第294話 プラスへの自信
内野の表情が曇るも、ここに居られる時間が10分しかないので黒幕は早口で説明を続ける。
「じゃあ『強欲』入手の流れも分かっただろうし、次は君の力の制限について話そう。
結論から言えば、魔物を呑み込まなければスキルの使用はいくらでもOKだ。僕が直せるからね。原理を簡単に言えば、魔物という異物を呑むとパイプに詰まっちゃってパイプが破裂するって感じ。
もしもパイプが破裂したらこれまでとは比べものにならないくらいの闇が君の身体から溢れ出るだろう。普段は残っている魔力によって穴の大きさは調整されてたから、ある程度闇の量は調整出来た。
でも破裂したら魔力量やスキルのレベル関係なく闇が君の身体から出現して、この世の全ての生き物を闇に包み込む事にだろう」
「使い過ぎたら世界を滅びるって……そんな力を易々と渡して良いのかよ……
てかそれじゃあ俺はもう一生魔物を呑めないのか?ステータスの上昇はこれが限界なのか?」
「パイプを広くする方法があるから大丈夫。
これからはSPをスキルレベル・MP・運以外の通常ステータスに割り振るんだ」
物理攻撃・物理防御・魔法力・魔法防御・敏捷性を上げろと言われるが、それには一つ問題があった。
それは内野のがそれらのステータスにSPを使っても1しか上昇しない事だ。
それは他の人に比べて3倍不効率、なので全部『強欲』での上昇に任せて今までそれらのステータスはSPで上げてこなかった。
だが黒幕はそれらのステータスを上げねばならないと口を鋭くして言う。
「これはテレビゲームじゃないからね。
ゲームみたいにステータスの数値があるから力を発揮できるというわけじゃなくて、人の能力をステータスという数値として示しているだけだ。
言ってる意味分かるかな?」
「ステータスは既に存在している力に数値を付けただけって事か」
「そうそう。馬鹿な人は「水は0度で凍って、100度で沸騰するんだぜ!こんなピッタリ良い感じに数字が揃うなんてすごいよな」って思うかもしれないけど、あれって人間が水が凍る温度と沸騰する温度を基準に数値を定めただけでしょ。
それと同じ様に僕はとある生き物の力を基準にステータスという値を定めただけ。
覚醒者がステータスボード無しなのに強くなっているのも、力自体はプレイヤーになる前からあるからだ。ステータスとして可視化はされないが、魔物を殺した者の魂に与えられる力だ。
それは君も同じ。自分のステータスをSPで強化する事で君自身が強くなるんだ。それに従ってパイプも広くなり、『強欲』でという後付けで与えられる力への容量も増えるってわけさ」
黒幕の言葉を聞いて今後のステータス強化の方針が決まった。
今後はスキル強化や最大魔力の強化よりも優先的にステータスを上げるという方針に。
魔物を呑んだ時に既に所持しているスキルなら勝手にスキルレベルも上昇するし、魔物を呑める量が増えるという事はスキルレベルアップの機会も増えるという事になるので、内野は迷いなくその判断をした。
内野の即判断を見て黒幕は少し上機嫌になる。
「いいね。馬鹿じゃない人と話すのはやっぱり楽しいよ
それで、まだ僕に聞きたい事はあるはずだよね。もう6分しか時間が無いから。さっさと質問した方が良いんじゃない?」
「そ、そうだった。
じゃあ川崎さんからの質問だ。俺らが相手している異世界って何個だ?
王国とやらに身体を改造させられた奴が言っていたんだ、世界は複数あるって」
「彼の言う通り君達が相手している世界は一つじゃない、全部で7つ。
1ターン目に君ら7グループが行っていた異世界は全部異なる世界で、それぞれの世界に一人ずつ王がいる。
憤怒グループが行った異世界に闇があるのも、怠惰グループの異世界に人型の魔物が多いのも、全部別の世界だからって事ね。
1対7で不公平に思えるかもしれないけど我慢して。その分ショップがあったり不公平が無くなる様にこっちも努力してるからさ」
川崎が立てていた予想が的中したので、内野は次の質問へをする。
テンポよく聞いていかねばならないから話への反応は最小限に抑える。
「魔王がいるという王国は俺達大罪の味方か?それとも王の味方か?」
「『大罪VS王』ってのがこのクエストのテーマだけど、魔王とはプレイヤーが倒すべきその王とは別で、第三勢力だと思っていいよ。
つまり王国という文明がある世界を担当する大罪は使徒と王、そして第三勢力の王国を敵にする事になる。王と王国が別勢力ってめちゃくちゃ分かりにくいけどね!
