第275話 避けられるのは傷つくよ

本来はこれから予め決められた班に分かれて行動する所だったのだが、そこでドローン操作隊から「全ての魔物が消えた」と報告を受ける。

川崎が『シャドウコート』を使い姿を隠しながら行動し、全ての魔物を回収したのだ。早めに人々を避難させ軍を動かすという目的を果たせたから。


そして西園寺は「全覚醒者は一週間ぐらいここらで待機しよう」と指示を出し、覚醒者達は魔物が出現した地域の空きホテルで過ごす事になった。

プレイヤー達以外から見たらまだ何時いつ魔物が現れてもおかしくないという状況なので、現在ホテルにいる力を持たぬ人間は数人の覚醒者達支援部隊の者だけである。


内野は4人部屋に泊っており、松野・梅垣・中村が同室で過ごしている。そこらのコンビニやスーパーから盗ってきた飯を食べている最中である。


だが適当に飯を食べながら話をしている所で、ベランダからコンコンと窓をノックされる。

ちなみにこの階は4階なので本来なら心霊現象か何かと勘違いしそうではあるが、内野はこの音の原因は分かっているので特に驚かずにベランダのカーテンを開ける。


「よっ、久しぶりだな」


「お久しぶりです川崎さん!」


窓から入ってきたのは川崎だ。

ホテルの入り口には監視の者がおり、覚醒者として名乗り出ていない川崎が見つかると厄介なので内野の部屋のベランダからやってきたのだ。

川崎は靴を脱いで部屋へと上がり他の3人とも挨拶し、予め準備されてあったスリッパを履くとそのまま廊下へ出ようとする。


「それで集まる場所は何処だ?」


「平塚さんの503号室です。

川崎さん、急遽大罪を集めて話したい事が出来たって聞いたのですが…一体何の事ですか?」


「それは向こうで話す、着いて来てくれ」


本来今日川崎と合流する予定は無かったが、昨日ロビーから帰ってきた所で川崎が突如大罪メンバーを集めて話をしたいと連絡してきた。

田村や一部の怠惰プレイヤー達はその内容を知っているので、恐らくロビーに転移した時に川崎が何かに気が付いたのだろうが、どんな話なのか内野には全く見当は付かなかった。


取り敢えず内野は川崎と共に平塚の部屋へと向かう。

すると二人が到着して時点でもう既に他の大罪4人揃っていた。

だが大罪だけを呼んだだけなのに、それ以外の者が2人もその部屋にはいた。


西園寺と平塚は良いとして、『暴食』の涼川の近くには宮田という変態ストーカーがおり、『嫉妬』の高木は俊太という溺愛している男がいる。


川崎はその二人を見て、頭を掻きながら高木を見る。


「俺は大罪メンバーだけで話したいと言ったはずだが…まぁいいか、どうせそのこ二人にも近い内にする話だったろうし」


「まさか私が一人で来ると思ったの?残念、私はしゅん君から1メートル離れると死んじゃうから無理よ」

「すみません川崎さん、が一緒が良いと言うので来てしまいました」


予想通り俊太は高木に無理やり連れて来られただけの様で、常人な思考ができる彼は川崎に頭を下げる。

ここ数日のホテル暮らしで、彼が苦労人あるという事は良く分かった。高木は俊太以外の者に不敬な怠惰を取ってしまった時などは後でこっそりと謝りにきたり、どうにか高木を抑えようとしている様子が伺えた。


川崎はいちゃいちゃする高木と俊太を見た後に、涼川と宮田に目を向ける。

涼川は自分と変態ストーカが今の恋人同士でイチャイチャしている高木と俊太と同じような関係だと思われるのが嫌で、直ぐに声を荒げて説明する。


「勘違いしないで!私はそこの二人とは違うわよ!?

