第285話 闇の恐怖再び

祝!今話にて100万文字達成!

二周年と同時に迎えたかったですが、合わせる事は出来ませんでした

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(数分前)

川崎達の援護もあり、使徒は海面に向かう内野達には気が付かない。

全員が必死に陽動の為に魔力を使っている。

一斉に上からプレイヤー達の様々なスキルが撃ち降ろされ、使徒からは上に向けてレーザーが放たれる。

その光景はまさしく戦争であった。

銃弾が飛び交う様に様々なスキルがその空を覆い尽くす。


そしてそんな景色を尻目に見ながら、内野は海面へと着いた。

水中へと入る瞬間に新島と工藤は氷柱から離れる。だから今氷柱に乗って水中を潜っているのは内野一人のみ。

内野は自分にバリアを張ってあったのでその中には水を通さず、バリア内に残った空気で呼吸が可能。

工藤はそのままさっき内野に指示を出された通り、水中から使徒のいる元へと氷柱を向かわせる様に操作する。


工藤からは見えないが内野を乗せた氷柱は水の中でも直進し続け、遂に内野は使徒がいる堤防の下へとたどり着いた。

そして以前事故でスキルレベルマックスまで上げてしまった『穴掘り』スキルで地面を掘り進み、使徒がいる所の真下にまで移動する。

工藤から魔力探知効果が付与された兜を貸してもらっている上に、『第三者視点』で地上の様子が見える。

だから迷わず使徒の真下の地にまで来れた。

この段階でバリア内に残る空気はかなり減っていたが、残りの作業は直ぐに終わる。


『ストーン』で小さな石を数十個を出し、それに西園寺から貰った強力接着剤をべたべたに塗って『契りの指輪』をくっつける。

そして接着剤を出したら、それが乾燥して固まる前に内野は使徒の地を削り顔を出し、その『ストーン』を飛ばす。

これで3つの指輪はべったりと使徒の身体に付着した。石は内野がスキル使用解除すれば完全に消えるので、指輪と使徒の身体を阻むものなく接着剤が作用する。


そして使徒は一手遅れて転移を使用した。





この作戦が成功し、内野は進上・西園寺と共に使徒との地上での戦闘に持ち込んだ。

お互い逃げの手段無しのデスマッチだ。


(作戦の第一段階は成功、奴に三つの指輪を付ける事が出来た。

作戦の第二段階は、新島と工藤がさっき俺が使徒に撃ち外した契りの指輪を頼れるプレイヤーに渡すという所。

これで相手がもう一度転移を行った時、更に味方を増やしての戦闘が可能になる。

だからもう俺達がやるべき事はたった一つだけ……)


