは無しだ」


「了解しました」

(さっきまで殴りでも殺してた……そうだ、あの実も爆発していた可能性があるんだよな。

危ない危ない、ボスとやらがタイミングを計れてたら終わってたかもしれない)


内野は川崎から招集をかけられたので、工藤にその旨を伝えて分かれる事になった。

その時に両親から声をかけられる


「勇太……気を付けてね…」

「む、無理はするんじゃないぞ」


二人は今、息子を息子としてしっかり見れていた。

他の者達は自分を救ってくれた二人を英雄視しているが、二人は内野を我が子として見ている。

内野はそれが嬉しかった、あんな姿を見せて尚自分の見る目を変えずにいてくれた両親に感謝した。


「…いってくるよ」


内野は喜びを噛みしめながら見送る二人に手を振り、その場を後にした。



実はさっきの休憩時間を挟む前までは、二人はそんな純粋な気持ちで内野を見る事が出来ていなかった。

我が子として見ているし、皆と同じように英雄視をもするし、畏怖もしていた。二人はそんなぐちゃぐちゃな感情に振り回されていた。

だが工藤と共に戻ってきた時、その顔は普段家で見ていた我が子の顔そのままであった。

ヒーローでも、覚醒者でも、殺人者でも無い、ただの高校生の顔の息子であった。

両親はその変化を工藤のお陰だと考える。


「……上で何があったのか分からないけど、工藤ちゃんに感謝しなくちゃね」


「ああ。お陰で俺達も勇太を息子として見送れたしな……」


_________________

今日松平と飯田は、千葉に住む飯田の両親に挨拶をし、小さな遊園地で遊ぶ予定だった。

昼食を食べながら話していると松平は将来義父母になる二人との仲も深まり、挨拶は成功した。

これから遊園地で二人は一緒に回り、夜までデートをして過ごす。

そんな幸せな日になる予定だった。



だが遊園地で賑わっているのは楽し気な声ではなくで悲鳴であった。

暴走した人間があちこちに現れ人を殺し、その場に居合わせた松平と飯田は彼らを殺して回る。

松平は弓を取り出し頭を射抜き、飯田は剣で頭を刎ねる。

相手によっては身体にツルを纏っておりツルを纏っている者達はプレイヤー並みの力を持っていた。なので殺すのに苦労した。

そしてそのせいで被害が拡大した。


暴走者がコースターの柱を破壊したせいで上空10メートルの所にあった大きなコース全体が転倒し大量の死者と負傷者が出た。

さっきまで松平と飯田が乗っていたコースターだ。


さっき乗ったメリーゴーランドももう回ってない。

さっき買い食いしていた店も、もう一つもやっていない。

喜々として園内に響いていたコースターからの悲鳴の声ももう聞こえない。


たったの10分間でその場は地獄と化した。

クエストの時とは違く二人は心構えが出来ていなかった。クエストがある日を知っているプレイヤーは、クエスト以外の日は平和であると思い込んでいた。

今日は平和な日、幸せな日になると思っていた。


二人は戦いながらも、これがこれまで一般市民達の気持ちなのかと痛感した。



遊園地内にいる暴走者を全て殺し終えた二人は、ずっと動き回っていたので肩で息をしている。

園内の騒ぎは一時収まったので、息を整えながらも話をしていた。


「ねぇ愛奈……幸せな日って、こんな突然なくなっちゃうんだ……」


「……心の準備って重要なんだなって分かった。

だから今、凄い胸が痛いよ……」


松平愛奈は飯田武道と出掛ける今日と言う日を楽しみにしていた、それがこんな惨状になりあまつさえ人間を射殺す事になり、『メンタルヒール』で精神を安定させねば心が壊れてしまいそうだった。


数分前までの遊園地の姿を思い出すと心臓が痛くなり、彼女は胸を抑える。

飯田は彼女の肩を支えて寄り添う。


「……俺さ、今日初めて大衆の気持ちになれたかもしれない」


「え…」


「1ターン目のクエストの時はリーダーとして上に立っていた。

でも内野君達の呼びかけのお陰で俺はその任から逃れられて、自分の好きな様に生きられる様になった。

そして今は西園寺君がリーダーを務めて俺達を導いてくれる。普通のプレイヤーって立場になれた。

それ以降はもう自分のやりたい事に正直になれた。だから君と結ばれた」


飯田の言葉を松平は黙って聞く。愛している彼の本意の言葉を一言一句聞き逃さない為に胸の痛みを抑えて。


「初めて思えたかもしれない。知らない誰かの命・生活を救いたいって。

今までの義務感とは違って、俺達と同じ目に合う人を減らしたいって心の底から思えた。

だから……進もう。君となら行ける気がするから」


「武道さん……」


今も他の場所で悲鳴が響いている。この遊園地の園内ではないがまだ近くに襲われている者がいる。

飯田は彼らを助けたいと思い、その為に松平に協力をお願いをする。


彼女も同じ事を想っていたので断るわけなど無い。それに昔と違い自分で誰かを救う事を選択した彼の事を隣で応援したくなった。


「もちろん私も一緒に行くよ。隣で一緒にね」


「隣ってのも嬉しいけど、出来れば俺の後ろにいてね。

この盾で絶対に守り切ってあげるからさ」


「うん……//」


イチャイチャは田村の車の中から相変わらず続いているがそれも仕方ない。

想いを共有し合い更に愛が深まった二人に愛し合うなというのは酷だろうから。


だがその幸せの裏で、彼女を絶望に導く不幸も起きていた。

さっき全身にツルを纏っている暴走者を殺した時に、その身体についていた赤黒い実が衝撃で飯田のポケットの中に飛び散り入ってしまっていたのだ。


今は飯田は全身に赤色の鎧を着用しているので、ポッケなどには当然触れない。だからその実の存在に気が付かない。


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最近絵の練習をしているのですが、その時に小説のキャラを書いてみたので投稿します。正直まだ頭の中でキャラの外見が決まっていないんですよね~

キャラをもっと可愛く、カッコよく書ける様になりたい


↓題名:内野がミスコン応募を始めた。カクヨムの場合は近況ノートにあります

https://kakuyomu.jp/my/news/16817330666690541598

https://kakuyomu.jp/my/news/16817330666690573815

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