第287話 ラスボス登場?
使徒討伐後、しばらくこの場で待機という命令が出た。
そして一同は二択の選択を迫られる。
このままクエストを続けるか、撤退するか。
魔力を使い果たしている者達は当然撤退の方を選択し、まだ余裕がある者達は戦闘続行を選択した。
だが、これはプレイヤーの話だ。
覚醒者はまた少し別であった。
現在待機時間中、覚醒者達はこのまま戦うか撤退するか迷っていた。
しかし今回、帯広のみは撤退出来ないと予め田村から言われていた。今回のクエストのターゲットだからだ。
帯広はプレイヤーではないので、ターゲットだとかクエスト関連の用語を出せないので説明は強引になったが、とにかく撤退は不可だと伝えられた。
帯広はさっき死にかけたので逃げたいという思いがありながらも、逃げられないので心細い心境を埋めるべくと友を探す。
そして最初の友、加藤と七海と合流した。
「二人共……良かった、君も生き残れたんだね」
「うん。数発喰らって瀕死状態になっちゃったけど、ちょうどそのタイミングで助けが入ってね。自己再生の時間が出来たからなんとか生き残れたよ」
「私は多分プレイヤーの人に守られてたのかな?
なんか私の目の前でレーザーが弾かれて消えたんだよね」
七海はプレイヤーに守られ無事。
加藤も再生スキルのお陰で無事。
だから今一番ボロボロだったのは帯広であった。ターゲットである彼はプレイヤーから『ヒール』を掛けてもらい身体は綺麗であるも、服はびりびりに破けている。
「あの強いモンスターがあそこで消えてなかったら、今頃絶対死んでいたよ。レーザーを剣で弾いてガードはしていたけど、直ぐに壊れちゃってね。
……はぁ…正直死ぬかと思った」
魔物が消えたというのは、内野が使徒と3対1に持ち込んだ所だ。
田村の通信は使徒討伐部隊のみ、もしくはプレイヤーの無線にのみ入る様に切り替えられる。
だから内野がその作戦を行った事などは覚醒者の彼らは知らない。
ただ急に飛ばされ、無線でどうにか耐えろという指示が出ただけだ。しかも彼らはプレイヤーを視認できないので、覚醒者達にとってはあの場において無力な者しか居ない様に見えた。
本当はプレイヤー達が全魔力を使い抗っていたのも、加藤以外の覚醒者はそれを視認出来ない。
だからこそ、ここから発生する問題があった。
加藤はそれに気が付いていた。
「俺の読みが正しければ、きっと問題はここからだ」
「ここから?窮地を脱した所なのに?」
「え!?まだ敵いたりするの!?」
帯広と七海が口を合わせて驚きながら周囲を警戒する。
だが加藤が言いたいのはそういう窮地じゃない。
「いーや、問題っていうのは組織の運営としての問題だ。
俺はプレイヤー方達が必死に抗って俺達を守ろうとしてくれたのをこの目で見れた。だけど皆は違うだろ?
きっとあの空に浮かんだ時も人が全然いなくて誰も何も出来なかった様に見えたはずだ」
「そうですね、存在は分かっていても見えないから一人でいる気分になり心細かったです」
「俺達はまだプレイヤーの人達がしてくれた事を知っているから大丈夫だが、他の奴らは違う。きっと今回の一件で彼らの事を信用出来なくなるんじゃないか?