「攻めまくる!絶対に使徒に指輪を外す隙は与えない!」


西園寺と進上の奇襲で使徒の腕は初期状態の4本となった。

内野は元々自分に向けられていたレーザーを『ゴーレムの腕』と張ってあったバリアで防ぎ、距離を詰める。

奇襲を仕掛けた二人もそのまま追撃に移ろうとしたが、流石の使徒もそのまま良い様にはされない。


身体を翻しながら4つの手から水流の渦巻きを発生させ、3人ともその水圧で吹き飛ばされる。


内野も後ろに飛ばされるも、『ブレードシューズ』で地面に刃を刺して地から足が離れるのを防ぐ。

常に攻め続けねば相手に退路を作ってしまうので、内野は足の力だけで態勢を維持し、手を使徒に向ける。


「『マジックショット』!」


スキルを使用すると魔力の大きな弾が使徒へと迫る。

相手に恐怖を与える力を持っている使徒から手に入れたレベル最大のスキルなので、使徒は一本では足らないと二本の腕を使いこの攻撃を防いだ。

さっき飛ばされた西園寺もスキルで遠距離攻撃を行ったので、そちらにも腕を一本使う。

ただ、使徒は残りの一本の腕で指輪を取ろうとしている。


「させない!」


飛ばされるのを防ぐ術がなかった進上は、後方に飛ばされながらも『フレイムチャージ』で炎を纏った槍を投げて使徒の腕の妨害しようとする。

しかし距離があったせいで使徒は態勢を低くしてそれをひょいと避ける。


だが、その槍の進路の先には内野がいた。

内野は進上が投げた槍の持ち手を片手でキャッチし、勢いを殺さぬままブレードシューズの刃を軸に回転して使徒に投げ返す。

進上のスキルの炎が内野の手にかかるも、『火炎耐性』+高ステータスの内野には少し熱い鉄棒を触ってる程度の感覚だ。


まさかの二段階槍投擲に、使徒はもたまらず最後の一本の腕を使いガードする。使徒は頭が二つあり、前面と後面を両方同時に見れたのでその槍をギリギリの所でガード出来た。

ここまで使徒に大した負傷は与えられてはいないが、これで良かった。

時間を稼げば『契りの指輪』でリンクする者が増え、使徒と戦うメンバーが増えるから。


この3人なら使徒に指輪を外す隙を与える事なく猛攻を浴びせ続けられると、同じ事を一同思いながら戦う。

使徒は多彩のスキルで3人を引き剥がそうとするも、『独王』で三人ともステータスは強化されているので、大したダメージを与える事も出来ず、距離を離す事も出来ずに時間だけが過ぎる。


そして1分程経過した所で、使徒は思わぬ行動に出る。

なんと双頭のうち片方を腕で握りつぶし、その骨粉から腕をもう一本作ったのだ。しかもその頭は『契りの指輪』を付けていた方の頭で、これで相手についている指輪は2つになってしまった。


その腕は出現するや否や重力低減のスキルを使用する。

突然の重力の変化に、動き回り陽動していた3人の動きは途端に鈍る。

足を踏み外してしまい地面を思う様に蹴れない。


内野は『ステップ』で宙を蹴って移動し、西園寺は前回戦闘した使徒から構想を得て設計していたスラスターで移動する。


だが使徒も『ウィンド』で空中を移動して距離を取り始め、動きが鈍った3人は使徒の逃走を許してしまった。

そして使徒は装着していたローブを外す。

このローブは相手のスキルの威力を低減させるものであるが、このローブに契りの指輪が付いているので、使徒はこれを外す選択をした。

そして使徒に着いている指輪は残り一つとなってしまった。

最後の指輪は肺骨の裏側に付着しているもの。あれが取れたら再び使徒に転移での逃走をされてしまう。


だから3人は必死になって使徒を追い駆けた。

内野は『ステップ』で、西園寺はスラスターで敵を。


一方、機動系のスキルを所持していない進上は何も出来ずにいた。


(う……僕じゃ何も出来ない!あの距離じゃ武器を投げて先ず当たらないし、なにより二人の邪魔になる……一体どうすれば……)


進上は自分に出来る事が無いと悟り、唇噛みながら使徒のいる上を見上げる。

だがそこで、進上の目の前に青い光が発生した。

今日何度も見た転移の光だが、その光からは魔力水をがぶ飲みしている松野が現れた。


松野は『テレポート』連発でここまで来たのだ。使徒と違い魔力が無限にある訳ではないので魔力を回復しながらでなければならないが、今は速さ重視でここまでテレポート数回連発してきた。

ピンポイントでここまで来れたのは、周囲の建物が壊れ景色が開けていたからである。


「進上さん!タッチ!」


「っ!」


松野は説明する間もなく進上に手を伸ばす。

進上も当然やってきた彼が何をするつもりなのかは分からなかったが、今自分に出来る事は彼に従う事しかないと思い、彼の手に触れた。


「『テレポート』!」


二人で手を繋ぐと松野は再びテレポートを使用した。

すると進上とリンクしている内野が、そしてその内野とリンクしている西園寺と使徒の身体も光だす。

ギリギリではあるが使徒はまだ最後の指輪を外し切れていなかった、だからこの転移に巻き込まれる。


松野は使徒も一緒に転移の光に包まれている事に安心し、笑顔を浮かべる。


「良かった……どうにか間にあった!

