第268話 戦慄の恐怖映像
時計の針が0時を越えて日が変わった時、同じ部屋の内野と松野はベッドで寝ながらも話をしていた。
「なんか眠れないな…こんなに心地良いベッドなのに」
「さっきから色々話してるからだろ?」
「ほら、やっぱりこういう時って恋バナだろ?普通に寝るなんて勿体ない」
「これから毎日一緒に寝る予定なのに何が勿体ないんだよ。まぁ…気持ちは分かるけどさ、明日7時には起きて8時には訓練に向かうんだぞ?早く寝ようぜ」
「いいだろ~1時間ぐらい大丈夫だって」
松野はどうしても恋バナをしたいのか、中々話すのを止めない。内野も普段は1時ぐらいに寝ているので、少しだけならと寝る体勢を変えて松野の方を向く。
「で、どうしてそこまでして恋バナをしたいんだ?」
「そりゃあお前と新島さんの話を聞くためだろが。両親に孫の顔を見せろと頼まれたお前が今後どうするのか聞きたくてな」
松野にあの両親との会話を聞かれたのは失敗だったと思うも、内野には新島に対して一つ思う事があった。
「…好きって何なんだろう」
「おいおい恥ずかしがるなって。俺はあの時の会話全部聞いてたんだから別に隠す事は無いだろ」
「いや、そういう訳じゃなくてだな…
新島に対して抱く感情は、工藤とか他の子に対して抱く感情とは違うっていうのは自分でも分かってる。でもこれが本当に恋愛感情なのかっていうのが分からないんだ。
新島が俺の家に泊った時に色々話してさ、それで俺は強くなってあいつを守らないと…って思った。でもそれって恋愛感情より使命感の方が強い気がしてきて…」
「ああもう、お前こじれた考え方してんな。
彼女に守らなきゃって使命感が湧いた時点で好きって感情確定って事で良いだろ!」
「そうか……まぁ…そうだよな。
正直新島が好きなのはもう新島が俺の家に泊りに来た時から分かってたし、その時抱いた感情は絶対嘘じゃないよな。
でも俺はまだあいつの考えを変えられてない。自分の命を投げ打ってまで他者を助けようと、俺を助けようとするあいつの考えが変わってない。
…今の新島を変えたいと思っている以上、俺は今の新島に告白なんかしたら駄目な気がする。今のあいつを認めたらダメな気がする」
命がかかっているクエストが絡むせいで、普通の恋愛観でこの感情を考える事は出来ない。そして普通じゃない恋愛観なんてどの本でも学んだ事が無い。だから内野は難儀していた、まるでこれまでに誰一人解けた事が無いパズルを自力で解く様に。
松野もこれはおふざけ半分で返して良い話ではないと分かり、真剣な表情になる。
「そっか、今の新島さんを変えたいのか。そりゃあ時間が必要そうだな…」
「うん。その為には俺が強くならないといけないけど、まだ目標点が見えてなくて底が見えてない感じだから、かなり時間はかかると思う」
「…お前が生きている限り時間はあるし、無理せずじっくり進もう。俺含め仲間はずっとそばにいるからさ」
「だな、ゆっくり考えるよ。んじゃあ次話すのはお前の番だぞ」
内野はしんみりとした雰囲気にならない様、今度は松野の話へと移す。松野もしんみりとした雰囲気で話すのは気が乗らなかったので、この話の転換は嬉しかった。
「俺にもな~実は少しだけ気になってる人がいるんだ」
「誰!?」
「怠惰グループの原井さん、お前も分かるだろ?」
彼女との面識は何度もある。何気に横浜のクエストでも、渋谷のクエストの精鋭メンバーにも選ばれていた女性だ。
ただ内野はあまり話した事が無いので、いつもフードを深くかぶっており寡黙な美人という認識しかない。精鋭メンバーにも選ばれていたので強いのは確かだろうが、あまり戦っている所も見えていないのでその実力もあまり分かっていない。
「あまりあの人の事知らないけど、お前そんなにあの人と話してたっけ?」
「いや、そこまで話した事はないぞ。ただあの人話を聞くと面白い…というか可愛いって思えて来てな。
先ずあの人、人と話すのが苦手らしいんだ。
一回目の現実でのクエストで一番最初に他グループのプレイヤーと交流したのに、ずっと川崎さんにそれを報告できなくてつい最近報告したんだとさ。
それに『次元斬』っていう任意の物を透けて切りたい物だけを切る事が出来るスキルを上手く使いこなせなくて、もう本人はただ「緑色にピカピカ光る明かり」って認識になってるみたい。
それを聞いてさ、彼女の寡黙の美人ってイメージが一気に崩れてそのギャップが俺の胸に刺さったんだ」
「確かに面白い人だな」
「だろ!それに戦闘中は『次元斬』使えないのに、料理の時は上手く使えるんだとさ」
「次元斬をどう料理に使うんだよ。てかそのスキルって確か上位スキルで凄いスキルだったよな?」
「そうなんだよ!上位スキルを家事に使ってるってのがまた萌える!」
その後もしばらく松野は原井の好きなポイントを語り、結局二人が眠った時間のは予定よりも更に1時間遅い時間となった。