きっと今回のこれで相当な数の脱落者が出る、身体の負傷じゃなくて心の負傷のせいで」
加藤は横目で同じ覚醒者達の顔を見る。
皆酷い顔で撤退の方向へと向かっている。顔だけ見ても分からないが、絶望を味わい心が壊れた者も大勢いるだろう。
この3人がいま正常な状態でここに立っているのは奇跡と言うべき事だ。
七海は出来るだけ皆に不安が伝染しない様に明るく振る舞うも、心の底には恐怖は変わらずあった。
「……私は運が良かった、だから生きられた。もしもプレイヤーが私の近くに居なかったら、絶対に私も死んでたもん。
なんか……自分が今ここに立ってるのが不思議な気がしてならない」
七海だけではない、帯広と加藤の二人にも恐怖はあった。
少しでも運が悪かったら死んでいたと思うと、足が竦みそうになる。
でも自然と3人は今こうして一人で立てている。それだけで帯広は十分だった。
「……こうして生き残れてるだけで良い、あったかもしれない自分が死んだ世界なんて見たくないし考えたくないですね」
「……だな。仲良し三人組が生き残れたって事で今は進もう」
「うん!まだまだ魔物は現れるもんね!気合を入れて頑張ろう!」
絶望に心染まる覚醒者達が大半の中、彼らは3人で希望を伝染し合って己を動かした。
加藤という、覚醒者一の戦力にして唯一スキルを持っている者。
帯広という、恐怖に心染まっても仲間を思い戦い続ける者。
七海という、気配り上手で周りの者を癒し不安を消す者。
3人はプレイヤー達から見ても良いトリオに見えた。
使徒を倒してから数時間が経過した。
今回のクエストでの死者数は、クエスト終了数分前にして約400人、これまでの十数万人が死んだ魔物災害とは違い数だけ死者数だけ見れば被害はとてつもなく小さかった。
だが、魔力の使徒が与えた心の傷の数はもっと多い。
高レベルプレイヤー、新規プレイヤーだとか関係なく心に深いトラウマを埋め込んだ。
被害としては小さいが、戦力は確実に低下したと言える。
内野達は残りのクエストはまったり魔物を狩り過ごした。
魔力も皆そこまで余裕が無い。内野は使徒討伐時にかなりQPも使ってしまったので魔力水も慎重に使用していった。
そして何事もなくクエスト終了の時間はやってくる。
この7時間よりも最初の1時間の方が体力を使ったので、疲労感はずっとあまり変わらない感じがする。
内野は仲間に囲まれながらも、自分のステータスを見ながらクエスト終了を迎えようとしていた。
内野は今回手に入れたスキルを見ている。
_________________
〈スキル〉
〇死回生lv,4(20)
〇魔圧砲lv,4(000000)
〈パッシブスキル〉
・魔力放射能耐性lv,4
_________________
結局この時点で効果が判明したのは『死回生』だけ。
名前的にもしやと思い死体がある場所でこのスキルを使ってみると、負傷していた自分の身体に死体の血肉がくっついた。
使徒の時は元の姿が骨だったので違和感はなかったが、血に染まった魔物の肉が張り付く感覚が気持ち悪かったので直ぐにそれは取って『ヒール』をかけてもらった。
恐らくこのスキルを使用するのは緊急時だけだろう。
『魔圧砲』は消費MP表示がバグっており、試しにスキル使用してみても何も起きなかった。魔力消費も無く、何も起こらない。
だから謎が解けるまでは放置だ。
そして『魔力放射能耐性』というパッシブスキルは名前からは効果が分からず、試しようが無いのでどうしようもない。
実質今回の使徒に対する『強欲』で手に入ったスキルは全て使えないという結果になった。
だが、使徒から得たものはまだある。それは少人数でボスを討伐すると購入で出来るアイテムだ。
_____________________________________
魔力のタレット 必要QP100
『死から逃れる為に人の身を捨てた者が作り出したタレット。
自分が設定したスキルを射出可能なタレットを自由に動かせる。タレットに対してスキルを使用すると設定可能』
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これは内野・進上・西園寺・川崎の4人が購入可能になったアイテム。
大罪3人は今回のクエストで魔力水にQPを消費し過ぎたので購入しなかったが、進上は物は試しとこれを購入してみた。
すると現れたのは、魔力の使徒が死体から作り周囲に浮かべていた手だった。
その手は自分の周囲5mぐらいまでは自由に動かせ、説明文の通り試しにこの手にスキルを使ってみるとそのスキルを覚え、任意のタイミングで使用が可能だった。
設定するのにスキル一回分の魔力が必要な上、このタレットがスキルを使用する際の魔力はその者の魔力なので中々扱いは難しそうである。進上の持っているスキルだとあまり有用な使い方は出来ないと思われる。
今、内野の前には瀕死の魔物を数体並べられていた。
今日はまだ一回『強欲』を使えるので、この魔物達を呑み込んで強くなろうとしている所だ。
いずれの魔物もそこそこの強敵で、川崎・平塚・西園寺・涼川の4人が協力してそれぞれ持って来てくれた。
その4人が監修しているので魔物が逃げる心配も、暴れて止められないという心配も無い。
内野が今からそれらの魔物を呑もうとしている光景を見ていた一同だったが、松野がここで一言疑問を述べる。
「お前の闇ってさ、別に呑み込む数に制限無いんだろ?