こいつ勝手に付きまとってくるだけで私は突き放そうとしてるのよ」


「スズちゃんが夜中に平塚おとこの部屋に入っていく姿が見えたから、スズちゃん護衛団の隊長として居ても立っても居られなくてね。

それで部屋に突入してみたら他の者達もいて、まさかの5P会場かと…」


「ほら、こいつ狂ってるでしょ。説明しても言う事を聞かないし、もう面倒だから大人しくここに居させようと思ったの」


相変わらず「スズちゃん大好き」というハチマキを頭にしている変態の異常性は健在で、彼女もまた苦労人であるのだと分かった。


まだ内野と川崎は部屋に入ってきて立ちっぱなしだったので、平塚は家から持参した座布団を二人へと渡して座らせる。

川崎は大罪以外の二人がここに居る事は特に咎めず、内野と共に座布団に胡坐をかいて話を始める。


「それじゃあさっさと本題に入ろう。

俺が昨日ロビーでナクビを出して判明した話だ」


そこから川崎の口から説明されたのは、相手が7つの世界だという衝撃的な話だった。

それぞれの世界の特徴だとかを話されるとその話の信憑性はかなり高くなり、話を聞いた全員は揃ってその話を信用する。

一通り話終えると、川崎が本題に入る。


「そこで問題なのは、この事実を何時いつ、誰に話すかという事だ。

今はまだ新たな暮らしになって心が落ち着かない者もいるし、最近になってようやく覚醒者達の育成も整って来た所だ。

そこでこの話をし不安を与えて水を差すのは得策とは思えなくてな、かと言っても俺一人じゃ今の皆の心境など把握しきれないし、そこで皆を頼りたい」


「俺達が各々の判断でその話を皆にするって事ですか?」


内野の言葉に川崎は頷く。

するとそこで俊太といちゃいちゃしている高木が面倒臭そうに足をパタパタさせながら口を開く。


「そんなに絶望的な事なの?別に使徒の数が増えるって訳でも無いんだし、そこまで絶望する事なんて無いでしょ。面倒だしさっさと公表しよ」


「そう楽観的に捉えられる者ばかりなら良いのだが、そうはいかないだろう。

プレイヤーになった者の6割は魔物に殺され、2割は精神的に病んで戦闘不能になる。現在戦えている残りの2割の者達の中にも精神が疲弊しきっている者も多くいるだろう。

そこで敵の物量の底が見えないなんて話をしたら、勝機の道が見えなくなりダウンする者が現れるだろう。

彼らに今ダウンされるのは困る。今後のクエストに備えて頭数を揃えたい所だし、覚醒者の教育にも人が必要だからな」


覚醒者を教育して才能ある者を見極め、その才ある者を『狩人の招待状』でプレイヤーにする。

それを繰り返す事で確実に戦力を増やしていくのが川崎達の計画の一つであるので、それに支障を来す事はしたくない所であった。


「だから儂らの判断でこれを話す者を決めろという事じゃな、納得じゃ」

「ま、絶望が深いほど僕が希望としてより強く輝けるけど…僕もそれに賛成だ。闇雲に明かすべき話じゃないね」

「私もそれで良いわよ、変な混乱が起きると面倒だし」


平塚・西園寺・涼川が賛成し、内野も無言で頷く。

最後に川崎は高木の方を見る。だが彼女は大罪であるにもかかわらず全部の選択を俊太に委ねる様に彼の目をじっと見る。

二人は暫し目を合わせると、彼女に代わり俊太が決断する。


「ぼ、僕も賛成です」


「そうか、それじゃあ各々この話は信用できる者にだけ話してくれ。俺は一通り顔見知りメンバーに顔を合わせてから外に出て、引き続き適当な所でクエスト発生まで過ごす」


話を終えると川崎は座布団を平塚へと返し、部屋を一番に出て行った。それに続いて次々と他の者達も部屋を後にする。

内野も部屋を立ち去ろうと平塚に座布団を返そうとした所で、部屋のドアがガチャリと相手何者かが入ってくる。