当然次の日の訓練は中々苦労したが昨晩は楽しかったので、この生活も悪くないと思え、新生活を好きにもなれそうであった。
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クエストに参加させらている者達の事をプレイヤーと言い、彼らはステータスボードなどを見たりショップでアイテムを購入する事が出来る。
覚醒者とはそのクエストで偶然魔物を殺して力を手に入れた者の事、彼らは一人の例外を除いて全員スキルを所持しておらず、ステータスなどの閲覧も出来ない。
だが世間一般ではプレイヤーと覚醒者問わず超人的な力を持つ者達は覚醒者と呼ばれており、当然このホテルにはプレイヤーではない覚醒者達もやってきていた。
その覚醒者達の筆頭にいる帯広、加藤、七海の3人はテーブルに着いて座っていた。
彼らは最初のクエストで覚醒者になった者達で、唯一プレイヤーという単語を知っている。
詳細な説明がされた訳では無いのでプレイヤーがどうしてあそこまで強大な力を持っているのかは分からないが、深く詮索する必要もそこまで無い為何も聞いていない。ただ西園寺に命じられるままに動いて人々を救う事のみを考えれば良い。
「ここまで周りにプレイヤーがいると思う様に背筋を伸ばせないわね」
「スキルという特別な力を持つ特別な人達…私達よりも遥かに強い人達ですから…」
七海と帯広はそう言うが、そこで二人の視線は加藤に向かう。
加藤は覚醒者で唯一スキルを所持しており、その戦闘能力の高さを西園寺は高く買っている。だから彼はよくプレイヤー達とタイマンで特別訓練を行っていたりする。
「加藤君はプレイヤー以外で唯一スキルを持っているし戦闘が得意だからね、君もプレイヤーみたいな特別な人なんだと思う」
「帯広さん…そんなに褒めないで下さいよ。俺からすると貴方の方が凄いですよ?前回のクエストでも片手にフィギュア抱えながら戦ってたじゃないですか」
「そうそう!皆帯広さんが実は凄い人だって噂してましたよ!」
「からかうのは止めて…ただでさえこれからプレイヤーの皆さんと厳しい訓練があるって言うのに…」
朝食を早めに喰い終わり3人は話をして時間を潰しているが、帯広の顔色は悪い。これから行われる訓練が自分達より遥かに強い者達多数と一緒に行うものだと思うと、どんな厳しい訓練が待ち受けているのかと不安になったから。
予想とは違った。覚醒者達が行う訓練は今日はまだ特に何も変わらなかった。
だがそのすぐ傍では覚醒者達全員の予想を裏切る様な事が起きていた。
それは覚醒者達の前だというのに一切自重しないプレイヤー達の動きだ。
ある者達は模擬戦で高速戦闘を繰り広げており、ある者達はスピード勝負で街をパルクールの様に激しく移動する。
それらの動きはどれも覚醒者達には厳しい動きであった。
「えっと…確か西園寺さんみたいに魔物災害前より力を手に入れた人達が多数いるみたいですけど、あのレベルの人達が数百人もいるんですか…?」
「確かあの人達って魔物災害中は何故か透明になるんですよね?今まであの人達が魔物を沢山狩ってたのか…」
「良いなぁ異能力…あの人達は皆持ってるのに、魔物災害以降力を持った私達で持ってるのって加藤さん以外居なくない?」
「ずっる…と言いたい所だけど、正直くそ頼りになるから安心できるわ」
「あの武器ってどうやって作ったんだろう」
「そこらへんの詮索をしないのがここに居られる条件だけど…超聞きたい!」
加藤達の傍にいる覚醒者達はそんな事を言いながらも、プレイヤー達を目指して訓練を行う。
既に覚醒者の数は100人を超えているので全員に武器を配る事は出来てない。だが武器を振る事のみが訓練では無いので、各々西園寺が出した練習メニューを熟していく。
そこそこ魔物を殺して身体能力が高くなった者達は、その身体の丈夫さを生かして三半規管を鍛えていた。
鍛える方法は…ひたすら建物の屋上から回転しながら落ちるというものだ。
以前内野が行っていたこの訓練方法を見て西園寺が取り入れてしまった訓練メニューであり、覚醒者の間で最も恐れられている訓練である。
帯広達も現在この訓練を行っており、4度目のダイブで頭がイカレて白目を向いていた。
今日はただ回転しながら落ちるだけだが、来週には空中で物を切る練習に移るので、空中での方向感間に意識を集中して建物から飛び降りている。
その映像をある者達がドローンで上空から撮影していた。彼は覚醒者募集のサイト制作を任された者で、訓練映像が欲しかったので今日撮りに来たのだが、恐ろしい映像が撮れてしまい戦慄していた。
「この訓練映像…覚醒者募集のPRには使えないな…」
「うん、こんなの見せたら誰も来なくなるな」
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