第286話 彼こそ最強のプレイヤー
以前内野は清水に聞いた。
怠惰グループで清水以上に1対1が強い者はいるかと。
そこで清水は川崎の名を出した。魔物と魔力の出し惜しみをしない彼が最強だと。
そして今、内野達はそれをこの目で見て確信した。
一戦に全てをかける彼に勝てる者は他にいないと。
使徒は4本の腕でレーザー、水流、バリア、ウィンドなどのスキルを使い抵抗するも、川崎の絶え間ない攻撃に何も出来ずにいた。
巨大な腕が川崎の身体から生えて来て、使徒はそれを防御する。そこまでは良いのだが、その後直ぐに巨大の腕から他の魔物の腕が更に現れ、背後から攻撃してくるのだ。
頭を無くしたのが仇となり、使徒は背面からの攻撃を防御出来ない。
なので使徒は離れようとするも魔物の腕から魔物の腕が更に出現し、闇の鎖の様に連なった腕は使徒を掴んで離さない。
そして一度触れれば最後、触れた手から塗本が現れフルパワーで殴ってくる。
使徒は目が一面にしかなく頭が一つしかない。
それに比べて川崎には塗本という使徒のステータスを持ち人間の頭脳を持つ魔物がいる。彼も加われば頭二つ。
そして他の魔物達も各々で思考して行動する。
戦況の情報処理能力の差は歴然だった。
川崎が戦闘開始してほんの数分で魔力の使徒の身体はボロボロになり、もう上半身しか残っていない。川崎もたった数分で何千ものMPを使ったが、能力上自分が多少離れて回復する事が可能なので今もそこそこ魔力は残っている。
使徒は腕も全て破壊され、相変わらず契りの指輪はその身体に付いている。
決着はあっけなくついた。
逃げたり抵抗する術が無い使徒はもう動かない。あとは死を待つのみだ。
この頃には内野の感情が消えるモードも解けており、ただ彼の戦いぶりに感動していた。
それは西園寺・進上・松野も同じで、川崎がプレイヤーの中で最もレベルが高い理由をよく理解した。
そして途中で涼川も到着していた。魔物に足止めされていたがようやく全員倒し終わり駆けつける事が出来たという。
彼女も皆と同様にこの戦闘を観客の様に眺めてた。
西園寺は同じ大罪である彼に称賛の言葉を述べる。
「はは……接近戦が苦手な使徒だったとはいえ、そんなにボコボコに出来ちゃうんだ。『怠惰』、使いこなせばそこまで恐ろしい力になるんだね」
「今の数分で魔力を合計7000以上使ったし、かなりの魔物のストックも消えた。
まぁ、燃費は悪い戦い方だがいざって時には何者にも負けんな」
川崎はそう言いながら、上半身だけの使徒の身体を引き摺り内野の前にまで持ってくる。彼が何を言おうとしているのか分かり、内野は尋ねる。
「いいんですか?俺が『強欲』で呑んじゃっても」
「塗本の魂を乗り移る力が無くなった様に。植物の使徒の生物を暴走させる力が無くなった様に。
恐らく俺がこいつを『怠惰』で呑み込んでも無尽蔵の魔力と言う使徒の特性は無い。
なら、俺がこいつを仲間にするよりも内野君が呑んだ方が良いだろう。
それにこいつの首を取れたのは、間違いなく君のお陰だ。こいつの力は君が使うと良いさ」
「……分かりました」
内野が頷くと、川崎はボロボロの使徒をポイッと足元に投げる。
内野はその使徒の目を見ながらも『強欲』を使用する。
仲間の安否確認では出来ていないが、確実に多くの犠牲者が出た。
大量の死者を出した使徒だが、今の無残にも抵抗が出来ない身体となった使徒を見ると怒りが多少薄まり、憐みの感情さえも湧く。
(お前は確かに強かった。俺と西園寺と進上の攻撃を防ぎながらも指輪をいくつか外す事が出来ていたし、お前によって起きた被害からも、これまでの使徒と比べても強い方だし脅威だった。
でも、それ以上に本気を出した川崎さんが強すぎた。相手が悪かったな)
闇を出すといつも通り頭痛に襲われるも、使徒は暴れる事なく闇へと呑まれていった。