ここからは作戦の最終段階だ!」


そう言っている内にその場にいる4人と1匹は、松野が指定した場所へと転移して消えた。



転移先は山間部近くの、今はもうプレイヤーが居ない場所だった。

その場所に4人と1匹は転移したが、内野の傍にはさっきまで居なかった者がいた。


「最後まで尻ぬぐいを君達にやってもらうつもりはない。ここからは俺に任せてくれ。もう出し惜しみは一切無しだ」


内野の契りの指輪とリンクしやってきたのは川崎だった。

使徒はこれ以上助っ人が現れるのを恐れて転移を行っていなかったが、代わりに松野が『テレポート』を行って、助っ人集合のトリガーを引いたのだ。

これは内野が予め新島と工藤に伝えておいて、松野に伝言してもらったから出来た事である。


川崎は転移される前から準備完了しており、転移してきた瞬間に闇から魔物の触手を出して使徒を掴む。

そしてその触手から更に他の魔物が闇と共に現れる。

炎を吐く魔物、凶暴な魔物が角を突き刺し突進、怪力の魔物が殴りつけたり、多彩な攻撃が浴びせられる。

使徒は触手に絡まれた一瞬のうちに全身をボコボコに打ち付けられた。


4人は川崎の登場に歓喜するも、内野はひとつある事に気がつき警告を出す。


「川崎さん!使徒の肺周りの骨に着いている指輪は壊さない様に……」


「大丈夫だ。だから俺が一人で来た」


川崎の返答に一瞬理解が追い付かなかったが、本来の作戦を思い出せば何となく彼が言っている事が分かった。

本来、ここの転移でやってくるのは一人ではなく数人だった。

内野が使徒へ射出し外した契りの指輪は7個なので、最大ここに7人来る事が出来たのだ。

なのに今、ここに来たのは川崎一人のみ。つまり6個の指輪は余っている状態にある。

そしてその6個の指輪を現在所持しているのは……川崎だ。


「いけ!指輪を付けろ!」


川崎のその命令と共に、川崎の出した触手から魔物が大勢現れて使徒の身体中に6つの指輪は張り巡らされた。

あるものはワイヤーで関節部に引っかかり、あるものはさっきの接着剤でくっつき、あるものはゴブリンが器用な手先で上手い事骨に引っ掛けた。


頭、胴、脚部、と上から下まで全ての部位に指輪は付けられた。

もはや使徒が戦闘をしながら自身の身体から全ての指輪を外す事は不可能に近かった。

逃亡出来る可能性としてあるのは、使徒とリンクしている内野を殺して逃げる事ぐらいだ。

だが内野もそれを理解してたので、さっきの特攻とは違い防御姿勢へと入る。

現在戦闘していないであろう工藤や飯田達から『独王』で防御力をもらってきたので、現在の内野の物理防御と魔法防御は1000越え、通常の2.5倍ぐらいになっていた。

もはや川崎との戦闘の片手間に内野を殺すなど、身体から指輪を外す事以上に不可能であった。


川崎は状況の見込みが早い内野に改めて心の中で称賛を送り、使徒へと最後の言葉をかける。


「指輪が全部壊れる頃にはお前の身体は全身骨粉になっているだろうな。

いくぞ骨粉野郎、もうここらに死体は無いからな」


使徒が人や魔物問わず転移させたお陰で、ここら辺にはもう使徒の回復手段となる死体が無い。

クエストで続々と魔物が湧いているので生きている魔物はいるが、川崎と向き合った状態で魔物を殺し吸収する暇など作れるわけもない。

そして死体がある場所にはさっき自分が浮かばせる為に集めた大量のプレイヤーがいる。

その中には大罪もいるので、そこに逃げるという事も使徒には出来ない。


使徒は知能がある魔物故に、目の前の闇を纏う者がこれから自分を呑むのだと分かってしまい、長らく忘れていた恐怖を思い出した。

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