第279話 死空の降下作戦

使徒による転移スキルが発動する直前、内野達は使徒がいるとされる場所から青い光が迫って来ている事に気が付いた。

何のスキルなのかは分からないが相手が仕掛けて来たものに違い無いと、盾持ちの飯田は全員の前に出て『大楯』という大きな魔力の盾が出現するスキルで皆を守る。


「っ!駄目だ!透過する!」


だが使徒に仕掛けられた青い光はその盾や建物全てを透過し、皆の身体に触れる。そしてその光に触れた順に転移が行われた。真っ先に転移させられたのは盾役で前に出ていた飯田だ。


後方にいた者達は飯田のその様子を見て直ぐに近くの者に触れてはぐれない様にする。

内野もその中におり、近くにいた新島と梅垣の身体に触れる。

何処に転移するかは分からないが、今触れる事が出来なかった全員と離れ離れになる事も考慮し、内野は何人かには『バリア』を張っておいた。

彼らの生存率が上がる事を信じて。


「っ!皆絶対に生きて!」


そして内野、新島、梅垣の3人は一緒に転移の光に呑まれていった。




次の瞬間、慣れない浮遊感を感じた。

内野達は高度1㎞の高高度に転移させられたのだ。下には海が広がっており、さっきまぜ自分達がいた所も余裕で見れる高度である。

だがまるで重力が軽くなったかの様に落下スピードが遅かった。


上空から落下する時の浮遊感は訓練のお陰で慣れてあったが、この妙な重力下での浮遊感は何やら違和感だらけで気持ちが悪かった。

内野は手を繋いで共に転移した新島と梅垣が横にいるのを確認してから、更に周囲へと目を向ける。

よく見ると離れた場所でも自分達と同じく上空に転移させられた者がおり、その数は全6グループのメンバーほど居た。


そこで内野の中にある考えが生まれたのと同時に、田村から通信が入る。


「全グループ上空に転移させられました!

相手は無限魔力の使徒、何を仕掛けてくるかは分かりませんが皆さんは耐えて下さい!」


(やっぱりそうか!俺らだけじゃなくて全グループ転移させられたんだ!

でもどうして上空に?相手の狙いは一体……)


内野は下を見て使徒を探すも、その姿は見えない。

皆、この時点では相手の狙いも姿も分からず、ただ下を見て落下を待つしかなかった。


ただそこで、一体の魔物の透明化が解除されていく、その魔物の姿が目に映る。

周囲にも魔物がいるが一体だけ明らかに異質な魔物がおり、一同一目でその魔物が使徒だと分かった。


人型ではあるが2つの龍骨の頭を持ち、腕が4つ、足が4つ生えている。

全長3メートル程なのでごくごく普通の魔物の大きさで、まるで二体の生き物の身体が融合したかのような見た目である。

しかも黒色のローブを着用しており、ただの知能が無い魔物とは一線を画す見た目である。

そして今、その魔物は海岸沿いに立って上を見上げている。


その使徒に皆が視線を向けていると、使徒の3本の腕から赤い大きな光が現れる。

その光は瞬く間に上空にいるプレイヤー達に向けて射出された。

あまりの速さに光が軌跡を描くので、まるでレーザーが発射されたかの様に見える。

そしてそれも数発じゃなく、数百もの赤い光が3本の腕から絶え間なく射出される。


内野はすぐに手を繋いでいた二人を引き寄せて『バリア』を張って防ぐ。

数百発も射出しているので一個一個の威力は恐れる程ではないが、それは高ステータスで防御スキル持ちの内野だけ。

特に何も持っていない者達にとっては十分脅威になり得る威力であった。


「俺の『バリア』なら防げる……『ステップ』で空中を動いて他の人達と合流しましょう!」


「そうだな。『嫉妬』と『暴食』の二人は大罪スキルで確実に下に降りれるから、あの二人があの使徒に絡んでくれるまでは俺達は防御に……」


梅垣が作戦を口にしている最中、田村からまた通信が入った。

そしてその通信の内容は、現在に上空にいる者達から希望の活路を奪い去る。


「『暴食』の涼川と『嫉妬』の高木のみ地上の離れに転移させられました!

