第278話 大罪全滅!?
クエストが開始し魔物は普段通り現れる。
だが今日は普段よりも遥かに静かだった。
耳をつんざく人の悲鳴、サイレンの音など不快な音が減っていた。
それに街が血塗れになる事もなく、普段よりも遥かにプレイヤーの集中を切らすものはなかった。
現在使徒の方向が分かる『使徒の羅針盤』から使徒の位置を割り出しドローンで偵察している所で、それを待っている間は周囲の魔物を狩っていた。
内野は久々の静かなクエストに過去のクエストの事を思い出す。
「こうも人が居ないと……異世界でのクエストの雰囲気に似てる感じがしますね。思えばあの時は人からな少なかったですし」
「だね。特に最初のスライムのクエストの時に似てる感じがする」
進上とそんな思い出は話に浸りながら魔物を狩っている状況で、出現している魔物が弱いので余裕があった。
新島と松野は戦闘能力に不安はあるが、他メンバーは戦力として申し分ないので特に誰も負傷はしていない。
周囲の魔物を一通り一掃した所で全員のイヤホンに田村からの指示が届く。
「最初に出現した使徒の座標を割り出しドローンで偵察させた結果、相手の姿は確認出来ませんでした。
相手が建物に潜んでいるという可能性もあり、戦艦と爆撃機の砲撃でそこら一帯の建物を破壊出来るので1分後に実行してみます」
普通は使徒に不意打ちで『メテオ』だとか強力なスキルで攻撃すべきだろうが、重要人物の大罪が6人も前に出る以上、安定を取らねばならない。
そこでクエスト範囲外からの戦艦の砲撃ならば、魔物に撃沈される事なく、プレイヤーの位置を捕捉される事なく安全に相手の姿を確認出来る。
そして使徒が現れた場所が幸い海沿いだったので、今回はこっちの手法を取った。
今の無線を聞き、工藤は眉を顰める。
「使徒とかって名前出して大丈夫なの?これ一般人に聞かれたら力剥奪とかって事に……」
「田村さんが指示の無線を飛ばしている所にはプレイヤーしかいないみたいだから大丈夫らしい。
てか今度からはこの砲撃にもスキルの弾を使う様になるかもな。西園寺設計の大砲みたいに」
「良いわねそれ!弾がスキルで生成したものなら相手へのダメージも期待出来るし」
ここに来て新たなアイデアが浮かんだが、今はそれよりも砲撃の結果の方が気になるので、一同は高い建物に登りその効果を見る。
時間になると爆撃機が接近してくる音がする。
クエスト範囲の高度は3㎞なのでそれより上からの高高度爆撃になるので、かなり上の方にその機体が見えた。
そしてその機体だから黒い粒々が落ちて来たかと思っていると、その黒い物が地面に落下した瞬間に大きな爆発と爆風が発生した。
そしてそれと同時に戦艦からの砲撃も行われた。
今更ただの爆発で腰を抜かすほどプレイヤー達の度胸は軟弱じゃない。
一同その爆発のした方向を、まるで花火を見るかの様に眺めている。
そして内野は自分が所持している『使徒の羅針盤』を見て使徒がいる方向を田村に共有し待機する。
そして5分も経たずにイヤホンに指示が入ってくる。
「数十機のドローンで偵察しましたが、やはり座標に使徒はいませんでした。
この事から隠密スキルで隠れているか、もしくは地中に潜っている可能性が高いです。
やはり使徒に動きは見られないので、6グループで囲んで追い詰める作戦へ移りましょう。各々常に『使徒の羅針盤』を監視する役を一人作り行動しておいてください。
皆さんの位置情報はイヤホンのGPSでこちらから監視できるので、進行度合いの調整はこっちの指示で行います」
使徒の正体は掴めなかったが、作戦実行の指示が出される。
それを聞いた内野グループは全員気を引き締め、使徒のいる方向へ進行した。
6人の大罪が率いる6グループが同時に使徒のいる場所へと迫る。