ならさっき倒した魔物30匹ぐらいとかも全部呑み込んじゃえば?」
「ほら、一回目のクエスト終了時に黒幕が言ってただろ。大罪スキルを酷使し過ぎると死ぬって。だからこの5匹だけにした。(181話)
……そういえば松野が来てから、俺って『強欲』を必殺技的な感じで強敵戦にばかり使ってたな。複数の魔物を呑み込むのは黒狼と戦った時以来かもしれない」
そう自分のスキルの欠点を言いながらも、内野は5匹の魔物の中心に行く。
そしていつも通りスキルを使用する。
今回3回目の使用なので頭痛が起こるだろうと覚悟をしながら。
だがスキルは不発に終わった。
一同その不発に首を傾げるも、内野は直ぐに犯人が分かった。
「……おい、お前だな」
「……」
『哀狼の指輪』こと黒狼の仕業だ。
前は一言喋ったりしたが、最近はもう特に何も言わないしスキルを勝手に使ったりもしない。
ただの外れない呪いの指輪として指に馴染んでいたが、ここにきて妨害をしてくる。
だがもう黒狼が意味無く妨害をしてくるとは思えない。きっと何か理由があるはずだと内野は思い尋ねてみる。
「もしかしてこの数でも呑み過ぎって事?
……仕方ない、2体ぐらいでやるか」
と、ササッと3体の魔物を殺してからもう一度『強欲』を使用してみる。
だがまたしても不発。
なので一匹だけに絞ってスキルを使用してみるが、またしてもスキルは発動しない。
どうやらこれ以上スキルを使ってはならないみたいだ。
これには流石に内野も頭を抱え、黒狼に話しかける。
「なぁ…どうしてスキルを使わせてくれないのか教えてくれないか?前みたいに喋って教えてくれ、じゃないと分からん」
「あと一回でもスキルを使うとヤバイって事?」
工藤がそう言うと、新島は少し捕捉をする。
「スキルを使う事自体が駄目なのか、スキルで魔物を呑むの駄目なのか……どっちなのかによって今後の動きはかなり変わってくるね。
もしもスキルの使用自体が駄目なら、今までみたいな作戦な感じではもう使えないよ。今回の狼煙代わりとかにね」
「それは辛いな……そうなるとただステータスが高くてスキルを沢山持っている普通のプレイヤーじゃん」
「その二つを両立できるのは君ぐらいだから、普通ではないけどね」
西園寺の言う通り、高ステータス+多種多様な高レベルスキルを所持しているという面で内野は既に突出していた。
内野は5つのステータス全て400越え。一つのステータスを400に上げるのに約100SP必要で、そのSP獲得の為には20レベル上げねばならなかった。
つまりこの5つのステータスは、レベル100まで全てのSPを割り振ってようやく辿り着ける領域だった。
そしてその上、内野は高レベルスキルを多数所持している。
この二つを両立出来る者が他にいないのは自明の理であった。
結局今日は3回目の『強欲』使用は諦める事になった。
黒狼は何も喋らず、語り掛けるのも面倒になったのでクエストが終わるまで適当にガードレールに腰を掛ける。
クエスト終了まで残り10秒なので、適当に空を見てその時間を過ごす。
内野は皆を自分の力で守れて誇らしかった。
あの感情が無くなる特殊な力で、前回と違い自分の心が傷つかない結果に終わって安心していた。
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そして内野は気が付けば白い空間にいた。
そしてその場所にはいつも通り黒色の弾と黒色の椅子があり、そこに自分含めて7人が座っている。
内野達の口元には黒い霧がかかっているので声は出せない。
今日一度も目撃証言が無かった椎名も普段と変わらぬ様子でそこにいた。
いつも通りここで少し黒幕が話して終わるのかと思っていたが、今回は何やら雰囲気が少し違かった。
「今日も普通に結果だけ言って終わるつもりだったんだけど、君達に言いたい事があるって人が居てね。今から彼に会ってもらうよ」
(言いたい事?会う?)
一体誰が来るのか見当もつかずにいると、この部屋中に一瞬ノイズが走る。
そして男性か女性か子供か大人か分からない無機質な声が響く。
「君達を呼び出したのは私だ。
私の名は……名などいいか、私は君達の敵とだけ言っておこう」
プレイヤーの敵であり、黒幕がこんな所に呼ぶ人物など一人しか思い浮かばなかった。
(もしや……こいつがもう一人の黒幕!?)
内野だけではない。
この場にいるほとんどの者がその声の主がもう一人の黒幕であると察した。
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