クエストが開始してまだ経過した時間は50分だが、既にこの時点で内野達は今日の全ての力を出し切った気がした。
内野は後ろに倒れ眠りたい気持ちを我慢し、インベントリを開いて使徒が呑まれて死んでいるかどうかを確認する。
_______________________
【レベル102→112】
MP 1034→1114
物理攻撃 426→501
物理防御 394→496
魔法力 316→520
魔法防御 353→498
敏捷性 327→429
運 20
【スキル】
・強欲lv,9 ()
・バリアlv,4(50)
・毒突きlv,2(20)
・火炎放射lv,5(90)
・装甲硬化lv,5(25)
・吸血lv,1(10)
・独王lv,7(140)
・ステップlv,1(5)
・ストーンlv,3(30)
・マジックショットlv,10(200)
〇死回生lv,4(20) NEW
〇魔圧砲lv,4(000000) NEW
【パッシブスキル】
・物理攻撃耐性lv,7
・酸の身体lv,3
・火炎耐性lv,5
・穴掘りlv,10
・MP自動回復効率lv,4
〇第三者視点lv,4
・魔力放射能耐性lv,4 NEW
_______________________
能力とレベルが上昇し、新しいスキルも手に入ったので使徒を殺せたのは確定だ。
新しく『死回生』『魔圧砲』『魔力放射能耐性』というスキルが手に入っていた。
何やら『魔圧砲』の消費MP表示がおかしな事になっているが、今はそれを確認する前にやらねばならぬ事がある。
内野は川崎の皆の状況を尋ねる。
「それで……向こうの状況はどうでしょう」
「俺は急いで指輪を拾ったから、向こうの状況はあまりよく分かっていない。でも中堅プレイヤー以上の死者はそこまで多くは無いだろう」
川崎の言葉の裏を返せば、中堅以下の者達が沢山死んだという事だ。
それはもうあの空中にいた時点で分かっていたし覚悟は出来ていたが、それでも皆同じ宿で泊まった中だ。たとえそこまで絡みが無かったとはいえ平気な訳がない。
でもそれを引き摺ってうじうじと下を見続ける程、内野の心も弱くない。
「……次の使徒が出現する時間になる前に帰りましょうか」
こうしてプレイヤー達は、魔力の使徒の初見討伐に成功した。
決して少なくない犠牲の上でだが……
今回のクエストに参加していた人数は強欲137人、怠惰149人、色欲135人、憤怒159人、嫉妬143人、暴食120人、傲慢113人、覚醒者150人の計1106人。
プレイヤーはそれぞれのグループにつき3割程死亡した。いずれもほとんどが新規プレイヤーである。
そして今作戦に参加していた覚醒者150人のうち、79人が死亡し残り76人と作戦開始前の半数以下となってしまった。
クエスト開始1時間にして合計死者数300人以上だ。
どのクエストでも新規プレイヤーの生存率は低いものだったが、今回以上に低い事はなかった。
無線が回復したので内野達は使徒討伐の報告を行い、皆がいる海岸沿いにまで戻ってきた。
そこに広がっていたのは、クエストが起こる度に避難地点で見た光景。大勢の負傷者達が運ばれ、寝かされている光景だった。
使徒討伐の歓迎ムードはとてもじゃないが作れない。
内野の知人達は全員命に別状は無さそうであった。プレイヤーはもちろん、覚醒者であり今回のターゲットでもある帯広も無事だった。
パッと見だが、まだ7時間もあるこのエストに居残れるであろう者は少ない。
内野の作戦の陽動で魔力を使い果たし、残り魔力が枯渇しているのだ。
その状況を見て、川崎は田村に指示を出す。
「『ヒール』を使うのは心がまだ折れていない者だけにしたい。
それ以外の負傷者はクエスト範囲外に運んで、30分後に行動を再開しよう。田村もこっちに来れるか?」
〈『メテオ』の連発で魔力は枯渇していますが……魔力水を使えばどうにか〉
「今日はもう単純なレベル上げだけだから問題無い」