入ってきたのは平塚と同室で過ごしている牛頭と笹森だった。

この部屋のシャワーが壊れていたので二人とも他の部屋で風呂を借り、大罪の話し合いが終わったのを廊下から見計らって部屋に帰ってきたのだ。

風呂上りの二人は濡れた髪をタオルで吹きながら部屋に入ってくるが、まだ室内に内野がいたとは思わず、内野と目が合うと少しびっくりする。


ただ牛頭は内野が部屋にいるのを確認すると直ぐに目を逸らす。内野に好意を持って照れているだとかではなく、純粋に避けているという反応だ。

と言ってもこの避けられる反応は今に始まった事じゃない。2回前のクエストで内野が使徒に身体を乗っ取られた笹森へ酷い言葉を浴びせた時以降、彼女は内野を避け始めたのだ。

だからホテルで何度顔を合わせても、彼女は絶対に目を合わせて来ないし、挨拶などもしてこない。

そこまで露骨に避けられると流石に傷つくが、内野は自分がした事を考えると嫌われても仕方ないと思い、無理に彼女と接するのを避ける様になっていた。


二人がそんなギクシャクしてる関係だと言うのは笹森も知っているが、彼女は、明るく笑い内野に話しかける。


「あっ、まだ内野君残ってたんだ。ちょっと入って来るのが早かったかな」


「いやいや、俺ももう帰る所だったから大丈夫。平塚さん、座布団ありがとうございました」


「気にするでない。それよりも…良い機会だからこの場で君と話をしようと思うのじゃ、少し残ってくれぬか?」


平塚にそう呼び止められたので、内野は何の話だろうと疑問に思いながらも再び座布団に座る。

まだしばらく内野がこの部屋に残ると分かり牛頭はそそくさと部屋を出て行こうとするが、そこで平塚は内野だけでなく彼女も呼び止める。


「待つんじゃ一咲、話というのはお主ら二人の事じゃ」


「ッ!余計な世話すんなじじい!」


「はいはい、そこ座ろうね一咲」


平塚に逆らい一咲は逃げようとするが、横に居た笹森に肩を優しく掴まれ止める。

そして笹森に強引に連れられるままに一咲は内野の横に座る事になった。彼女は不服そうな顔をしながら、一向に内野と顔を合わせようとしない。


二人を座らせる事が出来たので、平塚は用件を話始める。


「仲良くしなさいとは言わぬが、まだお互い真に心の内を知れておらぬ状態で不仲になるのは勿体無いと思うのじゃ。

どうじゃ一咲、どうして彼を無視するのかここで話してみては」


「はっ…言えるかよ」


「言わねば伝わらぬぞ。一咲もこれからずっとこの調子で彼を避け続けるのはしんどいじゃろ…今ここで終わらせようとは思わぬのか?」


一咲はどうして内野を避けるのか口にするか迷う。

一体どうして彼女が自分を避けるのか内野は知りたかったので、内野ともしてもここで全て話してもらいたかった。

だが無理強いは良くないとも思っており、彼女に強く言葉を掛ける事は出来なかった。


それを見て平塚は内野に一声かける。


「内野君、君もどうして欲しいのか口にしてみたらどうじゃ。

気を遣うのは良い事じゃが、やっぱり君はもう少し我儘になってよいと思うのじゃ」


平塚にそう言われ、内野は今なら踏み出せなかった一歩を踏み出せる気がした。

彼が背中を押してくれた今なら少し我儘になれる気がした。


「…じゃ、じゃあ牛頭。どうして俺を避けるのか話してくれないか?もう避け合うのは疲れた、ここで終わらせたい」


「…分かった、分かったよ…話すよ全部。

簡単に言うと…私はアンタが怖かったから避けてたんだ」


一咲もついに全てを話すつもりになったらしく、最初に自分の本心を語った後に詳細の話をしていった。

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