二人が使徒の元に到着するまで3分、どうにか耐えきって下さい!」


偶然とは思えない。

魔力消滅の空間を作り出す『暴食』と絶対防御壁を作れる『嫉妬』が偶然別の場所に転移されたなど。

魔物がこっちのスキルについて熟知しているとしか思えない。


梅垣はその通信を聞き、さっき語った作戦を撤回して内野から手を放す。


「っ……状況が変わった。この猛攻を3分も耐えられる者はほんの少数しかいない。

そうなったら立て直すのに時間が掛かり過ぎる。

俺は『ステップ』で敵の攻撃を避けながら下に降りる!君達はどうにか他の者達と合流し耐えててくれ!」


「はい!」


梅垣はそう言い、急降下していった。

『ステップ』で華麗にレーザーを避けながら順調に降下出来ている。


こうして周囲には内野と新島だけになったが、そこでさっきから黙っていた新島が内野に情報を与える。


「今梅垣さんと同じく下に向かったのは……あそこにいる川崎さんだけ。ちなみに平塚さんはあっちで、西園寺君は向こうにいる。

全員闇を出してたから大罪の場所は分かり易かった」


「お前…もしかして俺が梅垣さんと話している間もずっと周囲の事を見ててくれたのか?」


「攻撃は全部君のスキルで防げるって思ってたからね。私は私に出来る事をしてただけ。

この状況じゃすぐにヒーラーと合えるとは思えないし、大罪の人には出来れば負傷してもらいたくない。だから先ずは平塚さんか西園寺君の所に向かうのが良いと思うんだけど、どう?」


「だな!俺も『ステップ』を使うからしっかり捕まっておけ!」


新島のお陰で他大罪の位置が分かり内野は直ぐに動き出せた。

先ず向かうのは西園寺の元。一瞬闇を出して何かを作ったらしく、新島がそれを見逃さなかったので彼の場所を空中でも把握出来た。


西園寺は前も使っていたスナイパーライフルを手にしており、それで今地面にいる使徒を狙撃しようとしている所であった。

だが随時ビームが飛んで来るので、中々狙いを定めるのに手こずっている様子だ。


「西園寺!俺の『バリア』をやる!」


「……痒い所に手が届く、助かるよ」


どうにか『ステップ』で内野は西園寺の元にまで辿り着き、既に自分で纏っているバリアの中に西園寺を入れる。

これでもう彼のスナイプを妨げるものはない。


西園寺はここぞという良い所でやってきてくれた内野に関心しながらも、自分の仕事を果たす。

西園寺は数秒で狙いを定め、そして撃った。


前回よりも全長が長いスナイパーライフルとなっており、その弾速も前回より遥かに高かった。

弾は西園寺が『ストーン』で生成したもので、その弾は飛んで来るレーザーを正面から消し潰していく。

スキルは基本的に圧縮して小さくなるほどその強度と威力は上がり、そのお陰でレーザーをものともせずに弾は高速で使徒に向かって行く。


使徒はその弾の危険性を察知したのか、さっきまで空にいるプレイヤー達に満遍なく3本腕から放っていたレーザーのうち一本の腕を完全にこちらに向けて来た。

流石にレーザーを多数向けて防衛されると、西園寺の弾は破壊されてしまった。

だがその間、他の所に飛ぶレーザーの数が減っているので無駄ではない。


「流石に攻撃は届かないか。でもあの使徒、僕の攻撃だけで一本こっちに腕を使わざる得なかったみたいだ。

田村さん、皆に連絡お願いします。遠距離攻撃手段があって、尚且つ余裕がある人は使徒へ攻撃してと」


西園寺のその無線を聞き入れた田村は直ぐにその旨を空中から落下中の一同に伝えた。

ただそんな余裕がある者などまだ居ない様で、西園寺の他に攻撃を加える者は居ない。


「内野君、さっき急降下してったのは梅垣さん?」


「はい。そして川崎さんも魔物を出して急降下していったみたいです」


「なるほどなるほど。じゃあ二人の為にも少しでも敵の気を引かないとね」


今も梅垣と川崎は高速で敵の攻撃を避けながら降下している。

二人以外にも空中機動は出来る者はいるが、二人みたいに自ら敵に向かいながら攻撃を避けるのは難しく、今は上でレーザーをいなすのに精一杯であった。



降下して1分経過。

未だ内野達の足は地に足付く気配は無いが、希望が完全に無い訳ではなかった。

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