ま、塗本から色々聞いてるみたいだし川崎君達の怠惰グループが担当する世界がそうだってもう分かってるよね。」
「まあな。それじゃあ次、使徒と王の関係ってなんだ?
塗本は王と直接会った事は無かったが、黒狼とサボテンの使徒はアイテムのテキスト的に交流があったみたいだ。
だがその内容が……」
黒狼と討伐した時に買える様になったアイテムのテキスト文は『主を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼の魂。これは彼の選んだ道である』だった。
だがサボテンの使徒を倒して買えるようになったアイテムのテキスト文は『主を失い守るべきものを失った悲しきサボテン。これが彼の本来の姿』であった。
同じ王が主なのに、双方の情報を合わせると生存しているのか死んでいるのか分からない状態になるのだ。
なので王が一人死んでいるのではないかという希望も含めてこの質問をした。
「使徒を誰にするか選択するのは相手、この前ここで話したもう一人の黒幕さんね。だから使徒と王の関係がどうとかってのはあまり関係ない情報だ。だから気にしないで。
そして君が聞きたいのは、黒狼達の主が死んでいるかどうかって事だろ?
僕からは死んでは無いとしか言えないね、それ以上は何も語れないから諦めて」
残念ながら7人の王は誰も欠けていない様だった。
それを聞いて少し怪訝な顔になるも、残り時間は少ないのでさっさと別の質問に移る。
「プレイヤーは全員何かしらスキルを持っているが、覚醒者にはスキルが与えられないのか?
もしも与えられないなら、どうして加藤という覚醒者だけスキルを持っている」
「川崎君が前に予想していた通り、プレイヤーとしてロビーに転移した時点でスキルは与えられるんだ。だから覚醒者はスキルを使う事は出来ない。
……僕はここまでしか言えない、加藤君についてはそっちで考えて答えを出してね」
結局川崎の予想の答え合わせしか出来ず、加藤というスキル持ちの特異的な覚醒者の事は分からなかった。
黒幕が答えられる事に限界があるのは良く分かったが、情報をまとめている場合は無いのでとにかく今はひたすら質問をする。
続いて内野は質問をしようとするも、ここで黒幕から待ったが入る。
「そうそう。そう言えばここに来たら一つスキルを進化させるか、一つ望みのアイテムを作ってあげないといけないんだった。
いや~君には伝えないといけない事が他にあったからすっかり忘れてたよ。
で、もう1分しか無いけど何にするか決めてる?時間切れになったら何も貰えず終わりだよ」
「っ!?そうだった!
俺の望みはアイテムだ。ターゲットとして殺されたプレイヤーは通常生き返れないが、そのプレイヤーすらも生き返らせる事が出来るアイテムが欲しい。
欲を言うならプレイヤー以外すらも生き返らせる事が出来るアイテムでもあれば良いのだが……それは無理なんだよな、『超蘇生石』ってやつじゃ」
内野がこのアイテムを望んだのには理由がある。
それは以前相手の黒幕から掛けられた「最初に絶望を味わうのはお前だ」という言葉だ。
それを受けて内野は自分が絶望する未来を想像してみた。その想像する未来が相手の狙いだと考えられるからだ。
「俺が絶望する未来って聞いて思い浮かんだのは……クエストで父ちゃん母ちゃんとか正樹……そして新島達が死ぬ未来だ。
ターゲットに選ばれていたから新島達も生き返れず絶望する。そんな絶望に打ちのめされる俺の姿が浮かんだ」
「それで『超蘇生石』ね。
残念ながらプレイヤー以外の蘇生は無理だけど、それでも良ければあげるよ。
でも君の大切な人は沢山いるだろ?ターゲットとして彼らが死ぬ度にそれを使うの?
