第261話 日本防衛覚醒者隊、隊員募集中!
今、国が頼れるのは覚醒者だけであった。
銃弾を撃ちこんでも意味が無い敵もおり、それらの敵に対しての有効的な討伐方法は未だ発見されていない。だから軍隊はそれらの強敵がいては、そのラインより前に出て救助活動は行えない。
これが魔物が消えるまで救助活動を進められない理由であった。
ただ、2度目の魔物災害以降に魔物を自らの手で直接触れてから殺すと超人的な力が手に入るというのが判明し、国はこの力を魔物への対抗手段にしようという意見も出ていた。
だがそのパワーも人という種の中だけでの話。相手が魔物では通常の人間の2倍の力があったとしても、一度の攻撃で身を引き裂かれるのには変わりない。
なので軍人にその力を付与させるという計画を進めるのも難航していた。
だから国としてその力に対して知識があり、何より力を持っている覚醒者の存在は救いの光とでも言えるものであった。
覚醒者のリーダーである西園寺は官僚達と数時間話合い、自分の提案と相手の提案を照らし合わせてようやく話が決まった。
「日本防衛覚醒者隊を正式に日本の隊として認め、国は既存の覚醒者の訓練場所と生活場所を確保する。
そして新規の覚醒者は次の魔物災害までに覚醒者適正を計る試験を行い、クリアした者のみを魔物災害発生区域へと連れて行き力を与える。
日本はこの日本防衛覚醒者隊を支援する代わりに、外交にもこの隊を利用しても良い。
…という話で良いか?」
「はい」
防衛大臣がここまでの話をまとめ、それに西園寺が返事をする。
「外交に利用する」というのは、今後も日本で続くであろう魔物災害で諸国から軍隊を送ってもらったり支援してもらう際に、海外の軍隊達にも覚醒者としての力を与える手伝いをするという交渉をするというものだ。
力の発表は様々な国のトップにはして、彼らが覚醒者のパワーを求めて日本に支援を送ってくれる様に交渉するつもりだ。
言わば覚醒者としての力の付与は、魔物災害が起こる日本にみ使える交渉のカードであるという事だ。この案は川崎と田村が数日前に出してきたものであり、西園寺がこの提案を出したら官僚達は喜々として受け入れた。
これでこっち側の親身な協力姿勢を見せる事が出来た。
目的も果たせ、慣れない交渉にしては十分な結果である。
交渉を終え、一時休憩の為に4人はソファーのある客間に案内された。
もう既に時刻は22時を過ぎているが、この後西園寺と内野は大臣達と共にテレビで正式に日本防衛覚醒者隊について公表しなければならない。
会見場の準備が整い次第開始されるが、至急用意している様なので日を跨ぐ前には始められそうである。
「ふぅ…超疲れた~」
「お疲れ様!」
「ほんとお疲れ。俺はテレポートを疲労しただけだったが西園寺は大変そうだったな。あの堅苦しい雰囲気の中でよくあそこまで話せたよ。本当に同じ年?」
「ピチピチの現役男子高校生だよ。早熟だからマセガキとは言われてたけど」
松野と西園寺の仲は深まっており普通にため口で話せる間柄にはなっていた。
二階堂は女性でどうしてもイケメンの西園寺を意識してしまうのか、少し二人から離れてはいるも労いの言葉をかける。
クエストに続き長い交渉があり西園寺はだらしなくソファーに寝っ転がると、目を閉じて仮眠を取る。
松野と二階堂は眠る西園寺が起きない様にコソコソと話す。
「そりゃあ疲れてるよな…クエストの後にこんなに働いたんじゃ」
「それに今日は使徒との戦闘があった上に、親しい人が殺されてるからね…働きすぎだよ。
あれっ、そう言えば内野君は?」
「なんか西園寺の為に二人で分けられるタイプのアイスを買ってくるって言ってましたよ」
そこで部屋の扉が開いて何者かが入ってきた。
噂をすればなんとやら、ちょうどそこで内野が部屋に入ってきた。だが手には何も持っていない。
「ただいま。外に出ようとしたら職員の人に止められてさ、その人が代わりにダッシュで買いに行ってくれたから後でアイス届くと思う」
「ま、そりゃあ俺らは異能力者だし、少しだけカメラに覚醒者として映ったからな。騒ぎにならない様に会見前に出来るだけこの建物から出したくないんだろう。
…もしてかして今日から自由に外に出られる時間が無くなるのか?」
「あっ!それじゃあマスターの店のバイトに行けないじゃん!」
二階堂はハッとして急いで店のマスターに通話を掛けようとする。
彼女が怠惰プレイヤーのおじさんが経営する店でバイトをしているのは全員知っているので、松野はそれにツッコむ。
「もうこれからは国がお金を出して生活を保障してくれるから、バイトをする必要は無いはずじゃ?」
「マスターって無口過ぎて接客に不安があるから、私が居ないと店を開けられないの」
「ああ…お金の問題じゃなくてお店存続の危機なんですね。それ店として大丈夫なんですか…?」
「う~ん、大丈夫とは言い難いね。食べ物の味は良いのに店の見た目とマスターの接客態度のせいで評価2.3だもん。
魔物災害で物理的に店が潰れる前に普通に潰れそうだよ」
そんな冗談をいいながらも3人は休憩時間を過ごした。
途中で『足立 恭介』という若い官僚の人が「異能を使った分のエネルギーを補給してください」とズレた事を言ってアイスを多めに10人分買って来たのを3人で頑張って食べ。
突然の会見というのに、色んな局のカメラマンや記者で会場の座席や通路は人で溢れ返っている。
そしてその前方の壇に今、防衛大臣が上がる所だった。
魔物災害と今話題になっている覚醒者について話されるとしか記者達は聞いていないので、これからどんな事が話されるのか分からずにいた。
そして防衛大臣が口にしたのは、西園寺との話で取り決められたことであった。
覚醒者と名乗った西園寺は既に話題の的であり、西園寺も前に出てあの力について説明する。その時に内野も前に出てあの事件の映像に搦めて力を証明した。そして最後に大臣が宣言する。
「我が国は本日より日本防衛覚醒者隊を正式に対魔物災害の部隊として了承する事をここに宣言します!
そしてこれより覚醒者として共に戦う者も募集しようと思います。性別問わず年齢20歳~50歳の者には適性試験を受ける資格を与え、それに合格し入隊した者達の生活を保障し、その者の家族には移住の優先権を差し上げます」
話が終わると一斉に記者達からも質問が飛ぶ。
「それは実質的に徴兵という事でしょうか!?」
「力を持つ者を保護する施設の建設予定は?」
「普通の軍隊と何が違うのでしょうか!」
「西園寺さんの様な力は誰でも手に入るのですか!?」
「その力はどう手に入れるのでしょうか!?」
聞く限り多くが西園寺の持つ力についての質問だが、不用意に口にしては混乱が起こるだけなので、大臣はそこを避けて質問に答えていく。
もしも「魔物を殺したら力が手に入ります」などと口走れば、あの力を映像で目の当たりにした者達が力を求めて魔物を殺しに向かってしまうだろうから。
ようやく会見が終わり帰れるという所で、内野は両親から「今そこの近くにいる」という連絡が届いているのに気が付く。
今日は国が予約を取ってくれたホテルで泊まる予定だったが父の車でもう傍まで来ている様なので、今日は帰れる事になった。
松野も親の車で帰る予定で、内野は松野と共に建物の外に出るとそこには連絡通り父と母がいた。
そして二人の車に乗せてもらったのか、その横には佐竹も立っていた。
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