彼らが通常の魔物にやられる事は先ずなく、多少足止めを喰らうぐらいなのであまり田村から指示を出す事はなかった。
田村がいるのは覚醒者支援隊の為に作られた一隻の戦艦の一室。
西園寺が育てている双子の命名で勝手に「希望丸」という名前が付けられた戦艦だが、全長200m以上と立派な戦艦である。
この戦艦の目的はあくまで覚醒者の支援であり、今回の様に大きな砲撃で邪魔な建物を一掃する為に巨大放題が設置されている。
制止した状態でしっかりと狙いを定めないと先ず目的の場所に当たらないが、人との戦争に使うものではないのでこれで良い。
そしてその戦艦にいる田村含めた10人のプレイヤーは情報を集め、彼らに指示を出していた。
今回のメインは使徒討伐だが、その少し離れた箇所では弱い覚醒者達も戦っている。彼らの事も蔑ろにせず、強敵の情報を集めそこに中堅レベルのプレイヤーなどを送ったりしていた。
今回最も重要視されているのは、使徒討伐体の邪魔になる範囲に彼らが行かない様に誘導する事だ。
激しい戦闘をしている内に気が付けば知らない場所まで移動していたなんて事はざらにあるので、そうならない様に彼らは常に全員の位置を監視しておかねばならない。
現在最高指揮官役として大罪達を導いている田村はそれだけで手一杯なので、他の者達の事など知らない。
ただ全員の位置が表示されているデジタル地図の6つの点の塊を見ていた。
(いよいよ使徒がいる位置1㎞の範囲に入りますね……そこら一帯は爆撃で建物が崩れているから良く見渡せるでしょうが、目視での確認報告は未だ無いと。
進行の速さは問題無い。地中にいるのか隠密で隠れているのかは分かりませんが、このまま詰めれば謎の解明は出来そうですね。
ここまで近づく事が出来れば川崎さんが魔物を直接偵察させ、使徒を暴くことが出来る。
そしてそこで出てくるのが『怠惰』側の使徒か『暴食』側の使徒かで前線に出るメンバーは変わる。早く使徒の正体を暴ければ良いのですが……)
田村はじっとモニターに表示されるGPS情報を見ている。
そしていつ川崎から連絡が来ても良い様に無線に出る準備も出来ていた。
クエストは開始してまだ15分程しか経過していないが、次の使徒出現までに倒せるのがベストなのでまったりしている時間は無い。
適度な緊迫感があり田村の頭は普段よりもよく回った。
この役割の重要性も分かっていたので油断などしていないし、モニターから目を離したつもりなどなかった。
だがたった一瞬の瞬きの内に、使徒を中心に1㎞範囲内にいた全てのGPS反応が消えた。
一瞬目を疑ったが、確かにそこにはさっきまでの6グループのGPS反応は無かった。田村の脳裏には一瞬大罪全滅の文字が浮かぶも、すぐにその考えを振り払う。
「ッ!」
(ぜ、全滅!?いや、大きなこの広範囲にいる全員を一瞬で倒すなんて不可能……もしや……)
一体何が起こったのか直ぐには分からなかったが、GPSを凝視し確認して、彼らがとある場所へと移動したのが分かった。
だがその場というのは……
「……海上!?」
6人の大罪が率いる6グループのメンバーは、なんとこの戦艦近くの海域に転移していた。
そしてここで川崎からの無線が入る。
田村は止まらぬ冷や汗を拭う暇なくその無線に耳を傾ける。
「転移スキルで全員上空に転移した!海の真上だ!
そして今回の使徒は『暴食』の魔力を際限無く使える使徒だ!」
無線越しの風音が大きいので声は聞きとりにくかったが、これで答え合わせが出来た。
使徒を中心に1㎞という超広範囲に転移スキルが使われ、そして精鋭メンバー達が全員海の上空へ転移したのだと。
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