田村は「了解」と返答した後に皆に指示を出し、全員で負傷者とリタイア者をクエスト範囲外へと運ぶ事になった。
ただ、そこに神妙な面持ちの平塚がやってきた。
内野・川崎・西園寺・涼川とこの場に大罪がほとんど揃っていたので、いないのは嫉妬の高木と傲慢の椎名の二人だけだ。
嫉妬の高木はというと、相変わらず愛する者の近くにべったりとイチャイチャしている。現在は膝枕をしている最中だ。
一同そんな彼女に呆れるも、今は平塚の話を聞くのが優先だった。
「少し話がある……異常事態が起きた」
平塚はそう言うと『使徒の羅針盤』を手に出す。
今は生きている使徒が1体、そして内野の『哀狼の指輪』にも反応しているので針は2つだけ動いている。
特に異常は見当たらない。
一同は平塚が何を言いたいのか分からず頭に?マークを浮かべる。
すると平塚がさっき起きた異常事態とやらについて説明する。
「今はもう1時間経過し新たに使徒が出現しておる、だからこの数で合っているじゃろ。
じゃが……さっき内野君が使徒と共に転移して行った時、この羅針盤に反応が3つあった」
「「!?」」
それを聞いた一同は驚く。時間的にそれは絶対におかしいからだ。
内野が使徒と共に転移した時、あの段階ではまだクエスト開始から1時間も経過していなかった。
だから本来は魔力の使徒と内野の指輪の2つしか反応が起こらないはずなのだ。
それなのに3つも反応があったとなると、考えられる事は一つ。
その予想を川崎は口にする。
「……最後の使徒。
他の身体に魂を移せる力を持つ使徒は既にこっちに来ているという事か。使徒出現の時間関係無く」
これまで倒した使徒の力の消去法で、最後の使徒は『怠惰』の所の使徒で、他の身体に魂を移せる力を持っていると考えられる。
だが分かっているのはそれだけだ。
『使徒の羅針盤』でもこれまで一切反応が無く姿形どころか場所さえも全く分からなかった。
しかし今、平塚のお陰で初めてその使徒の謎に迫れる事が出来そうであった。
「平塚さん、その時に針は何処を刺していましたか?」
「それがのぉ……妙なのじゃ、絶対に有り得ないはずなんじゃ。
使徒が居た方向は儂らと同じく海、まるでその使徒も奴の転移に巻き込まれ空中に浮かべさせられた様な場所から反応がしたんじゃ」
「っ!使徒の姿は!?見えましたか!?」
「いや、姿は分からなんかった。
その方向にいるのはいずれも儂ら同様に転移させられたプレイヤーと魔物のみ。数匹魔物の姿は見つけられたが使徒らしき敵はおらんかった。
その反応があったから、儂は落下しながらもその方向にいた魔物を全て殺したが……全員あっけなく殺せたぞ。
使徒がいる方向は確かに示されたのに、そこに使徒がおらんという訳が分からない状況で儂も少し困惑しておる。
ちなみに針の反応があったのは1分ぐらいだけじゃった」
平塚の話からもう使徒の特定が出来なさそうであったが、川崎は頭の中で一つの仮説を思いつく。
そしてその仮説をあってる前提として思考を巡らせていくと、川崎の中でそれが確信へと変化していった。
「普通ならおかしい状況だが、有り得なくはない。敵が魂を他の身体に移せる使徒ならばな。
というより、この仮説ならこれまでそいつが羅針盤に反応が無かった事にも多少の説得力が付くから…………確定だ」
「あら、何か分かったの?」
涼川と同じ事をその場にいる全員が聞こうとしていた。
川崎は一呼吸置いてから、頭に浮かんだ考えを述べる。
「使徒はプレイヤーの中に紛れている。自分の魂を移してな」
塗本という例から、乗っ取った身体の記憶が手に入るというのは分かっている。
だから使徒が人に紛れて過ごす事など容易に出来る。塗本が言われなければ魔物と分からない様に。
仲間の中で疑念の種が芽生えた。
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