運100上げてこれを手に入れるって、正直コスパ悪いと思うけど」
「西園寺ならここで貰ったアイテムも複製出来る。だからこれを俺が一個持っておけばもう誰もこのアイテム獲得の為にここに来る必要は無くなる」
内野がそう言うと、黒幕は少し声のトーンを下げて「なるほど……」と言う。
そして少し言葉を考えた後に内野を諭す様に語り掛ける。
「確かに『色欲』なら複製出来るよ。でもね、必ずしも人を生き返らせる方がプラスになるとは限らないからね。
それを複製するには西園寺君は魔力MAX時に7割ぐらいの魔力を使わないといけない。つまりその分彼はスキルの練習も、魔力水のストック作りも出来ないという事になる。
前回の戦いで大量にQPを使った人が多いから、今は魔力水は貴重だ。だから生き返らせる人物によってはプラスマイナスでマイナス側に傾く事もある」
「……」
西園寺には、黒幕にこのアイテムを貰ってくることは言ってある。
そして万が一の時はこのアイテムの複製をしてもらっていいかと許可も取ってある。
彼はその時笑顔で良いよと言ってくれたが、それが彼に迷惑をかける事になると思うと内野は反論出来なかった。
黒幕の語りは止まらず、黙っている内野に話し続ける。
「君らの最終決戦は5ターン目の王との対峙、そこが終着点。それまでに如何に君達プレイヤー勢力がどれだけ強くなれるかが肝になる。言わばそれまでの時間は育成期間だ。
有能な者を見極め、その者を強く育て、友情を築き、時には生き返らせ……こうして有能な者達ばかりが揃う軍団を君達は作らないといけない。
さっき育成期間って言ったけど、選別期間と言った方が正しいかもね。
その『超蘇生石』は有能な人材が死んだ時に使う物、絶対に手放したくない人材に対して使うべきだ」
「……確かにそうだな。
西園寺にも迷惑かけるだろうし、これは軽い気持ちで使って良いアイテムじゃない。
でも……俺がこれで生き返らせるのは俺の心の支えになってくれる人達だ。俺に戦う理由をくれる人達だ。
このアイテムを使う相手は、俺が前に進むのに絶対に必要な人達。居ないと俺が進めなくなる支え。
だから……絶対にマイナスにならない」
「……へぇ、それってつまり」
「これの複製で発生するマイナスを、俺の活躍で打ち消してプラスにしてやる」
さっきまで西園寺への迷惑の事を考え悩んでいた内野だったが、決意を決めた今はそんな雑念は頭になかった。
今はいつになく自信に溢れた顔になっている。
その内野の代わり方に黒幕は喜び、楽し気に問いかける。
「なんか急に自信が湧いてきた?」
「川崎さん、田村さん、西園寺、梅垣さんだとか……頼れる人達に褒められたのを思い出して、それと一緒に自分の価値も思い出しただけだ。
そんなマイナス程度に打ち消されるほど俺の価値は低くないって」
別に称賛の声を浴びて調子に乗っている訳では無い。
この発言をしている最中だって期待に応えられないかもしれないと不安だって多少はあった。
でもそれ以上に、自分が頑張ればどうにかなるかもしれないという過去の実績から生み出された自信の方が強かった
黒幕はふよふよと上下に動きながら、楽し気に話す。
「いいねそれ、自身が溢れてる人を見るのは嫌いじゃないよ
ふふ……確かに複製で発生するデメリットなんて君が頑張るだけで打ち消せそうだ。傲慢な発言だけど自分の力を正しく認識しているから悪くない。
なら見せてよ、その自信が作り出す結果を。
……そろそろ時間だ」
内野の身体から青色の光が現れた。まもなく転移が始まり現実世界に戻る事になる。
黒幕は最後にアドバイスを口にする。
「ちなみに『超蘇生石』を所持している事はあまり人には話さない方が良いよ。
ターゲットとして殺されたのに、それを使われなかった死者が「自分はそこまで大切に想われていないんだ……」って思っちゃうかもしれないから。
人の心ってセンシティブだから、そういうのも気を使ってあげるとリーダー力が上がると思うよ」
「随分と人の心に詳しいんだな」
「君らよりも知的生命体歴長いから」
今回のこれで色々な事を知れたので運を100にして良かったと思えたが、新島達は変な意識を植え付けられていると聞かされ悩む所もあった。
それに自分に『強欲』を移植したという謎の人物についての疑問も残っていたので心は晴れていない。
(俺に大罪スキルを与え、新島達に俺を守らせるように細工をした奴……そいつは一体誰なんだ?
プレイヤーの味方って事しか分からないが、だとするとそいつはどういう立場なんだ。スキルを移植させる力を持ち、黒狼とも顔を合わせていて、人類の味方である者……全く正体が想像できないな)
内野の身体は青色の光で明るくなっているも、その疑問の闇は晴れなかった
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